第1271話 雷光の如く
シャオランがドゥームズデイの斬撃を受けて、吹っ飛ばされてしまった。
甲板に叩きつけられて転がるシャオラン。ダメージは大きく、胴体を大きく焼き斬られてしまっているようだ。傷口からは黒煙が噴き出ていて、血も大量に流れている。
「あぐ……くぁ……!」
「シャオラン! 大丈夫か!?」
今すぐシャオランを助け起こしに行きたい日向たちだが、目の前にいるドゥームズデイが邪魔でシャオランのもとに駆けつけることができない。ドゥームズデイの横を通り抜けようとすれば、まず見逃されずに背中をやられるだろう。
「ダメージは大きいようだが、シャオランは斬りつけられる寸前で後ろに跳んで刃から逃れたようだ。まともに喰らっていたら、今頃シャオランは真っ二つでもおかしくはなかった」
「シャオランは心配だが、それより問題は目の前のコイツだぜ……。何だったんだ今のスピードは……? 速いなんてモンじゃねぇ、完全に瞬間移動だったぞ……」
「”瞬間移動”の超能力か? いや、それとも違う気がする……。超能力使用の予備動作みたいな、精神を集中させる様子がまったく無かった……!」
ドゥームズデイがこんなに速く動けるとは思わず、日向たち三人はうろたえてしまっている。目の前にドゥームズデイがいるというのに、好戦的な日影さえも警戒のあまり攻撃を仕掛けることができない。
ちょうどそれぞれミサイルと雨天を始末し終えたミオンとエヴァも、今のシャオランがやられた光景を見ていた。
「シャオランくん……!? いえ、まだあの子は無事。私が冷静さを失ったら、皆がパニックになっちゃうものね……!」
「今の動きはいったい……!? たとえ私が『星の力』を全て保有していたとしても、あれほどの速度はまず出せない……。いったいどんな能力を用いたというの……!?」
すると、ドゥームズデイが目の前の日向たちではなく、より離れた位置にいるエヴァに顔を向けた。
そして次の瞬間。
ドゥームズデイが、エヴァの目の前に現れる。
「なっ……!?」
「ruuu...!!」
ドゥームズデイは逆手に持っていた大剣の柄をまっすぐ突き出し、エヴァのみぞおちに食い込ませた。
「あっ……!? ぅ、けほっ……!」
吐き気を催すほどの重い衝撃。
たまらず、エヴァはうずくまってしまう。
「わ、私を狙ってきたのは、後方火力を潰すことだけじゃない……。雷撃を防ぐ電磁結界と、この猛スピードで進む戦艦に振り落とされないよう重力を操作している私を排除することで、この二つの能力を解除させるため……!」
エヴァがいるからこそ、日向たちはドゥームズデイと戦うことができている。その大前提が覆されると、もはや日向たちはドゥームズデイとまともな戦闘すらできなくなる。このドゥームズデイの外殻たる雨雲の中にいる限りどこへ逃げようが落雷を受けてしまい、飛行中の戦艦にかかる風圧に耐えきれずに吹っ飛ばされることになるだろう。
だからこそ、どんな痛みに襲われようと、エヴァは意識を失わないよう己を保ち続けるしかない。能力を維持しなければならない。
それは分かっている。
現に今も、痛みに意識を持っていかれないよう耐えている。
だが、意識は失わねど、痛みのあまり立ち上がることができない。
「このままでは、どのみち追撃を受けてしまう……!」
「させないわよ!」
そこへミオンが助けに入ってくれた。
纏う気質は、彼女が最も得意とする”風の気質”。
ドゥームズデイは左腕を構えて、ミオンの攻撃をガードする体勢。その雷電の身体でミオンの攻撃を受け止め、彼女の拳を焼くつもりだ。
しかしミオンは風の練気法の技”衝波”を使い、拳を繰り出すと同時に超至近距離でドゥームズデイに衝撃波を当てて、ドゥームズデイの雷電の身体に直接触れることなく拳撃を浴びせていく。
「シャオランくんの真似だけど、さすがに地震の衝撃と比べると、私の”衝波”の威力はちゃっちいわね~……。あまりダメージが入っているように見えないわ~……!」
とはいえ、それでいい。今のミオンの目標は、負傷したエヴァやシャオランからドゥームズデイの注意を引くこと。そのためには、ドゥームズデイに攻撃を浴びせているという現在進行形の事実が重要だ。
すると、ドゥームズデイがミオンの目の前から消えた。
「……右!」
とっさに上体を反らすミオン。
いつの間にか彼女の右に現れていたドゥームズデイが、右のハイキックを繰り出していた。
前もって上体を反らしていたので、ミオンはドゥームズデイのハイキックを回避することに成功。しかし、ミオンが体勢を戻すより早く、ドゥームズデイが再び姿を消す。
「後ろ……? いえ、これは、狙いは私じゃない……!」
すぐさま後ろを振り向くミオン。
その視線の先には、ミオンから少し離れた位置にいる日向たち三人。
その三人のうち、本堂の背後にドゥームズデイは現れていた。
「ruuooo...!!」
完全に本堂の背後を取ったドゥームズデイは、あらかじめ振り上げていた大剣を、本堂の後頭部めがけて振り下ろす。
さすがの本堂も、ドゥームズデイの動きがあまりに速かったので、まだドゥームズデイの方を振り向くことさえできていない。この攻撃は防げない。
……かと思われたが。
本堂は背後を見ずに、右腕の刃を頭上に構える。
その結果、ドゥームズデイの大剣は本堂の腕刃に受け止められた。
ガードの衝撃で、本堂が立っていた甲板にひび割れが奔る。
「くっ……! ミオンさんの視線が俺の背後に向いていると思ったら、やはりか……!」
本堂はミオンの視線で、ドゥームズデイが自分の背後に回り込んだことを把握したようだ。彼の異常な反応速度だからこそできた芸当だ。
いったんドゥームズデイから距離を取る本堂。
その本堂と入れ替わるように、日向と日影がドゥームズデイの両サイドから斬りかかる。
「はぁぁっ!!」
「おるぁぁッ!!」
……が、二人の目の前でドゥームズデイは姿を消し、二人の『太陽の牙』は空振った。そこにあったのはドゥームズデイの身体を構成していた雷電、その残滓のみ。
「二人とも、上だ!」
すぐに本堂の声がかけられた。
その声を聞くが早いか、日向と日影はその場から飛び退く。
直後、先ほどまで日向と日影がいた場所にドゥームズデイが降ってきた。大剣の切っ先を、二人がいた場所に深々と突き刺す。あれで日向たちをまとめて串刺しにするつもりだったようだ。
戦艦の甲板からゆっくりと大剣を引き抜くドゥームズデイ。
一方、日向はドゥームズデイのスピードについて、何か気が付いたような様子だった。
「一瞬だけ……。ドゥームズデイがエヴァの目の前に現れる瞬間や、本堂さんの背後に回り込む瞬間、その二人に向かって空間に稲妻がピリって走るのが一瞬だけ見えた……」
それを見た日向は確信する。
ドゥームズデイは瞬間移動を行なう際、その肉体を純粋な雷電に変化させ、この空間を取り巻く雨雲の中を伝うことで、文字通り雷光の速度で動いていたのだ。