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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第5章 人の心 マモノの心
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第117話 日本陣営の実力

 日向たちマモノ討伐チーム一同は自衛隊の車を使って、ワイバーンの巣となっている山のふもとまで来ていた。ワイバーンの巣は広大で、山中に広がる森一帯が連中の巣も同然である。


『ARMOURED』はアメリカのマモノ討伐チームを、日向たちは日本のマモノ討伐チームを引き連れて森へと入っていった。

 アメリカチームは山の東側から、日本チームは西側からそれぞれ攻め入り、ワイバーンたちを掃討しながら『星の牙』を目指す手筈てはずとなっている。



 薄暗い森に銃声が響き渡る。

 討伐チームに襲い掛かってきたワイバーンが、音を立てて地に落下した。


「敵を撃破!」

「……いやまだだ! 三時の方向からもう一匹!」


 日本の討伐チームの右方向から、ワイバーンが牙を剥いて走り寄ってくる。


「うるぁッ!!」


 しかし、そのワイバーンの背中に日影が飛び乗り、手に持つ剣を突き刺した。


「ギャアアアアッ!?」


 ワイバーンは悲鳴を上げて絶命した。

 日影の持つ『太陽の牙』は、マモノに対して特別な威力を発揮する。


「すまない、助かった!」


「良いってことよ! さて、他の皆は大丈夫か……?」



 日影が見回す、その向こう。

 こちらでは、シャオランとワイバーンが立ち会っている。


「ガアアアッ!」

「……ふッ!!」


 ワイバーンが牙で噛みついてくる。

 シャオランは上体を屈めてそれを避け、拳を振り上げてワイバーンの顎をかち上げた。


「もらったぁぁ!!」


 そのシャオランの後ろから、日向が燃え盛る剣を手に突撃してきた。

 剣はワイバーンの喉を貫き、その息の根を止めた。


「ま、まだ来るよ、ヒューガ!」


 しかしシャオランは警戒を緩めない。

 背後から別のワイバーンが迫ってきていることに気付いたからだ。


「ギャオオッ!!」

「ひいっ!?」


 ワイバーンが足元目掛けて噛みついて来る。

 その牙をジャンプして避けるシャオラン。

 シャオランが跳んだその下に、ワイバーンの頭頂部が見える。


「い、今だ! はぁぁぁ……ッ!!」


 シャオランが荒々しい呼吸を始める。『火の練気法』だ。

 赤色のオーラが、シャオランの右足に集中する。


「せりゃああああああッ!!!」


 そしてそのまま、右足でワイバーンの脳天を思いっきり踏み潰した。同時に、足に纏った赤いオーラが爆ぜる。

 気質を攻撃部位の一点に集中する分、『火の練気法』は『地の練気法』より数段高い攻撃力を生み出すことができる。


「いやー、やっぱりワイバーンにはアサシンだなぁ」


「え、何の話?」


「いや、何でもない。それより、北園さんたちに加勢しよう」


 二人は分かれて戦っている北園たちの元へ向かう。




 こちらは件の北園の様子。

 一匹のワイバーンと対峙している。


「やあっ!!」

「ガアアアッ!!」


 空中で火球と火球がぶつかり合い、爆炎を撒き散らした。

 北園が戦っているのは、赤い鱗のワイバーンだ。


 今までの緑の鱗の個体は普通に「ワイバーン」と呼ばれているが、この赤い個体は「レッドワイバーン」と呼ばれ、通常のワイバーンと違い火球を吐き出す能力を持っている。そのため、通常のワイバーンより危険度は上とされている。


「やぁぁぁ!」


 北園が両手の中心からドッヂボール大のエネルギー球を作り出し、レッドワイバーンへと撃ち出した。


「ガアアアッ!?」


 エネルギー球はレッドワイバーンの胸に直撃した。

 エネルギー球は衝撃を撒き散らして破裂し、レッドワイバーンは地に堕とされた。


 北園が使ったのは念動力サイコキネシスだ。

 かつて空中浮遊のトレーニングで言及していた、『膜状のエネルギーをクシャクシャに丸めて撃ち出す攻撃』だ。


 ここまでの精神鍛錬により、北園のエネルギー球はマモノにも通用するほどの威力を込めることができるようになった。発火能力パイロキネシス凍結能力フリージングと違い、これは純粋な物理属性を持つ。北園の超能力の中では最も相手を選ばない攻撃と言えるだろう。


