第1282話 デカい、速い、強い
ドゥームズデイが飛空艇から距離を取り、両腕の手甲からミサイルを連続発射。雷、風、雨の三種のミサイルの弾幕が飛空艇に襲い掛かる。
「まとめて始末します! ”フィンブルの冬”!!」
エヴァが杖をかざすと、猛烈な吹雪が発生。
迫り来るミサイルの群れに、極寒の冷気が吹き付ける。
ドゥームズデイのミサイルは残らず氷漬けにされ、推進力を失って落下していった。その落ちていくミサイルの側を通過して、飛空艇はドゥームズデイとの距離を詰めに行く。
飛空艇を迎撃するべく、ドゥームズデイが左拳を振り上げた。
タイミングを見計らい、容赦なく殴りにかかる。
「RUUUAAAA!!」
「シャオラン、また来たぞ!」
「はいはい任せて!」
シャオランはドゥームズデイの拳に向かって力強く踏み込み、引き絞った両拳を一気に突き出した。八極拳、双纒手だ。
力強い踏み込みは、足から伝わるパワーを背中へ送り、そのパワーを背中の筋肉が増幅させ、拳を繰り出す腕へと伝える。中国拳法ならではの特徴的なその動きは、全てが破壊力を生み出すために計算された結果、編み出された物である。
空の練気法”無間”によって、シャオランの拳とドゥームズデイの拳は何も無い空間の真ん中で激突。今回もシャオランがドゥームズデイの拳を相殺してみせた。
「こういう時、八極拳を習っておいてよかったって思うよ。技の一つひとつが破壊力特化だから、デカい奴が相手でもパワー負けしない!」
ドゥームズデイの拳が止まったその隙に、飛空艇はドゥームズデイの懐に潜り込む。甲板の上の日向とエヴァが攻撃を仕掛けた。
「”紅炎奔流”!!」
「”シヴァの眼光”!!」
灼熱の火炎の波と光線が同時にドゥームズデイに襲い掛かる。ドゥームズデイは二人の炎をそれぞれ左右の手のひらで受け止めた。
「RUUUUU……!!」
わずかに苦しそうな声を上げたドゥームズデイ。日向の炎はドゥームズデイの雷電の手を焼き、エヴァの熱線も手のひらを貫いた。ダメージを与えることができたようだ。
さらに飛空艇から日影が”オーバーヒート”で飛び立ち、ドゥームズデイに接近戦を仕掛ける。狙いはドゥームズデイの首筋。急所を切り裂いて大ダメージを狙う。
「おるぁぁッ!!」
日影の飛行速度は飛空艇より速い。あっという間にドゥームズデイに接近し、その雷電の首筋を燃え盛る『太陽の牙』で切り裂いた。
しかし、日影の狙いに反して、ドゥームズデイはあまりダメージを受けたようには見えない。声の一つも上げず、動じることすらせず、何事もなかったかのように日影の攻撃に耐えた。
「ちぃッ! だったら次は頭だ!」
そう言って、日影は宣言通りにドゥームズデイの頭部を狙う。ドゥームズデイの頭部は、艦橋の先端部分のパーツが分離して作られたヘッドギアのような兜で覆われている。
するとドゥームズデイは素早く右手を動かし、日影を叩き落としにかかった。飛び回る羽虫がいい加減に目障りになったかのように。
日影はこのドゥームズデイの右手を回避。
一気にドゥームズデイとの距離を詰め、燃え盛る剣を縦一閃。
この剣の軌道だと、ドゥームズデイの頭部を覆う兜で受け止められるはずだった。しかしドゥームズデイは頭を後ろに動かして日影の攻撃を回避。日影の斬撃はドゥームズデイの兜にすら当たらなかった。
「ああクソッ、野郎のサイズがデカすぎるから、ちょっと動かれただけで狙いが大きくズレやがる!」
そしてドゥームズデイは、回避のために後ろへ下げた頭を戻すように、日影に頭突きをぶちかました。大質量のエネルギー塊が叩きつけられ、日影はまっすぐ吹っ飛ばされる。
「ぐぅッ!?」
日影は吹っ飛ばされながらも体勢を整え、飛ばされた先に飛んでいた飛空艇の甲板へ。両足でブレーキをかけて上手く着地した。
「っつぅ……痺れたぜ……」
「おかえり日影」
「うっせぇ黙れ」
「なんだよ『ただいま』くらい素直に言ってくれてもいいじゃん」
「なんか嫌味っぽく聞こえたんだよ。それよりどうするんだ。あの野郎、攻撃力の上昇はもちろんだが、あれだけデカくなっても運動性能が人間サイズだった時とほとんど変わらねぇ。デカいくせにノロマじゃねぇと来てやがる。このまま何の策も無しにぶつかり合うのはキツ過ぎるぞ。いつかヤバい一撃を貰う」
日影の言う通りだ。日向たちがどれだけ地道にドゥームズデイの体力を削っても、それを一撃でひっくり返す火力がドゥームズデイにはある。巨大になっても相変わらず高い機動力が、その最悪の可能性が到来する確率を大きく高める。
すると日向は、少し考えるような様子を見せながら、日影の言葉に答えた。
「もしかすると……あるかもしれない、策。ドゥームズデイに付け入る隙が」
「あんのか? もう何か野郎の弱点を見つけたってのかよ?」
「あくまで可能性だぞ。さっきからドゥームズデイの動きを見てたんだけど、あいつさ、さっきから俺たちの攻撃をあえて雷電の身体の部分で受けて、手甲とか兜とか……戦艦が変形してドゥームズデイのパーツになった部分で攻撃を受けるのを避けているように見えるんだよ」
「言われてみると、オレが野郎の首を狙った時と頭部を狙った時もそうだったな」
「俺がさっき撃った”紅炎奔流”も、本当はあいつの手じゃなくて手甲を狙ったんだ。けれどドゥームズデイは手で受けた。冷静に考えるとおかしくないか? 手甲ってつまり防具だろ? 攻撃を受けるための防具を使わず、どうしてわざわざ防護するべき身体で俺たちの攻撃を受ける?」
「いくつか可能性はあるだろうが……一番シンプルに考えられるのは、あの戦艦のパーツの部分を損傷させられると野郎にとって都合が悪いってところか」
「俺もそのパターンだと思う。だから一度、ドゥームズデイの各種防具を集中的に攻撃したらどうだろう……っていうのが俺の考え」
「なるほどな。お前にしちゃ悪くない考えだ」
「そうだろう。もっと褒めろ。崇め奉れ」
「うっせぇ黙れ地表に落とすぞ」
ともあれ、これでひとまず日向たちの次なる方針が決まった。ドゥームズデイが身にまとう防具を集中的に攻撃し、破壊する。
日向は声を上げ、仲間たちに指示を出した。
「まずは奴の左手甲から狙ってみよう! あの手甲はミサイルも発射できる! この作戦がどんな結果をもたらすかはまだ分からないけど、最悪でもミサイルの弾幕を薄くすることくらいはできる!」