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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1278話 無間

 巨大戦艦から落とされていたシャオランが、再びこの甲板まで戻ってきた。


 戻ってきたのみならず、何らかの方法でドゥームズデイを殴り飛ばし、師匠ミオンの危機を救った。シャオランの拳を見てみると、ドゥームズデイを殴り飛ばして焼き焦がされたような様子はない。


 この局面でシャオランが復帰したこと、もうミオンは助けられないと思っていたら助かったこと、ドゥームズデイに打撃を喰らわせたこと、あらゆる想定外が一度に起こって、日向たちは軽くフリーズしている状態だ。ミオンすらも目を丸くしている。


「あらあらまぁまぁ……。さすがに、まさかこんなに早く戻ってくるとは思わなかったわよシャオランくん!」


「シャオラン……! 無事で何よりでした……」


「心配かけてごめんね師匠。エヴァもありがとう。それにしてもこの戦艦、速いから追いつくのが大変だったよ……」


 そう言って息を吐くシャオラン。目の前のドゥームズデイが、殴られた怒りでシャオランを睨みつけているというのに、非常に余裕ある態度である。


 とはいえ、シャオランもドゥームズデイの視線に気づいていないというワケではないらしく、改めて拳を構えた。


「師匠、下がって休んでて。今のボクなら、コイツが相手でも戦える」


「何か、手があるのね? 分かったわ、あなたを信じて任せるわね」


 ミオンはそう返事をして、いったん戦線から離脱。

 甲板の中央にシャオランとドゥームズデイだけが残される。


 日向たちも近くにいるのだが、まるでシャオランとドゥームズデイの二人の周囲に特別な戦闘空間が発生したかのようだ。日向たちは完全に外野となり、シャオランたちに近寄りづらい。


「オレたちはいったん手を出さず、シャオランに任せた方がいいか」


「それが良いと思う。あのシャオランがあんなに自信満々なんだ。ドゥームズデイをどうにかできるっていう絶対的な確信があるんだと思う」


「ふむ。説得力が半端ではない意見だな。根拠しかない」


 日向たちは、シャオランの戦いを見守る体勢に。


 シャオランは全身に”空の気質”を(まと)う。

 拳の構えは、もはやおなじみ八極拳のもの。


 そしてシャオランが息を吸い、短く吐くと、彼が(まと)っていた”空の気質”が周囲に広がった。この甲板の実に半分以上を占める拡散範囲である。


「以前のシャオランの空の練気法”天界”では、ここまで広範囲には広がらなかったですね」


「そういえばさっき、シャオランがミオンさんを助けた時、一瞬だけ”空の気質”がドゥームズデイを巻き込んでいたのを見たなぁ。その直後、ドゥームズデイがぶっ飛ばされた。”天界”を使って何かしたのか……?」


 シャオランに攻撃の種明かしをしてもらえれば良いのだが、そうすると当然ながらドゥームズデイにも話を聞かれてしまう。とりあえず今は、日向たちも自分たちでシャオランの攻撃を見極めるしかない。


 シャオランが広げた”空の気質”は、すでにドゥームズデイもその中に(とら)えている。シャオランは拳を構えたまま、その場から動かない。


 ドゥームズデイが動こうとする。

 動き出すためにほんの少し、身体が(かたむ)き全身が(りき)んだ。


 その瞬間、シャオランがその場で右拳を突き出した。

 すると、ドゥームズデイの身体がくの字に曲がりながら吹っ飛んだのだ。


「ruu...!?」


「え!? シャオランいま何した!? その場で正拳を打っただけでドゥームズデイが勝手に吹っ飛んだぞ!?」


「拳から衝撃波でも撃ち出したのでしょうか……?」


 シャオランはさらに、その場で左ひじを下から上へ打ち上げる。それに合わせてドゥームズデイの顎も何かに打ち上げられたかのように跳ね上がった。


 次にシャオランは右掌底を振り下ろす。

 ドゥームズデイの顔面に何かが叩きつけられ、仰向けに()ぎ倒された。


 シャオランは、今度はその場を右足で思いっきり踏みつける。すると、倒れていたドゥームズデイの腹部に見えない隕石でも落ちてきたかのように衝撃が走り、甲板が大きくひび割れた。


「ruooaaa...!?」


「これは……拳から衝撃波では片付かない打ち方ですね……」


「ど、どうなってんだ……? 何が起こってるんだよいったい……?」


「シャオランがその場で拳を振るうだけで、離れた位置にいるドゥームズデイが巻き込まれているように見えるが……。ミオンさん、貴女は何か分かりますか?」


 本堂がミオンにそう尋ねる。

 ミオンは彼女らしからぬ真剣な表情でシャオランの戦いを見ていた。


 やがてミオンは、合点がいったかのように口を開いた。


「……なるほどね。これはまた、とんでもないことね……」


「何か分かったのですか?」


「とりあえず、あなたが言った通りよ本堂くん。シャオランくんはその場で格闘を行なうだけで、目の前にいないはずのドゥームズデイを殴ったり蹴ったりすることができる」


「やはりそうでしたか。しかし、その原理はいったい……? 事前に展開した”空の気質”が間違いなく関わっているのでしょうが」


「ええ、その通り。きっとシャオランくんは、世界と己を一体化させたのよ」


「世界と己を一体化?」


 本堂の言葉にうなずき、ミオンは話を続ける。


 ここには「世界」という空間があり、そこに「自分」がいる。

「世界」と「自分」は、空間と肉体によって境界線が敷かれている。


 その境界線を無くし、自分と世界を合一とする。

 それが、シャオランがいま行なっていることだとミオンは言う。


 極限まで研ぎ澄まされた五感による精神集中。それはまるで己の肉体を捨て、この世界という空間の中に溶け込んでしまうかのような感覚。空間と(つな)がり、この星と(つな)がり、やがてはこの宇宙にまで。


 シャオランが展開した”空の気質”は、世界に溶け込ませることができたシャオラン自身の領域という性質も持っているのだろう。ミオンの推測が正しければ、気の見た目はほとんど変わらないが範囲だけでなく気の質そのものも向上したはずだ。


 乱暴な言い方をすれば、シャオランが発した”空の気質”、その気質に包まれた空間それ自体もシャオランなのだ。シャオランという自己が溶け込んだ空間だ。シャオランの「世界」だ。


 そして、シャオランが「世界」と一体となるならば、相手は「世界」のどこにいようがシャオランの間合いの中にいるも同じ。


 ゆえに、もはや互いの間合いは意味を成さない。”天界”で満たした”空の気質”の中にいる限り、相手がどこにいようがシャオランの拳が当たる。名付けるならば、空の練気法”無間(むげん)”。


「私の推測混じりだけど、だいたいこんなところだと思うわ。現時点で一つだけ確実に言えるのは、シャオランくんは格闘家として究極の能力を手に入れたってことよ~!」

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