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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1260話 嵐の中へ

 ドゥームズデイが放った落雷が、飛空艇に直撃してしまった。


 直撃したのだが、あらかじめエヴァが飛空艇の前方に展開していた電磁場の防護壁のおかげで大事には至らなかった。防ぎ切れなかった余剰分の電流が日向たちの身体を少し焼いたが、致死量には程遠(ほどとお)い。


「痛っつつつ……! 大丈夫か皆!?」


「な、なんとかです……。用心して電磁場を展開し続けて正解でした……」


 しかし、まだ危機は去っていない。空に広がる雨雲全体に紫色の稲妻が(はし)り、次々と落雷が発生する。まるで日向たちを雨雲に近づけないように乱射しているようだ。


「こりゃヤバイ! 北園さん、いったん突入やめ! 下がって下がって!」


 ……と、日向はコックピットにいる北園に指示を出したが、そこにミオンが待ったをかけた。


「待って北園ちゃん! そのまま飛空艇のバリアーを展開して、雨雲の中に突入してちょうだい!」


「ちょ、マジですかミオンさん!? これだけの落雷なんですから、雲の中だって雷が大変なことになってますって!」


 思わずそう質問した日向。

 ミオンは普段の彼女らしからぬ真剣な表情で空を注視しつつ、日向の問いに答える。


「どうせ雨雲の中も外も同じく大変なら、前に進んだ方が道を切り(ひら)いていけるわ。ここで下がったところで、結局はまたこの落雷の嵐をくぐり抜けながら雨雲の中に突入するしか私たちにできることはないでしょ? それに、後ろには生き残りの嵐の戦艦がいる。下がったら挟み撃ちにされちゃうわよ?」


「それはまぁ、おっしゃる通りで……」


「日向くん、あなたの慎重さは美徳だけど、時には前に進めるチャンスを逃さず、瞬時に判断してがーっと行くだけの積極性も重要よ~? 武術においても戦闘指揮においてもそう。戦局を変える一手をねじ込めるチャンスは、いつだって一瞬だけよ?」


「ぐぅの音も出ない正論……」


「確かにあの雨雲の中は危険そうだけど、どうすれば良いのかなんて、突入してから考えちゃえばいいのよ~」


「いやそれはさすがに賛同しかねるんですけどね!?」


『と、とにかくこのまま突入するよー! 飛空艇バリアー展開! エヴァちゃんも電磁フィールド維持で手伝って!』


「任せてください……!」


 飛空艇が金色の念壁に包まれる。北園の精神エネルギーを増幅、変換させた飛空艇のバリアー機能だ。さらに飛空艇の前方はエヴァの電磁防護壁が覆い、落雷攻撃に対して完璧な防御を()く。


 引き続きドゥームズデイは落雷を雨のように降り注がせる。何発かは飛空艇に命中したが、北園とエヴァの防御陣が完璧に防ぎ切ってくれる。


 そしてついに、飛空艇は雨雲の中に突入した。


 分かってはいたことだが、雨雲の中は視界が悪い。黒く深い霧の中にいるようだ。しかしそれ以上に、紫色の稲妻があちこちで(ほとばし)っており、さらに強烈な暴風まで吹いている。それこそまさに、嵐の中にでも飛び込んだかのような激しさである。


「いやこれ、マジか……。飛空艇のバリアーが解除されたら、俺たち全員吹き飛ばされるんじゃないか……?」


「そこはこの(ふね)の重力制御機能で大丈夫だと思うけれど、稲妻もすごいわね~……。バリアーの守りがないと黒焦げにされちゃうわ」


「ふむ。スーパーセル級の強烈さだな。俺達は現在、巨大な積乱雲の中にいる」


「ところでミオンさん、さっきは『雨雲の中の危険は突入してから考える』とか言ってましたけど、これどうにかできそうです?」


「うーん……現状、このまま飛空艇のバリアーに守ってもらうしかなさそうね~」


「わぁい消極的! 今だけは、シャオランがいつもあなたのことを嘆いている気持ちが分かる!」


「照れるわ~」


「褒めたように聞こえたんですか!?」


 するとここで、シャオランが”空の気質”を身に(まと)い、拳を突き出した。


 特に何も起こらない。

 行動主であるシャオランも首をかしげている。


「アポカリプスの時は、霧の中のどこを殴ってもアポカリプスにダメージを与えていたけど、ドゥームズデイは手ごたえがないなぁ……。霧と雲、似たようなものなのに」


「あれは、アポカリプスが自身の外殻である霧と一体化していた、特殊な『星殺し』だからできた戦法よ。ドゥームズデイは恐らく外殻と本体が分離している、オーソドックスな構造の『星殺し』なのでしょう。シャオランくんがこの雨雲を殴っても、それはヤドカリの殻を叩いているのと同じことよ」


