第1261話 雲隠れの襲撃
ドゥームズデイが生み出す雨雲……巨大な積乱雲の中に突入した日向たち。
その日向たちを待ち構えていたのは、雨雲に紛れて襲撃してくる三種の異能の戦闘機。マッハに達するスピードと強烈な火力で日向たちを攻め立ててくる。
黒い積乱雲の中を、飛空艇が駆け抜ける。
異能の戦闘機の群れが、雲に隠れながら飛空艇を追う。
飛空艇の上しか足場がないので、四方八方から襲い来る戦闘機に対して日向たちは満足に動けないまま迎撃を強いられている。何機かは本堂の”轟雷砲”やミオンの”如来神掌”が命中して撃墜できたものの、すぐに新しい戦闘機が補充される。
現在、エヴァが電磁場で飛空艇全体を包み込んでくれているので、最も火力が高い雷天の雷のミサイルおよび雲の中を奔る稲妻は防ぐことができている。しかし風天と雨天の攻撃は飛空艇のバリアーが消失している今、遮断することができない。
雨天の酸の機銃は飛空艇の甲板全体にばら撒くように射撃してくるので避けようがない。じわじわと日向たちの体力を奪っていく厄介な攻撃だ。
風天の暴風のミサイルも威力が高いので危険だ。おまけに一部の風天は透明になって突撃を仕掛けてくる。大質量とマッハの速度で繰り出される突進攻撃は、たとえ今の超人的な能力を持つ日向たちであっても致命的なダメージを受けることになるだろう。絶対に喰らうわけにはいかない。
日向たちも黙ってやられっぱなしでいるわけではない。ロックフォールとユピテル、それから”オーバーヒート”を使用する日影が飛空艇の周囲を飛び回り、戦闘機に攻撃を仕掛けている。
ロックフォールの息子である大鷲、ユピテルの空中機動はまるでSF映画の宇宙戦闘機だ。翼を全く羽ばたかせずに空を飛び、急に上下や左右に方向転換してみせる。その体色に合った金色の飛行の軌跡が美しい。
「ケェェェェーン!!」
そしてターゲットを定めると、ユピテルは光の矢のように一直線に突進。雨天の機体を上から下へと貫いてみせた。雨天は水が弾けるように爆発四散。
息子に負けじとロックフォールも奮闘する。甲板の上の日向たちに突撃を仕掛けるべくまっすぐ飛んでいた風天を、横から蹴爪で蹴り飛ばした。
「ふんっ!」
強烈なロックフォールの蹴りを喰らい、風天の軌道が大きく逸れる。おまけに左翼を破損させられ、飛行のバランスも保てなくなったようだ。そのまま風天は地上へと落下していった。
そのロックフォールを一機の雷天が狙う。ロックフォールの背後から雷のミサイルを発射してきた。飛空艇から離れて戦っているロックフォールは、エヴァの電磁場に守られていない。ミサイルに被弾したら、そのままダメージを受けることになる。
ロックフォールは間一髪でミサイルの接近に気づき、大きく翼を一回羽ばたかせて上昇。ミサイルを飛び越えて回避した。
だが、回避後のロックフォールを背後から狙う、もう一機の雷天が雲の向こうから姿を現した。ロックフォールのガラ空きの背中に雷のミサイルを三発撃ち込む。
「ぐぅぅ!?」
大きく頑丈な岩の鳥であるロックフォールも、この雷のミサイルは堪えたようだ。背中が大きく抉られてしまっている。ロックフォールはバランスを崩して落下しかけたが、どうにか体勢を整えることができた。羽ばたきを続行して空を飛び続ける。
しかし、先ほどロックフォールにミサイルを撃ってきた二機の雷天が、再びロックフォールに攻撃を仕掛けようとしている。二機は横に並んで飛行し、ロックフォールに照準を合わせる。ミサイル発射の用意だ。
するとここで、日影が赤白い炎を纏いながら、二機の雷天の左上から突撃。それこそ流星のような猛スピードで、軌道上にいた二機の雷天を蹴散らした。日影に撥ね飛ばされた雷天はあえなく大破、落下していく。
