第1280話 迸る稲妻、止まらぬ雷電
日向の『太陽の牙』が、ドゥームズデイの胸を貫いた。
「ru....ruuooaaaa...」
力無い声を上げ、ドゥームズデイの身体から放電が発生。糸玉の糸を引っ張るように、放電が続くにつれてドゥームズデイの雷電の身体がほどけていく。
やがてドゥームズデイは、完全に消滅した。
「勝った……!」
日向がつぶやく。
仲間たちも勝利の実感が湧き、安堵の表情を見せているようだ。
「どうにか勝てたか。かなり手強い野郎だったぜ」
「雷という能力を突き詰めると如何に恐ろしいか、再認識させられる相手だったな」
息を吐きながら語る日影と本堂。
一方、ミオンは少し気まずそうに頬を掻いていた。
「もっとガンガン活躍してあげる予定だったけど、あまり役に立てなかったわね~私」
「何言ってんだミオン。アンタが”如来神掌”で戦闘機を墜としまくってくれたから、オレたちもドゥームズデイに集中できたんだぜ。本来ならもっと戦闘機どもの横やりが激しくて、とてもドゥームズデイどころじゃなかっただろうな」
「そう言ってくれると助かるわ~」
日影のフォローを受けて、ミオンも笑顔を見せてくれた。
そしてシャオランは、冷たい風をその身に浴びながら空を見上げ、ひとり静かにつぶやいた。
「父さん、母さん、ハオラン、リンファ、町のみんな……仇は討ったからね」
報告を終えたシャオランは、空を見上げていた視線をまっすぐに戻し、それから近くにいたエヴァに声をかけた。
「エヴァもお疲れさま! キミが磁力と重力を操作してくれなかったら、ボクたちはこの戦艦の上に立つことすらできずに、ドゥームズデイと戦うこともできなかった。本当に助かったよ!」
……しかしエヴァは、シャオランの言葉に返事をせず、なにやら難しい表情で足元の甲板を見つめているようだ。
「あのー、エヴァ? さすがにそんなに無視されるとボクも傷つくというか」
「あ、ごめんなさいシャオラン。ただ、その……」
「どうしたの? 何か浮かない表情だけど」
「妙な気配です。ドゥームズデイの気配が完全に消え去らず、薄く残っています。まだ終わっていないかもしれません……」
「え!? だとしたら大変じゃん!? いやでも、さっきドゥームズデイがヒューガの攻撃を受けてた時、あれは間違いなく力尽きた時の様子だったよね?」
「演技だったのかもしれません。あるいは、大きなダメージには変わりませんが、力尽きるほどではなかったとか」
するとここで、ミオンが口を開いた。
「あ~、そういえば……」
「どうしたの師匠?」
「さっきね~、ドゥームズデイが消滅する時、すごく放電してたじゃない?」
「してたね」
「それで見えにくかったから気のせいだと思ったんだけど、ドゥームズデイは背中からこの戦艦に自分の身体を逃がしているように見えたのよ~。身体を雷電に変換して、この戦艦の甲板を伝うように……」
「それ早く言ってよぉぉ! 絶対それが原因じゃん!」
するとその時、この巨大戦艦の艦体に一本の稲妻が走った。それを皮切りに、巨大戦艦がビリビリと放電し始める。迸る稲妻の一本一本が、まるで龍のように太く大きく、そして力強い。
「いけません、この電流は非常に強烈です! 私の磁力のヴェールがあっても、ここに留まり続けるのは危険です! 今すぐ飛空艇へ退避を!」
「マジかよくそッ! マジでまだ終わってねぇってのか!」
「町のみんなゴメン、まだ仇は討ててなかったっぽい……」
「ともかく、今は此処を離れるぞ」
まずは皆に注意喚起をしたエヴァが戦艦から飛び立つ。次いで背中に翼を生やした本堂が飛ぶ。それからシャオランとミオンの師弟が風の練気法”飛脚”で空を駆け出し、最後に日影が”オーバーヒート”で離陸した。
……が。
日向がまだ戦艦の甲板の上に取り残されていた。
「おーい! ちょっと待ってー! エヴァー! 本堂さーん! 誰でもいいから俺を置いていかないでー!!」
「あっ」
「素で忘れていたな……。俺達の中で日向だけは自力で飛行できないのだったな……」
戻ってやりたいところだが、戦艦の放電は激しさを増している。これではもう近づけない。そして、残された日向も甲板に立ってはいられない。
「こ、こりゃもう駄目だ……!」
たまらず、日向は戦艦から飛び降りた。
自由落下の風圧と浮遊感が日向の身体を包み込む。
