第1270話 王座を揺るがす
ドゥームズデイが右手に握る大剣で薙ぎ払いを繰り出す。
日向、日影、本堂の三人に雷電の刃が襲い掛かった。
三人はそれぞれの武器で防御態勢を取り、ドゥームズデイの薙ぎ払いをガード。しかし大きく弾き飛ばされ、ドゥームズデイとの間合いが開いた。
「くぅぅっ! くそっ、駄目だこりゃ! いっそ笑えるくらいに隙が無い!」
「笑えるかアホ! 相手は座ったまま、こっちは三人がかりでまだ一撃だって喰らわせられねぇってどうなってんだ!」
「大剣を取り回す動作に無駄が全く無いように見える。火力、戦闘技術、共に欠点無しの難敵というわけだ。狭山さんの前座、『星殺し』でさえこの戦闘力か……!」
押し戻された日向たち三人は、そのドゥームズデイの実力の高さに舌を巻く。
……と、その時。
日向たち三人の後ろから、シャオランが飛び出した。
シャオランはそのままドゥームズデイに向かってまっすぐ走る。
「いくぞぉぉ!」
「あ、ちょ、シャオラン! 素手で攻撃するつもりか!? 無茶だ! また拳を焼かれるぞ!」
「奴の剣もまた雷電で造られたものだ! 攻撃を受け止められるだけで電撃を流されるぞ、シャオラン!」
日向、本堂がそれぞれシャオランを呼び止めるが、シャオランは走るスピードをまったく緩めない。
シャオランに距離を詰められるより早く、ドゥームズデイは大剣でシャオランを斬りつける。右上から左下にかけての袈裟斬りだ。ガッツリとシャオランを射程圏内に捉えており、もはやどう足掻いても避けきれそうには見えない。しかしガードすればその瞬間に電撃を流される。
強烈な金属音が鳴り響いた。
そして同時に、ドゥームズデイの大剣が弾き返されていた。
「え? シャオランがドゥームズデイの大剣を弾いたのか?」
何が起こったのか把握できず、キョトンとする日向。
たしかに、間違いなくシャオランがドゥームズデイの大剣を弾いた。だというのに、シャオランは電撃を流されたような様子はまったく見受けられない。はっきりとノーダメージだ。日影と本堂も、顔にはあまり出ていないが驚いている様子である。
斬りかかってきた大剣をどかし、シャオランがドゥームズデイに肉薄。震脚を踏んで拳を突き出した。
これに対してドゥームズデイは、左手を構えてシャオランの拳を受け止めにかかる。雷そのものの左手でシャオランの拳を焼くつもりだ。
しかしシャオランもすぐにドゥームズデイの狙いを把握。いったん右拳を中断し、右掌底に切り替えてドゥームズデイの左手を下から突き上げた。
シャオランが右掌底を当てた際に、空間が破裂したような音が生じた。かなり大きな音だった。離れた位置にいる日向たちにもしっかりと聞こえたくらいに。そしてやはり、今回もシャオランの右手はドゥームズデイの身体に焼かれていなかった。
ドゥームズデイの防御を崩したシャオランは、左手で掌底を繰り出し今度こそドゥームズデイを攻撃。
「やぁぁッ!!」
再び空気が破裂したような音が鳴り響き、同時にドゥームズデイの身体が玉座に座ったままぐらりと揺れた。シャオランの攻撃が命中したのだ。
「ruu...!?」
「まだまだぁッ!!」
続けて二撃目、三撃目を繰り出すシャオラン。
その全てがドゥームズデイに命中する。
今まで日向たちの攻撃を無傷で凌いできたのが嘘のように。
シャオランがドゥームズデイに攻撃を当てる時、決まってこれまでも鳴っていた空気が破裂するような音が響き渡る。この音こそシャオランがドゥームズデイに拳を焼かれることなく攻撃できる秘密なのは間違いないだろう。
しばらくシャオランを見ていた日向たちは、シャオランがどうやってドゥームズデイに拳を焼かれず攻撃できているか気づいた。
「そうか、”地震”の能力か! 空間に地震の震動エネルギーを叩きつけて衝撃波を生み出す”地震”の能力を利用して……!」
「シャオランは拳でドゥームズデイを殴っているように見えて、実際は超至近距離で”地震”の衝撃波をぶつけているという事か。成る程、考えたな。それならドゥームズデイに接触することなく近接戦闘を仕掛けることが出来る」
「そしてシャオランの戦闘技能はドゥームズデイの野郎を上回っているから、バカスカ攻撃を当てることができるっつうワケだ。いったんオレたちはシャオランを邪魔せず、ドゥームズデイが動きを見せるまで任せておいた方が良さそうだな」
日影の言葉に日向と本堂もうなずき、シャオランの戦いの動向を見守ることにする。
超至近距離でこそ真価を発揮するシャオランの八極拳。こうなると、リーチの長さを活かせなくなるドゥームズデイの長大な剣はただのハンディキャップだ。おまけにドゥームズデイは相変わらず玉座に座ったままなので後退もできない。
さすがにドゥームズデイも余裕がなくなってきたか、声を荒げて大剣を振り上げ、そして右から左へ大きく薙ぎ払った。紫の稲妻の剣閃が扇の形を描く。
「ruuuooooo!!!」
……が、シャオランは余裕をもってその動作を捉え、バク宙で軽々と回避。そして再びドゥームズデイとの距離を詰め、震脚と共に渾身の発勁を打ち込んだ。
「せやぁぁッ!!」
”地震”の震動エネルギーを乗せて打ち込まれたシャオランの勁。大規模な衝撃が走り、その衝撃はドゥームズデイの背後の艦橋まで粉砕してしまうほどだった。
ドゥームズデイごと粉砕された艦橋が煙を上げ、シャオランとドゥームズデイの姿が隠れる。シャオランは後ろへ大きく飛び退いて、煙の中から脱出。日向たちの前に着地した。
「シャオラン! やっぱり強いなお前! あれだけ余裕を見せてたドゥームズデイがボッコボコだ!」
「えへへ、ありがと!」
「シャオラン、ドゥームズデイは仕留めたのか?」
「いや、まだだよホンドー。手ごたえはあったけど、アイツはまだやる気だ!」
シャオランがそう言い終わると同時に、ドゥームズデイの姿を隠していた煙も晴れてきた。
戦闘開始時からずっと座っていた玉座は見るも無残に破壊され、ドゥームズデイは立ち上がっていた。足を肩幅に開き、右手に大剣を握りしめ、日向たちに顔を向けている。その顔に瞳のようなものは見当たらないが、それでも射抜かれるような視線を感じた。
そして次の瞬間。
ドゥームズデイが日向たちの目の前、シャオランの背後に回り込んだ。
「……え?」
とっさに振り向くシャオラン。
その時にはドゥームズデイの雷刃が振るわれ、シャオランは吹っ飛ばされていた。