二機の雷天を仕留めたのを確認し、日影がロックフォールに声をかけた。
「大丈夫かロックフォール? 雷天の奴ら、飛空艇に手出しできねぇからって、お前を積極的に狙ってやがるな」
「そのようだ。足手まといになってしまっているな。いざという時は切り捨ててもらって構わない」
「馬鹿言え。この嵐の中を飛び回って戦えるってだけでも大活躍だろうが。その頑丈な身体のおかげだな。引き続きキリキリ働いてもらうぜ」
「鳥使いの荒いことだな。いいだろう」
「……っと、飛空艇のケツを風天が追いかけてやがる。メインブースターを攻撃しやがるつもりか、させねぇぜ。ちょいと叩き落としてくる」
「うむ、分かった」
日影とロックフォールは空中で二手に分かれ、それぞれターゲットとして定めた標的を撃墜にかかる。
飛空艇の外で皆が奮闘するその一方で、飛空艇を操縦する北園もミサイルを発射して戦闘機の撃墜を図っている。しかしうまくいかないようで、ミサイルが戦闘機に命中してくれない。
戦闘機は雨雲に巧みに隠れながら飛行しているので、北園が戦闘機をロックオンするのが遅れてしまっているようだ。発射した時にはすでにミサイルの射程圏外まで逃げられている。
「ああもうー! また外れちゃった!」
「北園ちゃんー! 左から風天が来てるー!」
「え、え!?」
北園が気が付いた時には、透明化能力を使いながら突撃してきた風天が飛空艇の左側面に激突。飛空艇内部にも衝撃が走り、オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちも怖がっている。
「きゃーっ!?」
「こ、このひこうきこわれちゃう!?」
「み、みんな、落ち着いて! 落ち着いて!」
アラムをはじめとした年長組が、幼い子供たちを落ち着かせてくれている。しかし残念ながら、子供たちの不安そうな表情は消えない。その子供たちの不安が伝播したか、北園の心にも焦りがくすぶり始めたようだ。
「スピカさん! 飛空艇のダメージはだいじょうぶ!?」
「安心して! まだ大丈夫そうだよー! ただ、機体側面のミサイル発射機構が一部破損しちゃったみたい!」
「そっか、ちょっと攻撃力が落ちちゃうかな……。ううーん……飛空艇の操縦はしないといけないし、こっちを攻撃してくる戦闘機もちゃんと見とかないといけないし、それに合わせてミサイルを発射して攻撃もしないといけないし……忙しすぎるー! キャパオーバーだよー!」
とうとう声を上げてしまう北園。
スピカも困った表情だ。
「無理もない……。北園ちゃんは今日初めて飛空艇を操縦してるんだもん。それなのにワタシの想像以上の学習能力で、もうここまで操縦できるようになった。すごい、ホントにすごいけど、ここを突破するには、まだ少し足りないみたいだ……」
せめて、北園の他にも操縦士がいてくれたら、とスピカは思う。この一人で操縦するにはあまりにも広い空間を持つコックピットを見て分かる通り、本来このアーリアの外殻調査船は一人ではなく複数人で操縦する乗り物だ。一人でも操縦は可能だが、複数人の方がより高いポテンシャルを発揮できる。
「ワタシの身体が生身だったら北園ちゃんの操縦を手伝えるのに……。まぁでも無いものねだりしても仕方ないよねー。ワタシはワタシのできることを……北園ちゃんのサポートを全力で頑張ろっと」
そうつぶやいて、スピカは再び飛空艇の立体モニターを注視。飛空艇に攻撃を仕掛けてくる敵機がいないか目を光らせる。
……と、その時だった。
オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちが、スピカに声をかけてきた。
「ねぇ。僕たち、この飛行機の操縦を手伝おうか?」