第115話 世界最強のマモノ討伐チーム
「余所見してんじゃねーぜ!」
ワイバーンの横からジャックが飛びかかり、ワイバーンの頭の上に飛び乗った。そして懐から二丁の大型拳銃を取り出し……。
「一匹目!」
ワイバーンの脳天に銃口を押し当て、引き金を引いた。
それも一発だけではない。二丁同時に、一瞬で何発も撃ち込んだ。
「ガァァァァッ!?」
悲鳴を上げ、ワイバーンは地に倒れた。
銃弾は、ワイバーンの硬い鱗を軽々と貫通し、脳髄を破壊したのだ。
「あいつ……ジャックの使ってる銃は……デザートイーグルか!?」
「正解だよ、日向くん。それも、対マモノ用の強力なヤツさ。素早い動きで戦場を駆け回り、二丁のデザートイーグルを乱射する。それがジャックくんの戦闘スタイル。よってついたあだ名が『デザートストーム』さ」
「あ、ありえない! あんなので二丁拳銃って、手がもたないでしょ!?」
しかし日向がそう言っている傍で、ジャックは飛来してくるワイバーンたちに駆け出し、二丁のデザートイーグルを連射している。
何匹かは鱗に守られていない胸に銃弾を受け、心臓を撃ち抜かれて落ちていく。
しかし二匹がジャックの銃撃を掻い潜り、リロードの隙を突いて広場へと着陸した。
「ギャオオオオオ!!」
二匹のワイバーンが地を走り、ジャックに襲い掛かる。
「ノロいぜ!」
しかしジャックはワイバーンの突進を軽く避け、同時にリロードを終え、左のワイバーンに銃撃を浴びせる。ワイバーンは心臓に銃弾を撃ち込まれ、息絶えた。
さらに、残ったもう一匹のワイバーンの懐に、レイカが驚くほどのスピードで潜り込んで……。
「もらいましたよ!」
白刃一閃。
鞘から振り抜かれたレイカの刀が、ワイバーンの首を斬り落した。
刃に付着した血を振り払いながら、レイカがジャックに声をかける。
「ジャックくん! あまり突出しないでください!」
「それでも合わせてくれると信じてるから突出してるんだぜ!」
「合わせるこちらの身にもなってください!」
その後ろで、日向が驚きの声を上げた。
「な……!? あの刀、切れ味どうなってるんだ!?」
「高周波ブレードに改造されているんだよ、あの刀は。鋼鉄だろうとバターみたいに切り裂くよ」
「それに、あの踏み込み! 人間のスピードじゃなかったですよ!?」
「彼女の脚も特別製でね。それに、彼女の秘密はそれだけじゃなくて……おっと、どうやらコーネリアス少尉が動くみたいだ」
「コーネリアス少尉って、あのデカいバッグを背負ったあの人?」
「うん。日向くんなら、彼の戦い方は絶対に驚く」
コーネリアスは、飛来してくるワイバーンたちを見据える。
「Time to work」
そう言うと、彼は背負っているバッグのチャックを開き、中から一丁の銃を取り出した。
その銃身はとんでもなく長く、巨大で、銃口は矢尻のような形をしている。
対物ライフル、バレットM82だ。
「ガァァァァ!!」
一匹のワイバーンが牙を剥いてコーネリアスに向かってくる。
コーネリアスは対物ライフルを右腕のみで持ち上げ、ワイバーンに銃口を向けて、そのまま引き金を引いた。
バゴンッ、と重厚な射撃音が鳴り響き、ワイバーンの頭が爆ぜ飛ぶ。
ワイバーンは悲鳴も上げずに地に落ちた。
「One、Two、Three、Four、Five、Six......」
続けて引き金を引くコーネリアス。
その度にワイバーンが地に落ち、その数をコーネリアスは淡々と数えていく。
「片手で対物ライフルだと!? 何者なんだ!?」
「うん。期待通りの反応をありがとう日向くん」
そして、暴れ回るARMOUREDメンバーの後ろから、彼らを束ねる隊長が現れた。右手にはガトリングガンを引っ提げて、左肩には四連装のロケットランチャーを担いで。
「まだ交戦許可も出していないのに、血の気の多いメンバーたちだ。……さて、『ARMOURED』、これより戦闘行動に入る」
「もうとっくの昔に交戦状態だけどなー!」
ジャックの茶々を無視して、マードックは群がるワイバーンたちに向かって攻撃を開始。ガトリングガンの銃口が唸りを上げながら回転し、火を吹いた。銃弾を受けたワイバーンたちが、面白いくらいに蹴散らされていく。
その中から一匹のワイバーンが飛びかかり、蹴爪でマードックに襲い掛かってくる。
マードックは襲い掛かってきたワイバーンにロケットランチャーを構え、撃ち込んだ。
爆音と共に炎が上がり、ワイバーンはバラバラに四散してしまった。
「あの武装、どこの追跡者だ……。いや、ロケランが四連装な分、あっちよりヤバいかもしれない」
