第1285話 将を射んと欲すれば
飛空艇に注意を引き付けてもらい、ドゥームズデイの右手首を手甲ごと切断することに成功した日向。
ドゥームズデイに斬撃を仕掛けるためにユピテルの背中から飛び降りた日向は、その落下する先に回り込んでくれていたユピテルの背中に再び着地。もちろん、すでに”最大火力”は解除している。
「よし、やった! おかげで上手くいったぞユピテル!」
「ケェェン!」
日向を背中に乗せつつ、ユピテルはドゥームズデイの周囲を回るように飛行。右手を失ったドゥームズデイの様子を窺う。
「さて……狙い通り手甲を破壊したわけだけど、ドゥームズデイはどうなった? 弱体化の一つでもしてくれると嬉しいんだけど」
ドゥームズデイは、日向に焼き斬られた右手を気にしているようだ。『太陽の牙』の炎を受けたからか、切断された手首は治っていない。失ったままだ。
「……いや、違う気がする。アイツの右手が治らないのは『太陽の牙』のせいってわけじゃない気がする……」
日向がつぶやいた。
彼はそのまま、思考を続ける。
思い返してみると、ドゥームズデイは巨大化する前にも日向と日影の『太陽の牙』の炎を受けていた。日影に至っては、大技”陽炎鉄槌”をドゥームズデイの顔面に叩き込んでいた。
しかしドゥームズデイの顔面は崩壊したままではなく、今はちゃんと元通りになっている。恐らく”陽炎鉄槌”のダメージ自体は残っているだろうが、崩れたドゥームズデイの顔の形は修復されたといったところか。細かいが、重要な点だ。
そして今回、日向によって手甲ごと焼き斬られたドゥームズデイの右手は、日影の時とは違って修復すらされていない。
恐らくは「手甲ごと」という部分が肝なのだ、と日向は見ている。ドゥームズデイが乗っていた戦艦と合体してから、ドゥームズデイは巨大化した。初めからそんな強力な能力が使えるのなら、なぜドゥームズデイは最初から巨大化という能力を使わなかったのか。
戦艦と合体してから、ドゥームズデイは巨大化した。
そこに明確な意味があるのだとしたら。
「ドゥームズデイの身を包んでいる装甲、あれがきっとドゥームズデイの巨大化を助けているんだ! たぶんドゥームズデイ自身は身体をあれだけ巨大化させるほどのエネルギーは持っていないから、装甲がエネルギーを増幅させるジェネレーターになっていて、それを通してドゥームズデイの身体を巨大化させているってところかな……」
つまり簡潔にまとめると、ドゥームズデイは身を包む装甲を破壊されたら、巨大でいられなくなるということだ。日向に焼き斬られた右手を再生しないのは、再生できないというより再び巨大化させることができないといったところか。
「今回は末端の手甲を破壊したけど、たとえば肩の装甲を破壊すれば、ドゥームズデイの腕全体が巨大化できずに消滅するのかな」
これは大変有益な情報だ。ドゥームズデイの巨大化を封じることができれば、ドゥームズデイの攻撃力を大きく削ぐことができる。飛空艇をも一撃で撃墜させかねない今のドゥームズデイの火力、それを支えているのが巨大化だ。
「希望が見えてきた! このままガンガン攻めて、どんどんドゥームズデイを弱体化させる! ユピテル、もう少し付き合ってくれ!」
「クァァ!」
日向の言葉に返事をして、ユピテルは飛行速度を上げた。
その一方で、飛空艇の仲間たちも日向と同じく気づいていた。ドゥームズデイの装甲を破壊すれば、ドゥームズデイの巨大化が封じられるという事実に。
「成る程、そういうカラクリだったか」
「つまり、野郎の中心部分でもある胸部装甲をぶっ壊してやれば、身体全体に回る雷電エネルギーが大きく減少して、そのまま一発で巨大化も解除できるんじゃねぇか? それなら狙いは一択だろ」
