第1272話 狙い
ドゥームズデイの瞬間移動の正体に気づいた日向。
だがこれは、気づけたからと言ってどうにかできるような問題ではない。
「ドゥームズデイの奴は、光の速度で移動できるってことかよ……!? どうするんだそんなの、本堂の反射神経だって捉えきれるモンじゃねぇだろ!」
その能力の反則具合に、思わず声を上げる日影。
しかし日向が日影を諭す。
「落ち着け! たぶんドゥームズデイが光の速度で動けるのは、あくまで移動の時だけだ。さっきから攻撃を仕掛ける時は、決まって普通の速度に戻ってからだ。攻撃まで光の速度で繰り出されていたら、シャオランもエヴァもあの程度の怪我じゃすまなかった」
「ん、そうか、言われてみれば確かに……」
「それに俺たち、”瞬間移動”の超能力を使うレッドラムとは何度か戦ってるんだぞ。光の速度って言うと凶悪に聞こえるけど、速度だけなら点と点で移動する瞬間移動”の方が早い。そんな能力の使い手に勝ってるんだから、今回もやれるはずだ」
日向の言葉に納得したか、日影は冷静さをいくらか取り戻した。まだダメージを受けていない日向、日影、本堂、ミオンの四人がドゥームズデイに向かって構える。
狙うべきは、ドゥームズデイが接近して攻撃を仕掛けてくる瞬間。光速で動けるのがあくまで移動だけだというのなら、接近してきた時こそ最大のチャンスである。
……しかしその時、雨雲の中から異能の戦闘機、雨天と風天の部隊が姿を現す。巨大戦艦の甲板に立つ日向たちを狙って酸の機銃をばら撒き、暴風のミサイルを撃ってきた。
「うわわっ!? あいつら、また邪魔してきた!」
「くそッ、ふざけやがって!」
幸い、戦闘機の攻撃は日向たちにはほとんど命中しなかった。本堂が”轟雷砲”で風天を、ミオンが”如来神掌”で雨天をそれぞれ一機ずつ墜とす。
だが日向たちが異能の戦闘機に気を取られたその隙に、ドゥームズデイは光速移動を行なう。空間に稲妻が迸り、日影の前にドゥームズデイが姿を現した。
「オレが狙いかッ!」
日影の『太陽の牙』は射程圏外、逆にドゥームズデイの長大な剣は日影を射程圏内に捉えているという絶妙な間合い。一方的にリーチ差を押し付けた状況。ドゥームズデイは剣の切っ先を日影に向けて、まっすぐ突きを繰り出した。
これに対して日影は、『太陽の牙』の腹をうまく使ってドゥームズデイの刺突を逸らす。そのままドゥームズデイの剣を流しつつ前進。剣の腹から火花を散らせながらドゥームズデイに肉薄する。
「上手い!」
見ていた日向も思わず叫ぶ。
そして日影はドゥームズデイの目の前まで詰め寄り、剣を振り下ろした。
「うるぁぁッ!!」
……が、日影の目の前からドゥームズデイの姿が消え、日影が振り下ろした剣も空を斬る。ドゥームズデイは光速移動を使い、後退して日影の斬撃を回避したようだ。
しかし、同時に日影の全身から猛烈な炎が噴き出した。そして日影自身も撃ち出された弾丸のように前方へかっ飛ぶ。”オーバーヒート”を発動させたのだ。
「そう動くと思ってたぜッ!」
まばたきほどの一瞬でドゥームズデイとの距離を詰め、日影が『太陽の牙』で一閃。自分の身体ごと剣をぶん回す豪快な一撃だ。
日影の攻撃は命中した……と思われたが、本当にギリギリのところでドゥームズデイが再び光速移動。日影の前から姿を消し、振るわれた『太陽の牙』も避けられてしまった。
「くそがッ、ちょこまかと!」
ドゥームズデイが姿を現した先は、日向の背後だ。
後ろから攻撃を仕掛けるつもりである。
ところが。
そのドゥームズデイの左わき腹に、日向の『太陽の牙』の切っ先が食い込んだ。
「rua...!?」
これには驚愕のうめき声をあげるドゥームズデイ。
日向は、光速で動いたドゥームズデイを完全に捉えたというのだろうか。
