第1269話 正面からしか
飛空艇から視点は切り替わり、こちらは巨大戦艦に乗り込んでいる日向たちの様子。
日影と本堂が交互に、玉座に鎮座しているドゥームズデイ本体に斬りかかる。そして二人の攻撃の切れ目に、日向がイグニッション状態の『太陽の牙』でトドメの一撃を放つ。
「おるぁッ!! うるぁッ!!」
「ふっ……!」
「りゃあああっ!!」
しかし、これら全ての攻撃はドゥームズデイが構える右手の大剣に受け止められた。人間三人分はあるかというほどの長大な剣を片手で扱っているにもかかわらず、その取り回しは棒きれでも振り回すかのように軽やかだ。
今度はエヴァが、ドゥームズデイに杖の先端を向けた。
「凍り付け……”スカジの吐息”!!」
エヴァが詠唱を終えると、ドゥームズデイの周囲に蒼い冷気が立ち込める。そして数拍置いてから、空間がドゥームズデイごと凍り付いた。これはゼムリアも使っていた、絶対零度を超える超冷気だ。それをドゥームズデイの周囲にピンポイントで発生させた。
分厚い氷に閉じ込められたドゥームズデイ。
時が止まったかのようにピクリとも動かない。
だが数秒後、氷にヒビが入り、ドゥームズデイが全身からまき散らす稲妻と共に氷が砕け散ってしまった。ドゥームズデイにダメージを受けたような様子は見受けられない。何事も無かったかのようである。
「これでも駄目ですか……!」
「じゃあ次は私の番よ~! 何十発も”如来神掌”を叩き込んでやったら少しは効くでしょ!」
そう言ってミオンが構えを取る。確かに巨大建造物を一撃で吹き飛ばし、回数を重ねれば岩山をも崩落させるその技ならば、さすがのドゥームズデイも余裕ではいられなくなるだろう。
だがその時、六人の背後で何かが次々と射出される音がした。
振り返って見てみれば、この巨大戦艦の左舷と右舷のハッチから多数のミサイルが打ち上げられていた。しかしその標的は飛空艇ではなく、ここにいる日向たち六人である。
「これは……! 誰かが撃ち落とさないと危ないわね……!」
そう言ってミオンはやむなく、ターゲットをドゥームズデイからミサイルに切り替える。上空から飛来してくるミサイルの群れに”如来神掌”を立て続けに放ち、空中で誘爆させていく。
ミオンのおかげでミサイルは脅威ではなくなったが、今度はドゥームズデイがフリーになる。ドゥームズデイに背中を見せてミサイルを迎撃しているミオンを狙って、ドゥームズデイは右手の大剣を振り上げる。雷の刃を飛ばして攻撃するつもりだ。
「させないッ!!」
ミオンをカバーするために、シャオランがドゥームズデイに”炎龍”を放った。蒼白い気の奔流がドゥームズデイめがけて飛んで行く。
ドゥームズデイは振り上げた右の大剣は戻さず、左手をシャオランに向けた。そしてその左の手のひらから極太の雷の光線を発射。あっという間にシャオランの”炎龍”をぶち抜き、その先のシャオランに迫る。
「ひゃっ!?」
左へ飛び込むようにして回避するシャオラン。
どうにか光線に巻き込まれることは避けたが、顔色は青い。
先ほどのドゥームズデイの光線の威力に戦慄しているのだ。
「今の光線……規模こそ人間サイズだったけど、火力はあの嵐の戦艦の主砲にも劣らないレベルだった……! そりゃそうだよね、あの嵐の戦艦はドゥームズデイ自身のエネルギーを用いて生み出されてる。であれば、生みの親であるドゥームズデイ自身があの主砲と同等の攻撃を繰り出せても何もおかしくはない……!」
やはりドゥームズデイの本体の戦闘性能は、今までの『星殺し』の本体の性能と比較すると別格だ。火力だけならプルガトリウムが匹敵しそうだが、ここまで高い戦闘技能を両立させている『星殺し』本体は今までいなかった。
悪いニュースは続く。今度は巨大戦艦の周囲を飛び回っていた雨の異能の戦闘機、雨天が日向たち六人に攻撃してきたのだ。四機ほどの雨天が酸性雨の機銃を掃射し、雨のミサイルを撃ち込んでくる。
「ぬっ……! 雨天か、横槍を入れてきたな」
「熱つつつ!? くそ、少し喰らった! ドゥームズデイだけでもこんなに手強いのに、雨天なんて相手にしていられないぞ!?」
「ですが、無視できる相手でもありません! 雨天は私が対処します。皆さんはドゥームズデイを抑えていてください……!」
そう言ってエヴァが、飛び回る雨天に雷撃を放って撃墜にかかる。さっそく一機墜としてくれたが、まだあと三機も飛んでいる。
その間にドゥームズデイが好き勝手暴れないよう、日向と日影と本堂の三人が引き続きドゥームズデイに近接戦を仕掛けていく。日影と本堂が勇猛果敢にラッシュを繰り出し、日向がトドメの一撃を放つ。先ほどと同じ戦法だ。
だが、やはりドゥームズデイに日向たちの刃が届くことはない。あと一歩で一太刀浴びせることができそうな雰囲気だが、どうしてもあと少しのところで防がれてしまう。
「ドゥームズデイは玉座に座りっぱなしで戦っている。後ろは壁だから万が一の時に下がることもできない。それは一見するとこっちをすごく低く見ているようだけど、実際には後ろに敵が回り込むことがないから、背後を気にせずに戦えるという見方もできる……」
日向たちが三人がかりでもドゥームズデイに攻撃を当てることができないのは、そこも大きく関係しているとシャオランは見ている。日向たちはドゥームズデイの正面から攻めるしかなく、多方向から同時に攻撃できるという多対一のメリットを一つ潰されている状況だ。
この状況でドゥームズデイに攻撃を当てる方法は一つ。ドゥームズデイを上回る戦闘技術で正面から打ち破るのみ。
シャオランか、あるいはミオンなら、それは十分に可能だろう。この二人はここにいる六人の中でも突出した近接戦闘能力を有している。
しかしシャオランもミオンも、得意の素手戦闘は封じられている。ドゥームズデイに触れたら、彼を構成する雷電で拳を焼かれてしまうからだ。ミオンに至っては飛来してくるミサイルへの対処に追われ、現状ドゥームズデイと相対すらできていない。
「それでも……やるしかない!」
そう言ってシャオランは駆け出し、ドゥームズデイへと向かっていく。
このまま拳を繰り出しても、先ほどと同じようにシャオランは拳を焼かれるだけだ。彼はいったいどうするつもりなのだろうか。