第13話 再生の炎
「きゃあ!?」
あまりに大きな音を受け、北園は思わず耳を塞ぐ。
「な、何……? 何が起こったの……?」
周りを見渡し、周囲を確認する。
そして前方に、血を流して倒れている日向を見つけた。
ライジュウが天に向かって一声吠えた瞬間、日向に向かって空から雷が落ちてきたのだ。落雷を避けきれるはずもなく、日向の脳天に直撃してしまった。
「ひ、日向……くん……?」
恐る恐る呼びかける。しかし日向は何も反応しない。
その身体は焼け焦げており、身体はビクビクと痙攣している。
その様子は、誰が見ても、彼が生きているとは思わないであろう、凄絶なものだった。
「うそ……日向くんが、死んじゃった……!?」
日向の惨状を見て、北園が青ざめる。
想定外の事態に、脳内の思考系統が混乱する。
(ど、どうしよう……これじゃ予知夢の内容と……いや、今は日向くんの心配をしないと……!)
そう考えているうちに、ライジュウが北園に飛びかかってきた。
「わわっ!?」
震える足に力を入れ、身体ごと投げ出すように跳ぶ。
背後で、ライジュウがズシンと着地する音が聞こえた。
北園は振り返らず、土手に向かって走り出した。
(私じゃ、勝てない……! ここは逃げないと……! いや、今は日向くんの治療を。ダメだ、助かるわけがない。でもこのままじゃ予知夢が……! いやその前に目の前のライジュウをなんとかしないと……!)
北園は、完全にパニックになっていた。
そして、ライジュウはその隙を見逃さない。
北園の後を追い、その身体を食いちぎらんと顎を開く。
「い、嫌っ!」
両手をライジュウにむかって掲げ、エネルギーの壁を作り出す。念動力を集中させることによって作り出すバリアーだ。これによって北園は、ライジュウの牙を防ぐことに成功した。
しかしライジュウの勢いは止まらず、バリアーごと北園を土手まで押し込む。
「ウオオオーンッ!!」
「だ、ダメ、止められない……!」
そのまま土手に押し倒される北園。
目の前には、今にもバリアーを食い破らんとするライジュウ。
「グルルルルル……!」
「うううう……もうダメ……!」
ライジュウの牙が、バリアーにめり込んでいく。
もはやバリアーも限界。北園は思わず恐怖で目を瞑る。
その時。
「グギャアアアアア!?」
ライジュウが、ひと際大きな悲鳴を上げた。
何事かと思い、北園が再び目を開くと……。
「うおおおおおおっ!!」
「ひ、日向くん!?」
全身から炎を噴き上げながら、日向がライジュウの脇腹を刺し貫いていた。
◆ ◆ ◆
「ガアアアアア!?」
「こ……のぉ……!」
炎を纏いながら、日向がライジュウの脇腹に剣を突き立てる。
ライジュウは日向を振りほどこうと暴れまわるが、その勢いを利用して、日向はさらにライジュウの傷を抉っていく。
しかし巨大なライジュウの抵抗に長く耐えることはできず、日向は地面に投げ出された。
「ウオオオンッ!!」
「うわっ!?」
濡れた地面に転がされる日向。
ライジュウからの追撃を警戒して、すぐさま身を起こす。
しかし、警戒していたライジュウからの追撃はやって来ない。
それどころか、ライジュウは足を引きずり、二人から遠ざかっていく。
「グ……グルルルル……」
「あいつ、逃げる気か!」
日向は剣を手に、ライジュウの後を追う。
その後ろで、北園が両手を地面につき、冷気を放出する。
「に、逃がさない! 凍結能力っ!」
地面を張っていく氷が日向の側を追い抜く。
そしてライジュウに追いつき、彼の脚を捉えた。
「ガ、ガアアアア!?」
突然、自身の足が凍り付き戸惑うライジュウ。
「グ……グオオオオオオオ!!」
ライジュウが再び怒号を上げる。
辺りに再び、二度、三度と轟音が鳴り響く。落雷だ。
「うわわわわわあっ!?」
絶叫を上げ、耳を塞ぎながらも、日向は走る脚を止めない。
止まれば、先ほどのように撃ち抜かれる。
生き延びるためには、あえてライジュウに距離を詰めなければならない。
距離を詰め、トドメを刺し、この戦いを終わらせるのだ。
(残り、三歩、二歩、一歩、今だ!)
合図と共に剣を構え、地面を踏みしめる。
そして。
「もらったぁ!!」
「ギャアアアアアアアア…………」
全体重を乗せて剣を突き出す。
ライジュウの身体は再び剣で貫かれ、切り裂かれる。
ライジュウは断末魔の叫びをあげ、地に倒れた。
◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ……お、終わったか……」
日向が肩で息をしながら呟く。
身体から噴き出していた炎は、既に消え去っている。
そして、始めから雷など受けてはいなかったかのように、日向の身体には傷一つ無い。例の炎が治してしまったのだろう。自身の超能力をも超える超常現象に、北園は驚くしかない。
(信じられない……。あの状態からでも回復するなんて。回復力で言えば、私の治癒能力を遥かに超えている……)
しかし、回復できたということは、彼は死んでいなかったのだろう。奇跡的な出来事に、北園は自然と胸を撫で下ろした。
そんな北園に、日向が声をかける。
「と、とりあえず、移動しようか。雷の音で人が集まって来るかもしれないし」
「そ、そうだね。行こっか……?」
日向の提案を受け、二人は土手を上がっていく。
雨は上がり、雲の間から日差しが差し込んできた。
それはまるで、戦いの勝者たちを祝福するかのように。