第1259話 ”裁雷”ドゥームズデイ
飛空艇の甲板に立つ日向たち。
向かう先には五隻の嵐の戦艦。
そして、空一面に広がる雨雲の外殻を持つ”嵐”の星殺し、ドゥームズデイ。
向かってくる飛空艇に対して、嵐の戦艦は主砲ではなく、副砲の雷砲で攻撃してきた。青く発光する雷の塊が飛空艇めがけて飛んでくる。
北園は飛空艇の舵を右に切り、あるいは左に切り、うまく雷砲を回避していく。飛空艇はその大きな見た目に似合わず機動力が高めだ。その機動力を存分に活かしている。
「とはいえ、主砲は撃ってこないか。あの主砲の発射口が弱点だと分かった今、あの攻撃はむしろ嵐の戦艦を素早く撃墜できるチャンスになりそうだと思ったのに」
「だからこそ、だろうな。地表の標的ならば主砲の爆風で周囲諸共消し飛ばすことができるが、空中戦ではそれが出来ない。此方を仕留めるには直撃しかない。そのようなリスクの高い攻撃でわざわざ弱点を曝け出すなど、向こうも御免ということだろう」
日向のつぶやきに、本堂がそう答える。
今はまだ北園も嵐の戦艦の雷砲を回避できているが、飛空艇と戦艦の距離が縮まってくるにつれて、それも難しくなってくるだろう。距離が縮まれば、単純に戦艦の雷砲発射から飛空艇へ着弾するまでのタイムラグが減少する。見てから回避する余裕がなくなるということだ。
「そろそろ何隻か戦艦を墜としたいな。このままじゃドゥームズデイの内部に……あの雨雲の中に侵入できない」
「それじゃあまたボクたちが嵐の戦艦に乗り込んで叩き落とす? ちょっと時間がかかるけど……」
シャオランがそう提案するが、日向は首を横に振る。
「いや、それだとやっぱり時間がかかり過ぎるのがネックだ。俺たちが頑張って一隻墜としても、すぐにドゥームズデイが新しい戦艦を補充したら何の意味もない。北園さんが飛空艇を飛ばせる時間も限られてるしな」
「それじゃあどうするの? 弱点だっていう主砲の発射口は閉じちゃってるし、現状は地道に一隻ずつ墜とすしか……」
「その主砲を誘う」
「ど、どうやって?」
シャオランにそう尋ねられた日向は、エヴァに声をかけた。
「エヴァ。あの電磁場でこの飛空艇を守れるか? 全体を包み込む必要はない。あの雷砲を防げるように前だけ守ってくれればいい」
「それなら問題ありません。今の私が保有する『星の力』の量ならば可能です」
そう言ってエヴァは電磁場を展開。嵐の戦艦が発射する雷砲を斥力によって押し返す。敵艦隊は雨あられのように雷砲を撃ってきているが、お構いなしに飛空艇は突き進む。
「これなら戦艦を排除するまでもなく突破できそうですね」
エヴァがそうつぶやくが、敵もそう甘くはない。エヴァの電磁場を突破するため、艦体前部の主砲を展開し始めた。主砲の発射口に青い雷電エネルギーが蓄積されていく。
それを見た日向が叫んだ。
「よし今だ! 敵が自分から弱点を見せてくれたぞ! 全員攻撃! ちなみに俺はさっき地上で”星殺閃光”を撃ったので冷却時間中です! 皆さんに任せます!」
「その一言が無性に腹立つぜ」
「我と息子も今のところできることは無さそうだ。すまぬ」
「ロックフォール親子は別に腹立たないから大丈夫だぜ」
「そういうのどうかと思うなぁ俺は」
日向の言葉を背に受けながら、日影は飛空艇の甲板の外へジャンプ。すぐさま”オーバーヒート”を使って空へと飛び立った。嵐の戦艦に超高速機動による肉弾攻撃をお見舞いするつもりなのだろう。
北園が飛空艇のミサイルを発射。二隻目と三隻目を同時に狙う。さらにエヴァが”シヴァの眼光”を行使。杖から放たれた熱線が四隻目めがけてまっすぐ飛んでいく。
そして五隻目は、シャオランとミオンが担当するようだ。
「シャオランくん! 私たち二人の練気を合わせれば、この距離からでも戦艦に攻撃が届くはずよ! 私の”炎龍”に合わせてちょうだい!」
「わ、わかった!」
シャオランとミオンは力を合わせて”炎龍”を放つ。赤と蒼白が入り混じったオーラの奔流が、飛空艇から最も近い五隻目の戦艦に迫る。
師弟が放ったオーラの奔流が、五隻目の戦艦の主砲の発射口に直撃。その瞬間、艦体全体に衝撃が走り、あちこちから青色の爆発が噴き上がる。そして力無く地上へ墜落していった。
エヴァが放った熱線も四隻目の戦艦の主砲口に直撃。ジェット機のように空を飛んでいた日影も、一隻目の戦艦の主砲口にまっすぐ激突した。この二隻も大破、轟沈である。
二隻目と三隻目の戦艦にも、飛空艇のミサイルが主砲の発射口に命中。しかしそこまで多くの数は当たらず、また威力もやや不足気味だったようで、撃墜には至らなかった。主砲発射は中断できたので、その隙に飛空艇は二隻目と三隻目の間を突破する。飛び立っていた日影も戻ってきた。
『ごめん、墜とし損ねちゃったー!』
北園による飛空艇のアナウンス音が響き渡る。嵐の戦艦を仕留め切れなかったことを謝っているようだ。この甲板からでもコックピットの北園に声は届けられるので、日向は北園に返事をする。
「全然大丈夫! むしろ、ちゃんと主砲発射は止めてくれたんだから上々だよ」
『そう? そう言ってくれると助かるよー!』
「それに、北園さんが俺たちを助けに来てくれた時、戦艦の主砲をミサイルで狙ってくれたおかげで、俺もあの戦艦の弱点に気づけたんだから。ナイスだったよ北園さん。よくあそこを狙おうと思ったよね」
『あれねー、たまたまそこに当たっただけなんだよねー。正面からミサイルを撃ちまくってたら偶然に。だから日向くんに言われるまで、私があの戦艦の弱点を攻撃してたって気づかなかったの』
「そ、そっか。つまり俺たちがあの戦艦の弱点を発見できたのはラッキーだったわけか。まぁ運も実力のうちってことで」
二隻の戦艦を突破した飛空艇を邪魔する者はもういない。ドゥームズデイの外殻たる雨雲に突入するため、高度を上げながらまっすぐ飛んでいる。
「さっきの戦艦もこっちを追いかけようとしているけど、ノロマだからまだ方向転換も終わってないぞ。このまま行っちゃえ北園さん!」
『りょーかい! 全速前進ー!』
北園のアナウンスが響き渡ると、飛空艇のブーストの火がさらに強まった。それに合わせて飛空艇のスピードもさらに上がる。
だがその時。
空からゴロゴロと雷の音が鳴り響く。
そして一拍置いてから、空から一発の稲妻が飛空艇めがけて降ってきたのだ。
文字通り光の速度で降ってきた稲妻。当然ながら飛空艇を操縦する北園は反応などできず、稲妻は飛空艇に直撃した。