第1276話 受け継がれるチカラ
引き続き、アラムが操縦するようになった飛空艇と、その飛空艇を追いかけるドゥームズデイの異能の戦闘機。その数、雷天が二機で風天が三機。
アラムが操縦する飛空艇を狙って、雷天と風天がミサイルを発射してきた。ミサイルの速度は非常に速く、いくらアラムが北園の操舵技術を超能力で己のものにしているとはいえ、飛空艇の操縦一つで避けることができるようなものではない。
三発の雷のミサイルと、二発の風のミサイルが飛空艇のバリアーに激突。操縦桿を握っているアラムの肉体の奥底に痺れが走るような嫌な感覚。
「くぅっ……!」
歯を食いしばり、その痺れに耐えるアラム。摩耗したバリアーの修復のため、彼の精神エネルギーがさらに飛空艇に持っていかれたのを感じた。
このまま雷天と風天からの攻撃を受け続けたら、アラムもすぐに精神エネルギーが枯渇してしまい、潰されてしまうだろう。雷天と風天をどうにかしなければならない。
「アラム! ミサイル撃つよ!」
「わかった、お願い!」
他のオネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちがコントロールパネルを操作し、飛空艇のミサイルを発射。纏わりついてくる異能の戦闘機を撃ち落としにかかる。
しかし雷天も風天も、今までよりもはるかに無駄がない最低限の動きで、ミサイルを掻い潜ってしまった。たとえば機体を縦に傾けるだけだったり、正面から飛んできたミサイルの下を潜るだけだったり。
「よけられちゃった!?」
「飛行機たち、なんだかミサイルを避けるのがうまくなってるよ!?」
「きっと、今まで私たちがたくさん撃ち落としてきたから、それでミサイルの避け方を学習しちゃったんじゃ……」
この異能の戦闘機は、一人ひとりにパイロットが乗っているのではなく、全てドゥームズデイが遠隔操作している無人兵器である。であれば、いま一人の女の子がつぶやいた通り、ドゥームズデイがミサイルの避け方を学習したという可能性は大いにある。
そして最低限の動きだけでミサイルをやり過ごした異能の戦闘機たちは、再び飛空艇に向けてミサイル攻撃を敢行。ミサイルは飛空艇のバリアーに受け止められたものの、またアラムの精神エネルギーが削られた。
「うぐっ……! やっぱり僕は、ついさっき超能力者として覚醒したぶん、キタゾノお姉ちゃんより精神エネルギーの量はずっと少ない。うまくエネルギーを節約して飛び続けるだけならともかく、ミサイルを何度も喰らってたら、あっという間にガス欠になっちゃう……!」
なんとか戦闘機を減らさなければならない。
しかし飛空艇のミサイルが通用しない以上、どうやって。
妙案は思い浮かばず、アラムの焦りも大きくなっていく。
「ロックフォール……キミがこの艇を守ってくれたらなぁ……!」
「……あれー? ロックフォールと言えば、その息子のユピテルくんは?」
アラムのつぶやきを聞いて、スピカがそう言って首を傾げた。
その時だった。
飛空艇の右側面を飛んでいた風天が、何かに上空から急襲された。
まるで光の塊が飛んできたかのように、その何かは黄金色に輝く軌跡を残し、風天を上から叩き潰すようにして撃墜。バランスを失って墜ちていく風天が黒い雲海に沈んだ。
先ほど風天を撃墜した光の塊が、再び上昇してきて飛空艇と同じ高度に。そして飛空艇と速度を合わせて横並びで飛行する。
「わぁ! おおきなきんいろのとりさんだよ!」
「ロックフォール……じゃないね。でもちょっとそっくり!」
「この子ユピテルじゃない!? あ、でもこんなに大きくないよね?」
子供たちの言う通り、この巨鳥はロックフォールと同等の身体の大きさを誇り、それでいて金色に輝く羽毛というユピテルの特徴も併せ持っている。光り輝く黄金の巨鳥だ。
「キミは……ユピテルなの?」
飛空艇のアナウンスを使って、アラムがその巨鳥に話しかける。
巨鳥はモニター越しにアラムの方を見ながら、短くうなずいた。
この黄金の巨鳥はユピテルだ。
どうやら、何かがきっかけとなって進化した姿のようだ。
ユピテルは飛行速度を上昇させて飛空艇を追い抜く。ユピテルは全く羽ばたいていないにもかかわらず、両翼が光の軌跡を描きながら、ジェット機のようにまっすぐ飛ぶ。
飛空艇を追い抜いたユピテルは、そのままUターンして飛空艇の左側面に回り込む。そこには飛空艇を攻撃しようとしていた風天が二機。
「クァァッ!!」
ユピテルが翼を一回、大きく羽ばたかせる。
すると稲妻状の電撃が発射され、二機の風天を撃ち抜いた。
これで風天は全滅。
あと残っているのは、飛空艇を後ろから追跡していた二機の雷天。
ユピテルは、正面から蹴爪で二機の雷天に蹴りかかった。
二機の雷天は左右に分かれ、ユピテルの蹴りを回避してしまう。
だが、その二機の雷天の回避後を狙ったかのように、飛空艇のミサイルが飛んできた。回避の移動先にエネルギー弾を置かれ、二機の雷天は成すすべなく直撃。そのまま爆風と共に消滅した。
「やったわ! あたったわ!」
「ひこうき、みんなやっつけたよ!」
コックピット内の子供たちが歓声を上げた。
どうにか、この限界ギリギリの局面も乗り越えることができたようだ。
そんな中、アラムは嬉しそうに、しかし一方で不思議そうにユピテルを見ている。
「ユピテル、いったいどうして進化したんだろう? いや、ここで強くなって来てくれたのはすごく良いタイミングだったし、嬉しいんだけどさ」
「もしかすると、お父さんが……ロックフォールが持っていた『星の力』を吸収したのかもねー」
アラムの疑問に答えたのはスピカだ。
そのままスピカは話を続ける。
「ロシアでは、オリガちゃんが持っていた『星の力』が、彼女の死後にズィークフリドくんに移っていたようだった。本来、『星の力』の回収や譲渡は”星通力”が使えるエヴァちゃんの特権のはずだけど……」
そのスピカの言葉を聞いて、北園も口を開く。
「あとは、特別な血を引くマモノもそういったことができるって聞いたことあるなぁ。でもロックフォールさんは分からないけど、オリガさんはどっちにも当てはまらないよね。オリガさんはどうやってズィークさんに『星の力』を渡したんだろ?」
「『星の力』自身が、自分の意思でオリガさんからズィークさんに移ったのかもね。『星の力』は星にとって魂でもある。魂という事は、そこに意思もある。ワタシたち『災害と戦う者たち』に協力するために、亡くなってしまった人の代わりに『星の力』を活用できる人のところへ、自分から移ってくれたのかもー」
「なるほどー! それが正解な気がしてきました!」
スピカの考察を聞いて、北園はそう告げる。
その一方で、アラムも疑問が解消したらしく、今度は百パーセント喜びと嬉しさしか入っていない目で、モニター上のユピテルを見つめていた。
「キミのお父さんの力が、キミの中に……。ロックフォール、キミには最後の最後まで、助けられっぱなしだね。ありがとう……」
ロックフォールの息子のユピテルに、アラムは礼を言った。力強い眼差しで前を見ながら空を飛ぶユピテルの姿は、まさに父親の生き写しだった。