そう言って、ドゥームズデイの巨大化の核たる胸部装甲を狙う気満々の日影。しかしそこにミオンが待ったをかける。
「落ち着いてちょうだいな日影くん。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』よ。いきなり胸部装甲を狙うのは危ないと思うわ。ドゥームズデイにとって最も重要な部分でしょうし、向こうも警戒するはずよ」
「馬も将もまとめて吹っ飛ばしてやれりゃ良かったんだけどな。まぁ仕方ねぇか。それで、アンタが言う、まず射るべき馬ってのはどの部分なんだよ? 少しダメージを与えている左手甲か?」
「そこは囮に使えると思うから、まだそのままにするつもり。私たちが狙うべきは脚部装甲よ」
ドゥームズデイの脚部装甲は、足裏部分と膝裏部分にブースターがついており、ドゥームズデイの飛行を補助している。これを失えば、ドゥームズデイの飛行能力に大きな制限がかかるだろう。
「どちらか片方だけで構わないわ。脚部装甲を失えば、恐らくドゥームズデイは飛行のバランスも満足に取れなくなる。そこで一気に勝負をかけて、決着をつける。これが私が考えたプランよ」
「良いじゃねぇか、思ったよりシンプルで分かりやすいぜ」
「他の皆も、異論はないわね?」
ミオンがエヴァやシャオランに尋ねる。
二人とも、そろってうなずいた。
そして、この会話をコックピットから聞いていた北園が、ユピテルに乗って飛んでいる日向に”精神感応”を届ける。
(日向くん! 飛空艇はドゥームズデイの左手甲の周りを飛び回って注意を引くよ! 日向くんは飛空艇を囮にして、ドゥームズデイの脚部装甲を狙って! それでドゥームズデイが体勢を崩したら、一気に畳みかけて決着だよ!)
「北園さんの声だ。かわいい。……じゃなくて、プラン把握だ。ユピテル、頼む!」
「ケェェン!!」
ユピテルも北園の声を聞いていたのだろう。すぐに日向の言葉を理解して、ドゥームズデイの右脚に向かって飛んでいく。
宣言通り、飛空艇はドゥームズデイの左手あたりを飛行しており、ドゥームズデイはそっちに気を取られているようだ。破損させられている左手甲を狙われると思っているのだろう。
「よし、おかげで楽に接近できた。ユピテル、またキャッチよろしくな!」
言うと同時に、日向はユピテルの背中から跳ぶ。
そして再び”最大火力”を発動し、横一文字に剣を振り抜いた。
「はぁぁぁぁっ!!」
『太陽の牙』の灼熱の光刃は、巨大すぎるドゥームズデイの脚と比べたらあまりにも短く小さい。しかし、その刀身から放たれた鋭い熱波が、延長された斬撃となってドゥームズデイの右脚を斬り飛ばした。
「RUUUUAAAAAAAA!?」
ガクン、とバランスを崩すドゥームズデイ。
だが、バランスを崩しながらも、ドゥームズデイは近くを飛んでいた飛空艇めがけて、倒れ込むように左の手のひらを突き出した。ただではやられない、執念の一撃だ。
そのドゥームズデイの攻撃に備えて、シャオランが飛空艇の艇頭に立つ。これまでと同じく空の練気法”無間”でドゥームズデイの攻撃を相殺するつもりである。
「来た……! やぁぁぁッ!!」
ドゥームズデイも限界間近。
シャオランは、消耗した身体を奮い立たせて、渾身の右拳を繰り出した。
空気が震えるほどの衝撃音。
ドゥームズデイの左掌は、飛空艇の目の前で止まっていた。
シャオランが相殺に成功したのだ。
……だが、しかし。
「……え? これって、まさか……!?」
シャオランが驚愕した様子で声を上げた。
ドゥームズデイが、予想外の行動を見せたからだ。