第1283話 手甲を狙う
ドゥームズデイの左手甲に狙いを絞ることにした日向たち。どうやらドゥームズデイは、手甲や足甲などの防具部分を狙われるのを嫌っているようだ。
ドゥームズデイが飛空艇から距離を取り、両方の手甲からミサイルを発射。さらに両手のひらにエネルギーを集中させ、巨大な雷電のビームを左右同時に撃ち出した。
「RUUUAAAAAA!!!」
飛空艇の周囲にミサイルをばら撒くように飛ばし、逃げ道を潰したところでビームでトドメ。このビームは恐らく、これまで日向たちが戦ってきた嵐の戦艦の主砲と同等の破壊力がある。直撃をもらえば最後、飛空艇ごと日向たちは消し飛ばされるだろう。
エヴァが”フィンブルの冬”を発動し、飛来してきたミサイルを凍らせて迎撃する。逃げ道を確保し、コックピット内の北園が飛空艇のメインブースターに渾身の精神エネルギーを送り込む。
飛空艇は全速力でドゥームズデイのビームの軌道上から逃れ、回避に成功した。そのままドゥームズデイの左手側に回り込み、予定通り左手甲を狙う。
「ビームをぶっ放して硬直してる今がチャンスだ! 叩き込め! ”紅炎奔流”!!」
「空の練気法”無間”! そして火の練気法”爆砕”ッ!!」
「”如来神掌”!!」
「焼き尽くせ……”シヴァの眼光”!!」
「再生の炎、”落陽鉄槌”ッ!!」
『ミサイル発射! 撃て撃てー!』
日向たち五人のそれぞれの最大火力、そして飛空艇が発射したミサイルがドゥームズデイの左手甲に直撃した。大爆発が巻き起こり、巨大なドゥームズデイの左手も衝撃によって跳ね上がる。
しかし、ドゥームズデイの左手甲はまだ破壊されていなかった。表面に巨大なヒビが入っているものの、手甲は健在である。
「やっぱり一発じゃ無理か……!」
悔しそうにつぶやく日向。
そこへミオンが声をかけてきた。
「大丈夫よ! 私たちの攻撃は確かに通用している! 一発でダメなら、もう一発ぶつければいいだけのこと! そうでしょ?」
「そうですね。ホント、おっしゃる通りです。諦めずに攻撃を続行しましょうか!」
飛空艇はいったんドゥームズデイから離れ、Uターンして再接近の用意。日影はドゥームズデイの左手甲に体当たりを仕掛けた後、そのまま左手甲に張り付いて攻撃を続けているようだ。
ドゥームズデイが左拳を握りしめ、裏拳を放つ。左手に纏わりついている日影を振り払うと同時に、飛空艇へ攻撃を仕掛けてきた。
「うおッ!? クソ、振り払われた! 飛空艇は大丈夫か……!?」
「”無間”! そして”爆砕”ッ!!」
日影が飛空艇の方を見ると、シャオランが強烈な発勁を繰り出して、再びドゥームズデイの拳を止めていた。それを確認して、日影はいったん飛空艇へ帰還する。
日向たちはそのまま追撃を仕掛けたいところであったが、ここはドゥームズデイが素早く後退したことで阻止される。次の攻防に備えて、日向たちは一息つくことに。
その時、日向とミオンはシャオランの息が上がっていることに気づいた。
「ふぅっ……、ふぅ……!」
「シャオラン、大丈夫か? かなり疲れてるように見えるけど……」
「うん、なんとか……。大丈夫、まだいけるよ……!」
「あまり無理はしないでねシャオランくん。火の練気法”爆砕”は、その凄まじい威力ゆえに使用者の肉体にも負担が生じる。あのドゥームズデイの巨大な拳を相殺するほどの”爆砕”となれば、その反動も相当なものになる。あなたの息が上がっているのはそれが理由でしょう?」
「まぁ、ね……。でも現状、あの拳を止められるのはボクしかいない。いざという時は、多少の無理は覚悟してるよ」
