第1264話 敵旗艦へ乗り込め
ドゥームズデイ本体が搭乗する巨大戦艦。
その巨大戦艦を追う、日向たちが乗る飛空艇。
その飛空艇を狙う、複数の異能の戦闘機と嵐の戦艦二隻。
旗艦と僚艦、そして戦闘機が追従する様はまさに艦体。
その光景を見て、日向がつぶやく。
「もしかして、ワイルドハントの要素が入ってるのかこれ……?」
「わいるどはんと、とは何ですか?」
エヴァが日向に尋ねる。
その質問に答える日向。
「ヨーロッパあたりで伝えられている伝承で、時代や地域によって色々と細かい部分が違っているから俺も詳しく知っているわけじゃないんだけど、だいたい共通するのは亡霊の猟師団とか軍隊の姿で描かれて、時には嵐と関連付けて語られることもあるってことかな。ヨーロッパ版百鬼夜行みたいな」
「亡霊、軍隊、嵐……なるほど、このドゥームズデイにも関係する要素がいくつかありますね」
「狭山さんが嵐という災害を『星殺し』という形にするにあたってモチーフにしたのかもしれない。あの人そういう遊び心好きだし。まぁだからと言ってワイルドハントの弱点とかは知らないし、ただ思ったことを言っただけなんだけど」
とはいえ、これは厄介な展開になった。今から日向たちはドゥームズデイ本体を倒すために巨大戦艦に乗り込もうとしていたところだが、ここで乗り込めば飛空艇の守りが薄くなる。
この嵐の中で雷電と暴風に負けずに戦うため、エヴァは絶対に巨大戦艦に乗り込んでもらわなければならない。それだけでも、飛空艇は雷天のミサイル攻撃を自前のバリアーで耐えなければならなくなる。雷天の雷のミサイルの威力は凄まじい。再起動したバリアーもあっという間に剥がされるかもしれない。
先に異能の戦闘機や嵐の戦艦を撃墜し、安全を確保してから巨大戦艦に乗り込むという選択肢もある。時間はかかるだろうが、飛空艇が撃墜される心配は大きく減るだろう。
……と日向は考えたが、すぐに首を横に振った。
「いや、駄目だ。さっき雲の中から異能の戦闘機が現れたみたいに、ドゥームズデイは戦闘機や戦艦が撃墜されても、撃墜された分をそれなりのペースで補充できる。そうなれば戦いはかなり長引くことになる。北園さんだっていつまでもこの飛空艇を飛ばすことはできないんだ」
この飛空艇は北園の精神エネルギーを動力として動いている。そのため、北園が消耗しきってしまえば、もうこの飛空艇は動かせない。そのまま地上へ落ちていくことになる。
北園のためにも、この戦闘は短期決戦で終わらせるのが最善だ。それでも飛空艇の守りを薄くすることに不安を捨てきれない日向だが、先ほどミオンから「もっと積極性を持て」と言われたことも思い出し、決断することにした。
「ここにいる全員で敵旗艦に乗り込んで、一気に勝負をつける! 北園さんたちは自力で戦闘機と嵐の戦艦を相手してほしい! ロックフォール親子は飛空艇の援護を! 飛空艇の操縦が急に良くなったのと、ユピテルが思った以上に活躍してくれるから、そこに期待しての判断だけど、いけそう!?」
『りょーかいだよ! 勝負を仕掛けるなら、これくらいのリスクは背負わなきゃだもんね。こっちも頑張るから、日向くんたちも頑張って!』
「ありがとう! 北園さんたちもどうか無事で!」
飛空艇が巨大戦艦のすぐ上までやって来た。乗り込むには絶好の位置だ。日向たちは甲板から身を乗り出し、眼下の巨大戦艦を確認する。
「私の異能で暴風の影響を軽減し、確実に乗り込めるようにサポートします。行きますよ、ついて来て下さい……!」
そう言ってエヴァが先行。
同時に日向たちも動き、皆そろって飛空艇から飛び降りた。