答えは否。日向はそれほどまでの超人的な動体視力は持っていない。ただ、ドゥームズデイが日影の前から姿を消した時、次は自分たちのうちの誰かの背後に現れて奇襲を仕掛けてくるのではないかと考えた。
だから日向は、念のためと当てずっぽうで、後ろを見ることも省略して自身の背後に『太陽の牙』を突き出したのである。スペインで”瞬間移動”の超能力を持つレッドラムと戦った時も見せた戦法だ。
「うわ、マジで当たった! やってみるもんだな、当てずっぽうでも!」
日向の攻撃を受けてドゥームズデイが怯んだ。これは流れを変えることができる。そう確信した日向は攻めの姿勢を緩めない。振り向きながらドゥームズデイに横斬りを放つ。
ドゥームズデイは日向の攻撃を避けるため、とっさに上体を反らす。その結果、日向が放った横斬りはドゥームズデイの胸板をかするだけに留まった。
とはいえ、『星の力』でその身体を構成されている『星殺し』にとって、『星の力』を殺す『太陽の牙』の効果は絶大。確実なダメージになったはずだ。
「良いぞ、光速移動で俺から離れるまで、少しでもダメージを稼いでやる……!」
そうつぶやき、日向は斬撃を繰り出し続ける。戦艦の周りを飛び回る戦闘機は本堂とミオンが相手をしてくれている。自分がドゥームズデイを逃がしても、日影がドゥームズデイを追撃するよう構えてくれている。日向は攻撃に集中できる。
ドゥームズデイは雷電の大剣で日向の攻撃を防御。今度はなぜか光速移動は使用せず、日向の斬撃を受け止め続けている。
その様子を、シャオランが甲板に倒れながら見ていた。彼は現在、水の練気法の”清水”を使用し、肉体の自然治癒力を上昇させて、ドゥームズデイに斬られた傷を回復させている最中だ。
「……おかしい」
シャオランがつぶやく。
ここまでのドゥームズデイの戦い方は、極めて無駄がなかった。立ち回り、戦略、大剣の取り扱いにおいても、何一つ。だからこそ付け入る隙が少なく、シャオランたちもここまで苦戦させられている。
それが現在はどうだ。この場面はまず間違いなく、光速移動を使用して日向から距離を取るのが最善手。たとえ日影が後詰めに控えていても、である。ドゥームズデイにとって、日影より火力が高い日向の『太陽の牙』の一撃を受け続けるのは極めて危険な行為だからだ。
ドゥームズデイもそれは絶対に分かっているはずだ。日向には悪いが、彼の連撃はドゥームズデイに光速移動をさせる暇を与えないほどの勢いはない。
それをせずに日向の攻撃に付き合ってやっているということは、ドゥームズデイの目的は日向の攻撃を誘うこと。あるいは、日向の意識を攻撃に傾けさせ、何かから注意を逸らそうとしているのではないか。
「……もしかして!」
すぐさま周囲の空を見回すシャオラン。
空間がわずかに歪んでいる箇所を見つけた。
恐らくあれは、風天が透明化能力を使いながら飛行しているのだ。戦闘機の撃墜を担当してくれている本堂とミオンも、この透明の風天には気づいていない様子である。
「師匠には風の練気法の”風見鶏”があるけれど、この飛行する戦艦の強烈な風圧が邪魔して、周りを飛び回っている戦闘機までは完璧に察知ができないんだ……!」
透明になっている風天が軌道を変えて、こちらに突っ込んできた。
それを見てシャオランは、ドゥームズデイの狙いを確信する。
ドゥームズデイの狙いは、日向の意識を攻撃に集中させ、その隙に透明化させた風天を日向に激突させて、この戦艦から吹っ飛ばして落としてしまうことだ。
日向の火力は、ドゥームズデイを倒すのに必要不可欠。
彼がこの戦艦から落とされたら、ここまでの戦闘が全て無駄になる。
ゆえにシャオランは、迷う暇なく動いた。
ドゥームズデイに斬りかかる日向を、横から突き飛ばしたのだ。
「ヒューガ、危ないっ!!」
「えっ……!?」
その直後、透明状態の風天の右翼がシャオランに激突。
かっさらわれるように、シャオランは甲板の上から落とされてしまった。