「ごめんシャオラン、頼りにしてる」
引き続き飛空艇はドゥームズデイを追いかけ、ドゥームズデイは身体ごと飛空艇の方を向いて迎え撃つ用意。
ドゥームズデイが右手の人差し指で飛空艇を指さした。すると、ドゥームズデイの周囲の雨雲から異能の戦闘機が飛び出してきた。雷天、風天、雨天、三種の戦闘機が合わせて十五機ほどである。
「戦闘機を召喚してきたか。また厄介なことをしてきたな……。向こうの攻撃の手数が増えるし、警戒しないといけない方向も増やされる。ミサイルよりも耐久力がある。下手に殴りかかってきたりビームを撃ってきたりするよりよっぽど厄介だぞ」
「ふむ、ようやく此方も仕事ができるな。風天と雨天は俺が墜とそう。雷天は頼む。連中は俺の電撃を吸収してしまう」
「わかったわ、雷天は私に任せてちょうだい」
『飛空艇もミサイルで援護するよー!』
戦闘機の撃墜に参加するのは本堂、ミオン、そして飛空艇を操縦する北園のようだ。それを聞いた日向は、エヴァと日影に声をかける。
「エヴァ。お前も戦闘機を撃ち落とすことに集中してくれ。一気に突破してドゥームズデイを追撃したい」
「分かりました、任せてください」
「日影。飛空艇が戦闘機を突破したら、一気にドゥームズデイの左手甲にトドメだ。いけるな?」
「当たり前だぜ。今度こそぶっ壊してやる」
「よし。まもなく戦闘機と接敵だ。準備を……」
……と、日向が言いかけたその時、彼はふと気づいた。ドゥームズデイが戦闘機に指示を出すために飛空艇に向けて差した指がひっこめられていない。まだ飛空艇を指さしたままだ。
それが、日向はいやに気になった。
瞬間的に、悪い予感がしたのだ。
「あれは……ドゥームズデイのあの姿勢は、ただこちらを指さしてるというより、構えている……? まさか、あの指さしは戦闘機への指示じゃなくて、もっと別の……!」
日向が嫌な予感を覚え、その考えに至ったのはわずか一瞬のことである。だがしかし、それでもなお間に合わなかった。
ドゥームズデイの指先にエネルギーが集中する。
そして、その指先から勢いよくレーザービームが放たれたのだ。
レーザービームは細いが、そのぶんエネルギーが凝縮されているようで、速度もすさまじく速い。また、このレーザービームは細いとは言ったものの、それはドゥームズデイの巨体と比べればである。飛空艇一機なら丸ごと包み込んでしまうくらいの規模は有している。
コックピット内の北園は、この指さしが戦闘機への指示だと思い込んでいたので完全に不意を突かれた。
「わわっ!?」
反射的に操縦桿を右に切る北園。普段のおっとりした性格からは考えられないほどの、素晴らしい反応速度だった。
それでもレーザービームは完全には回避しきれず機体に直撃……する寸前でバリアーが防御してくれた。しかしレーザービームの威力はやはり相当なもので、この一撃でバリアーが破壊される。
「くっ……!? 北園がギリギリ、攻撃を回避してくれたか……」
「あ、危なかったです……」
「みんな、油断しないでちょうだい! 戦闘機が来るわ!」
ミオンの言う通り、このタイミングを絶好の好機として、一気に異能の戦闘機が襲い掛かってきた。ミサイルを一斉発射し、甲板の上の日向たちを狙う。
飛空艇を守ってくれるバリアーは剥がされてしまった。
まだ体勢を立て直し切れていない日向たちに、ミサイルの弾幕が降り注ぐ。
「や、やばい! 撃ち落……駄目だ間に合わない!」
甲板に次々とミサイルが着弾。
雷と暴風と酸の爆発が巻き起こる。
そして。
それに巻き込まれて、日向が飛空艇の甲板から投げ出されてしまった。
「しまった……!?」