「これでトドメだ!」


 落ちたレッドワイバーンの胸に松葉が飛び乗り、心臓目掛けてアサルトライフルを連射。レッドワイバーンは絶叫を上げて、動かなくなった。


「ありがとうございます! ……えーと」


「松葉だ」


「スミマセン松葉さん!」


「構わんよ。……む、待て。新手だ」


 松葉が指差す空を見ると、さらに数体のレッドワイバーンが飛来しているところだった。


「ううー、多いなぁ! 早く本堂さんを手伝ってあげたいのに!」




 そしてこちらは本堂の様子。

 本堂は一人でレッドワイバーンを一体、食い止めていた。


「ガアアッ!!」


 本堂目掛けて、レッドワイバーンが火球を吐き出す。


「はっ!」


 本堂はそれを横っ飛びで避けると、”指電”を放った。

 指パッチンと共に電気の塊がレッドワイバーンに向かって飛ぶ。


「ギャアアアッ!?」


 本堂の電気は見事に命中し、レッドワイバーンは麻痺してしまった。

 その隙に、本堂がレッドワイバーンとの距離を詰め……。


「おおおおっ!!」

「ギャアアアアアアッ!?」


 レッドワイバーンの腹部に手の平を当て、電撃を流し始めた。

 蒼い稲妻がレッドワイバーンを包み込み、悲鳴を上げさせる。


 本堂の電撃もまた、少しずつ強力になりつつある。

 度重なる戦いの中で、彼の超帯電体質という異能も鍛えられているのだろう。


「グ……グルルル……」

「ちぃ……効き目が薄いな」


 だが、彼の電撃も、レッドワイバーンを仕留めきるには威力が足りない。

 ワイバーンは強力なマモノだ。今までのマモノと比べると、そのタフさは凄まじいものがある。


「ガアアアッ!!」

「っと……」


 やがてレッドワイバーンは、本堂の電撃を振り切って、噛みつきを繰り出した。

 それを、本堂は素早く避けて、レッドワイバーンの背後に回り込み……。


「ふんっ!」


 その首筋に、軍用ナイフを思いっきり突き刺した。

 ……が、ナイフの刃はレッドワイバーンの鱗を貫通できず、阻まれる。

 

