第1258話 嵐に立ち向かう
「あの雨雲がドゥームズデイ……ドゥームズデイの外殻だと……!?」
日向の答えに、日影がそう聞き返す。
狭山が生み出した『星殺し』は基本的に、決まったパターンで設計されている。まず人型である『星殺し』の本体がいて、その本体を守る鎧となるのと同時に周囲に災害をばら撒く武器にもなる外殻。この二つで構成されている。
マカハドマの外殻は、山ほど大きい巨大な人間の頭部の氷像だった。
ジ・アビスの外殻は、ヨーロッパに広がる大西洋そのものだった。
そして今回のドゥームズデイの外殻は、この空一面に広がる雨雲だと日向は言う。
その時、ドゥームズデイが日向の答えを裏付けるような行動に出る。雨雲の一部が悪魔の手のような形になり、その手の中心で雷電のエネルギーが集中。するとエネルギーの形が徐々に変化し、やがて嵐の戦艦となったのだ。嵐の戦艦はドゥームズデイの手のひらの中から発艦し、これで嵐の戦艦の数は五隻になった。
「ふむ……確かにあの雨雲、嵐の戦艦が俺達を襲撃しに来た時は、決まって空に広がっていた。戦艦と本体がすぐ近くにいたからこそ、エヴァもあの嵐の戦艦をドゥームズデイだと誤認したのだろうな」
「実際、あの嵐の戦艦や三種の戦闘機を構成している『星の力』の波長はドゥームズデイと全く同一のものです。ドゥームズデイ自身のエネルギーであれらの兵器を製造しているのですから当然と言えば当然でしょうが、だからこそ違和感を感じず、誤認の大きな要因になってしまったようです。不覚です」
「でもそういえば、さっきヒューガが”星殺閃光”を撃った時、嵐の戦艦を貫通して、あの雨雲までぶち抜いてたよね? ドゥームズデイにもダメージ入ったんじゃない? でもドゥームズデイはまだピンピンしてそう……」
「たぶんアポカリプスと同じで、外殻が霧状だから外殻を攻撃してもダメージが無いのかもしれない。ドゥームズデイを倒すには、あの雨雲の中にいる本体を倒さないと」
「だったら、もうやることは決まったじゃねぇか」
日影がそう発言した。
そして、飛空艇を操縦している北園に声をかける。
「北園。逃げはもう止めだ。向こうが追いかけてきて逃がさないっつうなら、こっちからドゥームズデイの雨雲の中に乗り込んで、ヤツ本体をぶちのめす。この勝負、終わらせるにはもうコレしかねぇ」
「え、えぇ!? 私、さっきは主砲も撃っちゃったし、だいじょうぶかな……? また最初みたいにペース配分ミスでスタミナ切れになっちゃうんじゃ……。日向くんどうしよう?」
北園に話を振られた日向。
日向、ここは慌てず、冷静に思考を回す。
「難民キャンプで雨天が襲撃してきた時は、雨雲は広がっていなかった。つまり、少なくともあの三種の戦闘機は、ドゥームズデイから離れた……雨雲が届かない場所でも活動できるってことだ。このままドゥームズデイが俺たちを追いかけてきて、延々と戦闘機を製造して送り込まれたら、ジリ貧になるのはこっちの方……」
このまま戦えば子供たちを戦闘に巻き込んでしまうのが懸念点だったが、ドゥームズデイがこちらを追いかけている今、子供たちを安全な場所に降ろすような余裕はない。そもそも考えてみれば、現在この星に安全な場所など、どこにも無いも同然だった。
「日影の言う通りかもしれない。このまま逃げ続けるよりは、ここでドゥームズデイと決着をつける方がむしろ勝算は高いかも」
「りょーかいだよ。日向くんがそう言うなら、私も覚悟を決める。がんばろう!」
北園の返事を聞いて、日向もうなずく。
他の仲間たちもやる気十分だ。
戦闘に参加するメンバーが甲板へと移動する。メンバーの内訳は日向、日影、本堂、シャオラン、エヴァ、ミオン、そして甲板で待機しているロックフォール。以上の六人と一羽だ。
甲板に移動した日向たちが、そこで留まっていたロックフォールに声をかける。
「ロックフォール。俺たちはここでドゥームズデイを倒すことに決めた。できればお前の力も貸してくれると嬉しい」
「良いだろう。今のお前達に比べれば我の力など微力だろうが、出来得る限りの事をしよう」
「微力だなんてとんでもないよ。頼りにしてる」
「それと提案なのだが、我の子も……ユピテルも戦闘に参加させるのはどうだろうか。そこの緑の少女……エヴァと言ったか。彼女は動物をマモノに変異させることができるのだろう?」
「え? いやでも、それだとお前の息子さんが危険に晒されることに……。お前はそれで良いのか?」
「親としては良くないが、他ならぬこの子が言い出したことだ。どのみちお前達がここで負けたら、自分もいずれこの星と共に殺される。ならば死を覚悟してでもお前達の力になりたい、とな」
「そこまで言われたら、断る方が失礼だよな……。分かった、こちらも万全の状態とは言い難いし、戦力は少しでも多い方がいい。エヴァ、ユピテルに『星の力』を」
「分かりました」
エヴァは日向に返事をして、ロックフォールの息子の大鷲ユピテルに『星の力』を分け与える。蒼いオーラがエヴァの手から発生し、ユピテルの身体へと流れていく。
「この子は……当たりですね。『星の力』への適性が高い。きっと強い『星の牙』になります。この星を守る、鋭い牙に……」
すると、ユピテルの身体がブルブルと震え始めた。綺麗な茶色だった羽毛が、徐々に金色を帯びてくる。身体も少し大きくなっているだろうか。
やがてユピテルは、一羽の金色の大鷲へと変成した。その金色の羽毛からはバチバチと黄金の電流が迸っている。恐らくは電気の異能を手に入れたのだろう。
「ケェェェェーン!!」
「やる気十分ですね。頼もしいことです」
これにて日向たちの準備は万全。飛空艇も進路を180度切り替え、ドゥームズデイの雨雲へと向かっていく。
正面にはドゥームズデイが操る嵐の戦艦、計五隻。そして雨雲の一部が蠢き、人とも怪物ともつかないような不気味な貌へと変形した。その貌は日向たちをまっすぐ見据えている。
シャオランの故郷を破壊し、難民キャンプを溶解させ、他にもあらゆる街、あらゆる国を破壊してきたであろうこの『星殺し』を、いよいよ打ち倒す時が来た。