「そっかぁ。うーん、上手くはいかないなぁ」


 ともあれ現状、飛空艇はこの嵐にも負けずにしっかりとまっすぐ飛び続けている。このまま速やかに、この雨雲の中にいるであろうドゥームズデイ本体を見つけ出し、撃破したいところだ。


 北園が飛空艇を操縦しながら、アナウンスでエヴァに話しかける。


『エヴァちゃん! ドゥームズデイ本体の気配は追える? こっちの方向に飛んでいればいいのかな?』


「大丈夫です、そのまままっすぐ、上昇しながら進んでください。その方向に大きな『星の力』の気配があります」


『りょーかい! このまま進路を維持だね!』


「……あ、ちょっと待ってください! 上方向に新たな気配! ものすごい速度でこちらに向かってきます!」


 北園との会話中に、エヴァがそう声を上げた。日向たちも、コックピット内の北園たちも、すぐさま頭上へ目を向ける。


 空に広がる黒雲の向こうから風の異能の戦闘機、風天が飛んできていた。数は二機。マッハの速度でこちらに向かってくる。


 その風天のあまりの速度と、雲に隠れての接近により、日向たちは風天の存在に気づくのが遅れた。いや、十分に素早く反応していたのだが、風天が速すぎたので気が付いた時にはもう目の前まで来ていた。


 飛空艇に肉薄してもなお二機の風天はスピードを全く落とさない。そして一機が飛空艇のバリアーに激突。その強烈な衝撃により、飛空艇のバリアーに大きなヒビが入る。当然ながらこの風天も無事では済まず、ペシャンコに潰れる。


 そして間髪入れず二機目が突っ込んでくる。飛空艇のバリアーはすでに耐久力が限界だ。この二機目の突撃までは防ぎ切れず、侵入を許してしまう。バリアーは破壊され、日向たちが立っている飛空艇の甲板に二機目の風天が激突した。


「おわぁぁぁ!?」


「うおッ!?」


「くっ……!」


 風天の激突の衝撃により吹っ飛ばされる日向たち。幸いにも、この風天の突撃が直撃して押し潰されたような者は一人もいなかった。全員、奇跡的に軽い怪我で済んでいる。


「くぅ……。皆、無事か……?」


「な、なんとか大丈夫です……」


「我とユピテルも問題ない。しかし、バリアーとやらが破壊されてしまったぞ」


「ああ、すごい風だ……! 飛空艇の重力制御でなんとか吹き飛ばされずに済んでるけど、それでも立っていられない……!」


「皆、我の後ろに隠れよ。岩の身体を持つ我は、この強さの風にも動じることはない」


「それじゃあお言葉に甘えて……」


 日向たちはロックフォールに風()けになってもらうため、彼の後ろへと移動しようとする。しかしここで、またエヴァが声を上げた。


「また新たな気配です……! 右方向から!」


 そう言ってエヴァがロックフォールの陰から飛び出し、電磁場を展開。飛空艇の右側面全体を守るほどの大きな電磁場だ。


 黒雲の向こうから雷の異能の戦闘機、雷天が二機飛んできてミサイルを発射してきた。狙いは日向たちではなく飛空艇だ。しかし雷天のミサイルは雷エネルギーの結晶なので、これはエヴァの電磁場の斥力によって()らされる。


 なんとか雷天のミサイルを(しの)いだエヴァだが、今度は日向たちの方を振り向いて声を上げた。


「反対方向から新手が来ます!」


 エヴァがそう言うより早く、今度は雲の向こうから二機の雨天が飛び出してきた。甲板上の日向たちを狙って、酸性雨の機銃を掃射してくる。


「や、やばい、逃げ場がない……!」


「皆! 我が盾になろう!」


 そう言ってロックフォールが翼を大きく広げ、背後の日向たちを庇う体勢に。ロックフォールの全身に高圧縮された濃硫酸が撃ち込まれる。


「ぬぅぅ……!」


 苦しそうな声を上げるロックフォールだが、どうにか耐えきってくれたようだ。無論、彼が身を(てい)して守ってくれたおかげで日向たちは無傷である。


「ありがとう、ロックフォール。おかげで助かった……」


「うむ。しかし……これは厄介だな。あの戦闘機とやら、雨雲に身を隠して襲撃してくる。おまけにあの速度だ。エヴァの気配感知があるとはいえ、これではまともに反応できん。気が付いた時には仕掛けられている」


「ああ。これはどうしたものかな……」


 頭をかいて悩ましい表情を見せる日向。周囲の黒雲の向こうでは、引き続き異能の戦闘機が飛空艇に攻撃を仕掛けるべく、身を隠しながら飛空艇を追跡していた。

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