「く……しまった……!」


「ギャオオッ!!」


「ぐっ!?」


 レッドワイバーンは身体を回転させ、その長い尾で本堂を打ち据えた。

 尾は細くしなり、しかし鱗に包まれていて相当に硬い。

 その尾をまともに腹に受けた本堂は、吹っ飛ばされて背後の木に叩きつけられた。


「グルルル……!」


「く……」


 よだれを垂らしながら本堂に迫るレッドワイバーン。

 しかしその時、ひときわ大きな銃声が森の中にこだました。


「ギャアアッ!?」


 そして、レッドワイバーンが横腹に何らかの攻撃を受けた。

 その衝撃で身体が曲がるレッドワイバーン。


 攻撃の正体は、松葉班の雨宮隊員の攻撃だ。

 地面に伏せって、『ARMOURED』のコーネリアス少尉と同じ対物ライフルでレッドワイバーンに狙いを付けている。


 さらに、雨宮だけではない。

 その隣で上原隊員までもが対物ライフルの銃口をレッドワイバーンに向けている。


 現実の戦争においては、戦車には威力不足、人間には威力過剰とされている対物ライフルだが、大型のマモノとの戦闘においては頼れる高火力兵器となる。


撃て(ファイア)!」


 雨宮隊員の号令と共に、二人は対物ライフルでの射撃を始める。

 次々と超威力の弾丸をその身に受けて、レッドワイバーンは即死してしまった。


「本堂さん、大丈夫!? いま治癒能力ヒーリングをかけてあげるね!」


 二人の隊員の後ろから北園が駆け寄ってきて、本堂を回復させる。


「ああ、助かる。……しかし参ったな。ワイバーンとやらは、斬撃にも電撃にも強いのか」


 北園の治癒能力ヒーリングを受けながら頭を掻く本堂。

 彼はあらゆる分野の知識を幅広く持つが、サブカルチャーにだけは疎い。そのため、竜の鱗というものが如何に堅いか、よく分かっていない。


「……帰ったら、舞にそのあたりの知識を習ってみるか……」


 本堂は、若干悔しそうにそう呟いた。



◆     ◆     ◆



 日向たちの活躍により、この辺りのワイバーンは一掃した。

 これで残るは『星の牙』のみである。


「こうしてみると、オレたちだって『ARMOURED』の連中に負けてないよな」


 剣を肩に担ぎながら、日影が呟く。


「その油断が命取りだっての。向こうは『星の牙』の討伐数36体だぞ?」


「36かぁ……。なぁ、オレたちは今まで何体倒したっけ?」


「確か、俺が確認できるものだと11体。まだまだだよ俺たちは」


『ところがどっこい。数だけ見るとそうでもないんだ』


 通信機越しに、狭山が二人に声をかけてきた。


『君たち二人が当たり前のように『星の牙』を討伐するから忘れているかもしれないけど、そもそも白兵戦で『星の牙』を仕留めることができるのが異常なんだ。数だけなら、君たちの11体という数字は世界のマモノ討伐チームの中でもトップテンにランクインする』


「……へ?」


 狭山の発言に、目を丸くする日向。しかし狭山の話はまだ終わらない。


『しかも、これはあくまで日向くんが確認できる数だ。君たちが学校に行っている間にも、日影くんが松葉さんたちと共に『星の牙』討伐に赴いていた。その数も合わせると、討伐数は15体にまで上がる』


「じゅうご!? もう松葉さんたちの19体に迫ってる!?」


「……あ、そういえばオレって、日向コイツと出会う前にも独自に『星の牙』を討伐してたんだよな。それも合わせると、多分20体までいくぞ」


「あ、超えた」


 どうやら、知らず知らずのうちに自分たちはとんでもないことを達成していたらしい。この話を聞いて、日向はようやく実感が湧いてきた気分だった。



「……はは。この間まで我々の後ろを付いて来ていた若者が、いつの間にか我々を追い越していたか」


 松葉が日影を見つめながら呟く。

 しかしその言葉に悔しさの色は無い。

 むしろ、まるで子を見る親のような、超えられたことに喜びを抱いているような声だった。


「あくまで数だけだ。戦闘の技術ならまだまだアンタらには敵わない」


「そうかもしれないが、それさえ超えられる日も近いと私は思っている。君たちならきっと日本を、いや世界を代表するマモノ討伐チームになれると、私は思う」


「……へっ。ありがとよ、松葉」


 松葉の言葉を聞いた日影は、先ほどまで密かに抱いていた『ARMOURED』への対抗心が少し静まったような気がした。


 松葉の人格ならば、そこまで見越して今の言葉をかけたのかもしれない。

「やっぱ敵わねぇ」と密かに思う日影であった。



「よっしゃ! そろそろ休憩も終わりにしようぜ! あとはボスだけだ!」


「ボスかぁ。強いんだろうなぁ」


「みんな! 頑張ってね! 危なくなったら、ボクもマツバさんたちと一緒に駆け付けるから!」


「キミも来るの!」


「イヤだあああああああああああ!!」


 準備を整え、歩き出す。

 予定通り、ここから先は日向たち五人だけが戦う。

 狭山もできる限りアドバイスは出さず、見守りに徹するつもりだ。


 他の三人も頷き、森を抜けて先へと進んだ。



 森を抜けた先は、砂色の土が広がる広場だった。

 その中央に、一匹の翼竜が佇んでいる。


 全身が赤みがかった黒い鱗に覆われており、その体躯は今までのワイバーンよりさらに二回り大きい。口からは吐息と共に炎が漏れている。まるでその身に宿す能力を誇示しているかのように。


 冠するは『星の牙:溶岩ボルケーノ』。

 このマモノこそがフレアマイトドラグだ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「イヤだあああああああああああ!!」 多分、七生も同じかも……。
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