「アイキャンフラーイ! 俺は飛べる! 信じればきっと飛べる! うおおお今こそ新機能に目覚めろ『太陽の牙』ー!!」
……その時。
日向の身体を包み込んでいた風圧と浮遊感が止まった。
日向は空を飛んでいた。
もっとも、日向が自力で飛んでいるのではなく、日向を助けるために飛んできたユピテルが日向を背中に乗せたのだ。
「ケェェン!」
「はぁぁぁ助かった……。ありがとうロックフォール、もう駄目かと……いや待ってお前ロックフォールじゃないな? もしかしてユピテルか? なんでまたこんなに大きく……」
日向はまだ知らない。ロックフォールはこの戦いで命を落とし、そのチカラは息子のユピテルに受け継がれたことを。
「ともあれ助かったよ。ありがとうユピテル」
「クァァ!」
その後、ユピテルは飛空艇の甲板に日向を降ろした。
先に飛び立っていた仲間たちもすでに甲板の上に集まっている。
「このー! 皆して俺を置いていっちゃって! あんまりだ!」
「いっそ逆に飛べねぇお前が悪いんじゃねぇか?」
「飛べないヒューガはただのヒューガ」
「そうだよそれでいいんだよ、ただの日向なんだから!」
……と、ここで飛空艇のアナウンスが聞こえてきた。声の主はどうやらスピカのようである。
『みんなー! 戻ってきたってことはドゥームズデイ倒したのかなー?』
「いや、まだ終わりじゃないみたいですスピカさん。北園さんはまだ体力は保ちそうですか?」
「いやー、北園ちゃんはいま休んでてねー」
「へ? それじゃあいったい誰がこの飛空艇を動かしてるんです?」
「アラムくんなんだよー」
「アラムくん!? なんでアラムくんが!? 超能力者でもないのに!?」
「それが色々あって……おっと、悪いけど、話の続きは後にした方がよさそうだよー……!」
スピカの言う通り、ドゥームズデイの巨大戦艦が動きを見せた。
巨大戦艦はこれまでまっすぐ飛んでいたが、急に艦頭を上へ向け始めた。どんどん艦体が傾いて、やがて完全に艦体が縦になる。
すると、この巨大戦艦の特徴でもあった、二つに分かれた艦頭。これが稼働し、中央の艦橋の左右までやってきた。まるで人間の胴体と腕のような位置関係である。その後、稼働した艦頭は肩部分と肘部分、腕橈骨筋部分、それから拳部分に分離され、二の腕と手のひらは太い稲妻で形成される。さながら手甲に覆われた雷の腕だ。
さらに艦尾も稼働。太もも、膝、脛と足部分に分かれ、足甲となる。そして腕と同じく稲妻が通され、雷電の両脚を形作った。
この時点で巨大戦艦は、両腕と両足が生えた人間の身体のような形状に。
中央の艦橋も稼働し、胴体と頭部分になる。
変形が終わった巨大戦艦の姿は、まさしく超巨大化したドゥームズデイそのものであった。
「RUUUUOOOOAAAAAAAA!!!」
「野郎、自分の戦艦と合体しやがった!」
「くそ、変形ロボットみたいでちょっと格好良いじゃないか……!」
「よもや、このような奥の手を用意していたとはな……」
日向たちは戦慄する。離れていても感じるドゥームズデイの凄まじい雷電エネルギー、そしてこの、飛空艇が豆のように小さく感じるほどのサイズスケール。間違いなく先ほどの通常サイズのドゥームズデイより強敵となっているだろう。
そんな中、まず前に出たのはシャオランだった。
「うん……絶対強いだろうね……。でも、ここまで来たんだ。ボクたちなら絶対勝てる、そんな確信がある。まだまだ他の『星殺し』に、サヤマまでいるのに、こんなところで止まってなんかいられないよ……!」
「シャオラン……」
そのシャオランの言葉に、日向たちは勇気づけられた。
一人、また一人と、ドゥームズデイに向かって足を踏み出す。
「そうだな。その通りだ。あんなポンコツより、もっとやばいラスボスが待ってるんだもんな……!」
「あのシャオランがビビらずにここまで言ってんだ。オレたちだって負けてられるかよ」
「そうね~。逆に、師匠としてシャオランくんに格好良いところが見せられる再びのチャンスと思っちゃいましょうか!」
「重力制御を飛空艇に任せられるようになったぶん、私も攻撃に集中できます。存分に大火力を叩き込んでさしあげます……!」
「来るぞ。皆、出し惜しみは無しだ。墜とすぞ……!」
「RUUUUAAAAAAAAAA!!!」
ドゥームズデイが背中のブースターを吹かし、接近してくる。
黒雲に包まれたこの大空で、最後の激突が始まった。