「日向くん、すっかりビックリ係だねぇ」
しかし、ワイバーンの数はさらに増す。
コーネリアスの狙撃やマードックの射撃も追い付かなくなり、ジャックやレイカに襲い掛かるワイバーンが増えてきた。
「く……!」
レイカが、噛みついてきたワイバーンの牙を避け、その喉を一突きし、ワイバーンの息の根を止めた。
レイカの戦い方は、実に華麗なものであった。
マモノの動きを見切り、最小限の動きで躱し、無駄な力を一切使わずに相手の急所を斬りつける。まさに「静の剣士」というべきものであった。
しかしそうしている間にも、レイカに迫るワイバーンは増えるばかり。後手に回っては処理が追い付かなくなってきていた。
「あれは……そろそろ加勢するべきでは!?」
日向が狭山に声をかけるが、狭山は慌てる素振りさえ見せない。
そして、冷静に日向に返事をする。
「いや、彼女なら大丈夫。むしろ下手すると、今は近づく方が危険だ」
「そりゃあワイバーンの群れなんて、近づいたら危険ですけども……!」
「ワイバーンじゃない。彼女だ。彼女に近づくのがヤバい」
「……へ?」
狭山の発言に、首を傾げる日向。
その傍らで、レイカは群がるワイバーンを斬り捨てている。
そして……。
「しつこいですね……! この…………クソ野郎がぁぁぁ!!」
「へ!?」
今まで物腰柔らかだったレイカが、叫んだ。
瞬間、彼女の長い黒髪が紅色に変わり、筋肉が僅かに膨れ上がった。
「死ねや、ザコどもがぁ!!」
そして、先ほどまでのレイカからでは考えられないような汚い口調とともに、ワイバーンを斬り伏せた。一匹目を斬り捨てると、さらに二匹目、三匹目と、次々と始末していく。
途中、噛みつきにかかったワイバーンに回し蹴りを喰らわせると、ワイバーンの首が有り得ない方向に曲がってしまった。
さきほどの彼女が「静の剣士」とするならば、今の彼女は完全に「動の剣士」。群がるワイバーンの中に突っ込んでは、その素っ首を片っ端から叩き切っていく。
一通りワイバーンを斬り終えると、コーネリアスに向かって罵声を浴びせた。
「ちょいとコーネリアス! 撃ち漏らしが多すぎるよ! サボっていないだろうねぇ!? もっとガンガンぶっ殺しな!」
「I'll take good care.(善処しよう)」
「な、なんですかあれは!? レイカさんが凶暴化した!?」
「あれがレイカさんのもう一つの能力、『二重人格』。一つの身体に、二人の人間が宿っている。今の彼女はレイカ・サラシナではなく『アカネ・サラシナ』だ」
「『二重人格』……その無駄に格好良い読み方……まさかそれも超能力?」
「そうだね。自分はそうだと定義している」
『ARMOURED』の四人は、ワイバーンの群れをいともたやすく蹴散らしていく。
しかし、既に絶命したと思っていたワイバーンの一匹が不意に起き上がり、ジャックを狙って噛みつきにかかった!
「ちっ!」
ジャックは、左腕で防御の姿勢を取る。
ジャックの左腕にワイバーンの牙が突き刺さるが、ボロボロになっていくのはワイバーンの牙の方だ。
「しゃらくせぇ!」
ジャックはワイバーンの口内にデザートイーグルの銃口を突っ込むと、連続して引き金を引いた。そして、ワイバーンは今度こそ絶命した。
「けっ。やっぱりこのコートを着てると動きにくいぜ。周りに一般人はいねぇし、もう隠してる意味もねーだろ」
そう言うとジャックは、着ていた灰色のコートを脱ぎ捨てた。
そして露わになった彼の両腕は、漆黒の光沢を放つ鋼鉄製の義手だった。
「両腕が義手……! だからジャックはデザートイーグルの二丁拳銃なんて無茶が出来たのか……!」
「その通り。彼は両腕をサイバネティクスアームに置き換えている。それに、ジャックくんだけじゃない。レイカさんは両脚を、コーネリアス少尉は右腕を、マードック大尉は脳以外の全身を機械化している」
「全身機械化!? もう完全にSFの世界ですね……」
「うん。彼らの身体には、この星最高の義体技術が組み込まれている。機械化した肉体で、人間を超えた火力を取り扱う。それが彼ら『ARMOURED』だ」
そこからは……いや、振り返れば最初から一方的だった。
コーネリアスとマードックが飛来するワイバーンを撃ち落とし、掻い潜ってきたワイバーンはジャックとアカネがトドメを刺す。
まだ、最初のワイバーンが降り立ってから二分ほどしか経過していない。
だというのに、すでに駐屯地の広場には、五十近いワイバーンの死体が積み重なることとなった。
「さーて、次はどうするよ? サヤマ」
ワイバーンの死体を踏みつけ、ジャックは余裕の表情で言い放った。