改めて、乗り込むのは日向、日影、本堂、シャオラン、エヴァ、ミオンの六名。
吹き荒ぶ暴風が日向たちを巨大戦艦の外へ流す危険もあったが、エヴァが宣言通りにしっかり異能で着地のサポートをしてくれたため、日向たちは風に流されることなく巨大戦艦への乗り込みに成功。重力制御により着地の衝撃も和らげてくれるおまけ付きだ。
着地し、顔を上げる日向たち。
すぐ目の前に、雷電が人間の形となったようなドゥームズデイ本体が玉座にふんぞり返っていた。
「いた。こいつが……!」
すると早速、ドゥームズデイが攻撃を仕掛けてきた。煩わしそうに左手を振ると、日向たちを取り巻く雨雲を伝って強烈な雷電が迸る。
雷を落とすのではなく、相手が立っている空間全体を瞬時に雷で包み込む。こればかりはたとえ本堂の超反射神経やミオンの武術経験でも回避することは不可能だ。これをその場で回避するのは、水の中で「水に濡れるな」という無理難題と同義である。
しかし、日向たちを焼こうとしたその雷電は弾き返された。エヴァが展開する電磁場のおかげである。日向たち六人をそれぞれヴェールのように包み込んでいる。
「エヴァ連れてきて本当に良かった。それじゃあまずは一撃……!」
そう言って日向がドゥームズデイに向かって飛びかかる。
振りかぶる『太陽の牙』はイグニッション状態。
対するドゥームズデイは頬杖をつくことを止め、右手に雷電のエネルギーを集中。その雷電を超能力で結晶化し、五メートルはあろうかという長大な片刃の剣を生成。日向の斬撃を玉座に座ったまま受け止めた。
日向の燃え盛る『太陽の牙』と、ドゥームズデイの雷電の大剣。
両者の刃がぶつかり合い、火花と稲妻をまき散らす。
「焼き斬れない……! 相手の剣の火力は”点火”とほぼ互角か……!」
「ruuu...ruuuoooooo!!」
ドゥームズデイが大剣を振り抜いた。
日向はドゥームズデイのパワーに耐え兼ね、吹っ飛ばされる。
吹っ飛ばされた日向は空中でうまく体勢を整え、ブレーキをかけながら着地した。一方、ドゥームズデイは余裕ぶっているのか、まだ玉座から立ち上がらずにふんぞり返ったままだ。
今の日向とドゥームズデイの攻防を見て、日影がつぶやく。
「なるほど、余裕ぶっているだけのことはあるぜ。あの野郎、これまでオレが見てきた『星殺し』の本体の中では一番強ぇぞ。本体を追い詰めたからって油断しない方が良さそうだぜ」
「勝負は此処からということか。北園たちも心配だが、焦らずに確実に勝ちに行くとしよう」
日影の言葉を聞いて、本堂がそう答える。
その一方で、ミオンはシャオランに声をかけていた。
「シャオランくん。いよいよ私たちの町を焼いた怨敵を追い詰めたわけだけど、急がないようにね。日影くんも言ったように、相手は強いわ。あの火力、一歩間違えれば私とて致命傷を負うことになる。冷静に、相手の動きを見るのよ」
「うん、わかってる。お父さん、お母さん、ハオラン、リンファ、そして町の皆のためにも、ここまで来て負けるなんてありえない。絶対に勝つよ……!」
そう言って、シャオランの身体から蒼白いオーラが湧き出る。彼の勇気に呼応する”空の練気法”だ。いつものように怖がるシャオランの姿は、そこには一切ない。
ドゥームズデイは相変わらず玉座から動かない。しかし、彼の中のスイッチが一段階切り替わったように感じた。玉座に座ったままのドゥームズデイから、明確な戦闘の意思を日向たちは感じ取った。
相手は稲妻と暴風を司る『星殺し』。
それぞれ異能の中でも特に火力と応用力に秀でる属性だ。
この討滅戦は、これまで以上に熾烈を極めることになるだろう。




