第1284話 助け合い、支え合い
飛空艇の甲板にミサイルの弾幕が降り注ぎ、その爆風で日向が甲板から落とされてしまった。
日向の全身を包み込む浮遊感。
ゆっくりと、目の前の飛空艇が遠ざかっていく。
……しかし、その落下はすぐに終わった。飛空艇の近くを飛んでいたユピテルが、すぐに日向を背中で受け止めてくれたからだ。
「ケェェン!」
「うおっと……。ありがとうユピテル、戦艦脱出に続いて、また助けられちゃったな……」
背中からユピテルに落ちてきた日向は、そのまま体勢を変えてうつ伏せになる。そして右手で『太陽の牙』を持ち、左手でユピテルの背中にしがみつく。
「せっかくだユピテル。このまま一緒にドゥームズデイを攻撃しよう。飛空艇と俺たち、ニ方向から攻撃を仕掛けた方が、ドゥームズデイの不意を突きやすくなるはずだ」
「クァァ!」
返事をし、ユピテルは日向を背に乗せて飛空艇から離れていった。
一方、甲板の上の仲間たちは、それぞれ多少のダメージは受けたものの、大きな怪我まではしていなかった。皆、問題なく戦闘続行可能である。
「異能の発動が間に合いませんでした……。皆さん、無事ですか?」
「なんとかな。一発、直撃をもらっちまったが、傷はもう再生してる」
「此方も無事だ。酸を少々浴びせられたが」
「日向くんが落ちちゃったみたいだけど、ユピテルちゃんが受け止めてくれたみたいよ。あっちはそのまま、飛空艇とは別行動を取るみたいね」
「自分の身を守るのに精いっぱいだったから、ヒューガを気にする余裕もなかったね……。ユピテルがいてくれてよかった」
「では此方も反撃といこう。好き放題ミサイルを撃ち込んできた戦闘機連中に目にもの見せてくれる」
本堂のその宣言と共に、皆が一斉に攻撃を開始。さっそく本堂の”轟雷砲”が風天を撃ち抜き、ミオンの”如来神掌”が二機の雷天をまとめて吹き飛ばした。
しかしその裏で、コックピット内で操縦桿を握る北園は、悩ましげな表情を見せていた。
「さっきのドゥームズデイのレーザービームで、バリアーが破壊されちゃった……。再展開はできるけれど、私の精神エネルギーを大量に消費しちゃう。そうなると、このまま飛行を続行できるか怪しいなぁ……」
バリアーを再展開しないという選択肢もあるにはあるが、ここまで見てきたとおりドゥームズデイの火力は絶大だ。先ほどのレーザービームのように、不意を突いて強力な攻撃を命中させてくる可能性もある。
先ほどのレーザービームは、飛空艇のバリアーがあったおかげで命拾いをしたようなものだった。ドゥームズデイの火力は、直撃を一発もらうだけで形勢をひっくり返される恐れがある。保険のためにも、北園はバリアーを再展開したいところだった。
「私がバリアーを再展開させて、そこからアラムくんに操縦を引き継がせるとか? でもアラムくんは、まだ超能力が覚醒したばかりの、言ってしまえば超能力初心者。私よりも、消耗した精神エネルギーの回復は遅いはず。さっき交代したばかりなのに、今からまた代わってもらうのは……」
「……いや、キタゾノお姉ちゃん、それでいこう」
と、北園の後ろから声をかけてきたのはアラムだった。
その瞳は決意に満ちている。
「アラムくん、できるの?」
「あまり無理をせず飛行だけに専念したら、たぶん行けると思う。どのみち、ここが正念場だよ。僕も、子供だからって大事にされたまま勝てるなんて甘い考えは持ってない。これくらいは喜んでやるよ……!」
「うん……りょーかいだよ。それじゃあアラムくん、お願い! 無理そうならすぐにまた交代するからね!」
「わかった! 任せて!」
アラムの提案を受けた北園は、まず操縦桿にありったけの精神エネルギーを注ぎ込み、飛空艇のバリアーを再展開。そしてすぐにアラムに操縦を譲った。
「はぁぁ……疲れたぁ……」
「おつかれー北園ちゃん! 子供たちの指示出しは引き続きワタシが頑張るから、ゆっくり休んでねー!」
「スピカさん……。思ったんですけど、この飛空艇……アーリアの外殻調査船って、どうしてこんな、超能力者のエネルギーを使わないと飛べない設計にしたんですか? この星の飛行機みたいにガソリンとかを使った方が、少なくとも操縦士のスタミナ切れで墜落なんてことはなくなると思うんですけど」
「そりゃあ、アーリア遊星にはガソリンみたいなエネルギー資源がほとんどなかったからだよー」
「な、なるほどぉ……」
視点は変わり、飛空艇の甲板。
北園と操縦を代わったアラムが、アナウンスで甲板の皆に声をかけていた。
『みんな! キタゾノお姉ちゃんは休憩で、僕が操縦を代わったよ! でもあまり無理はできなくて、ミサイルとかはあまり撃てないと思う。ごめん!』
「気にしなくていいぜアラム! こっちも、もう終わっちまった」
日影がアラムにそう伝え、エヴァの方を見る。彼女が放った熱線が、最後の雷天を貫いて墜としたところだった。
「ちょっと本気を出せばこの程度です」
『エヴァちゃんすごい! 本当に強いねエヴァちゃん!』
「それほどでもありません」
アラムがアナウンス越しにエヴァを褒め称えた。エヴァはアラムの褒め言葉を軽く受け流したように見えて、やっぱりちょっと嬉しそうである。
その一方で、本堂とシャオランは顔を見合わせ、小声で話をしていた。
「薄々思ってたけどさ、アラムくん、けっこうエヴァに構うよね?」
「青春かもしれんな」
「かもね」
「エヴァが全く気付いていなさそうなのが不憫だな」
「だね……」
本堂とシャオランは、肩をすくめた。
日影がアラムに再び声をかける。
「アラム! ドゥームズデイの左側を飛べ! 野郎の左手甲がオレたちの狙いだ!」
『わかった! 左だね!』
日影の指示を受け、飛空艇はドゥームズデイの左側に回り込む。
いつでも攻撃を仕掛けることができるよう、日影やエヴァが構えている。
だが、ドゥームズデイも日影たちの狙いを見抜いているようだ。日影たちがドゥームズデイの左手甲へ接近すると、その左手甲を庇うように動かす。ドゥームズデイが非常に巨大なので、ちょっと動かされるだけで左手甲は遥か彼方だ。
……が、しかし。
「それをやると思ったぜ! ……日向ッ!!」
日影が日向の名を叫んだ。
ドゥームズデイの左手甲の反対側……右手甲に接近する日向とユピテルの姿。
「左手甲を狙うと思っただろ! 違うんだなぁこれが!」
日向がユピテルの背中から飛んだ。
そして『太陽の牙』を構え、その刀身が長大な緋色の光刃を纏う。
「太陽の牙……”最大火力”ッ!!」
大空のど真ん中でまき散らされる、凶悪極まりない熱波。
その熱波は、剣の持ち主である日向さえも容赦なく焼く。
ユピテルは巻き込まれないよう、すでに日向から大きく距離を取っている。
そして日向が、灼光の刃を纏った『太陽の牙』を縦一閃。
「おりゃあああああっ!!」
一刀両断。
ドゥームズデイの右手首が、手甲ごと斬り飛ばされた。