第1257話 合流と離脱と分析
「スピカさん! 日向くんたち乗った!?」
「乗ったよー! さぁ発艦すぐ発艦ー!」
「りょーかいです! しゅっぱつー!」
嵐の艦隊に痛手を与え、北園が操縦する飛空艇は地上の日向たちの回収に成功。そのままこの場を離脱する。ここで戦闘を継続するよりは、いったん落ち着いて体勢を立て直した方がいいと判断したためだ。
スピカが、近くにいる日影とミオンに声をかける。
「日影くんー、ミオンさんー、いざという時は頼むよー。ドゥームズデイはきっと、ワタシたちを追撃してくるだろうからねー」
「分かってる。またあの戦闘機とかが来たら墜とせばいいんだろ?」
「今のところ、まだ戦闘機の追手は来ていないみたいね~。撃ち落とし損ねた嵐の戦艦が追いかけてきてるけど、こっちの艇の方が早いわ~」
……と、ここで日向たちがコックピットに入ってきた。オネスト・フューチャーズ・スクールから連れてきた二十人あまりの子供たちもついて来ている。
「ふー……ただいま戻りましたー……。いやぁ一時はどうなることかと」
「日向くん、おかえりー! 今すぐぎゅーってしたいししてほしいところだけど、私には飛空艇の操縦が……」
「ぎゅーはまた後でね北園さん。今は無事にここからの離脱を」
「しかたないよね。りょーかい!」
日向と北園のやり取りが終わると、次にスピカが日向に声をかけてきた。
「無事に戻ってきてくれて良かったよー日向くん。他のみんなもー。はぐれてから数時間くらいしか経ってないのに随分と久しぶりな感じがするよ。ざっと26日くらい離れていたような感覚ー」
「わぁなんだかすごく具体的な数字。それよりスピカさんも、心配かけてすみません」
「いいよいいよー、無事に戻ってきてくれたらそれで。終わり良ければすべて良しってねー。それより、随分と団体さんになって帰ってきたね?」
「ああ、この子たちですか。保護してきたんです、狭山さんが経営してた学校から」
「王子様が経営していた学校……オネストなんとかってところだったね?」
「はい。その……雨天……雨の戦闘機が降らせた酸性雨で難民キャンプが壊滅しまして……」
「うん、ワタシたちも見てきたよ。酷い有様だった……」
神妙な表情を浮かべるスピカ。
それから、オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちに顔を向けた。
「子供たちー。もうちょっと待っててねー。もうすぐこの日向お兄ちゃんたちが、お父さんやお母さんの仇を取ってくれるからねー」
そう告げられた子供たちは、スピカを見てキョトンとしている。スピカの言葉があまり理解できなかったのだろうか。まだ歳が二桁にもいかないような子供も多いので、実際に理解できなかった可能性は十分にある。
ところが、子供たちは突如として、スピカを見つめながら顔を輝かせた。
「すげー! 幽霊だー! お姉さん幽霊だよね!?」
「ゆうれいだー! ほんものはじめてみたー!」
「ゆうれいさんだー! ゆうれいさんだー! こわーい!」
「ありゃりゃ、なんかすごく懐かれちゃったみたい」
苦笑いを浮かべるスピカ。彼女にとってこれだけたくさんの子供たちに一度に懐かれるというのは、彼女の長い人生の中でも初めての経験だったのだろう。本当にどうしたら良いか分からず困り果てているような様子だ。
……と、ここで北園が声を上げた。
「ね、ねぇ! なんか変じゃない!? さっきからずっと雨雲の下から出ようと思って飛ばしてるけど、ちっとも雨雲の下から出られないよ!? ずっと向こうの方だけど、雨雲がかかってない端っこの方は見えてるのに! 飛んでも飛んでもちっともここから進んでないみたいな感じ!」
この北園の疑問に、日向が答えた。
「いや、さすがに飛空艇はちゃんと進んでると思う。おかしいのは雨雲の方だ。たぶん雨雲が俺たちを追いかけてきてる。俺たちに合わせて雨雲も動いてるから、ちっとも雨雲の下から出られないんだ」
その日向の答えに関心の表情を向けたのがスピカとミオン。
ミオンが下唇の近くに人差し指を当てながら、日向に声をかけた。
「その言葉から察するに、あなたもドゥームズデイの正体と、あの嵐の戦艦をはじめとした謎の異能兵器がドゥームズデイにとって何なのか分かったのね?」
「はい、まだ推測の域ですけど。きっとスピカさんとミオンさん……アーリアの民のお二人なら正確に分かるんじゃないかなって思ってました」
「そういや、後でその辺を説明してくれるって言ってたな。全員そろったことだし、そろそろ教えてくれよスピカ。あの異能兵器とドゥームズデイについて」
「りょうかいー。お待たせしてゴメンね。こんな状況だけど説明させてもらうよー」
日影の言葉を受けて、スピカは説明を始めた。
「まず率直に言うと、あの嵐の戦艦や各種戦闘機は、たぶん本質としては日向くんたちが持っている『太陽の牙』と同じものだと思う」
「オレたちが持っている『太陽の牙』と同じっつうと……あの戦艦や戦闘機はエネルギーを超能力で結晶化させたものだってことか?」
「そうそう。そして、それらを製造したのがドゥームズデイ。恐らくあれは中にレッドラムとかの搭乗員が乗っているわけじゃなくて、ドゥームズデイが自分の意思で動かせる遠隔操作兵器ってところー。本質的には銃や剣と同じ、ドゥームズデイ自身の『武装』なんだと思うー」
「オレたちがドゥームズデイだと思っていた嵐の戦艦は、実際にはドゥームズデイじゃなくて、ドゥームズデイの武器の一つに過ぎなかったってことかよ」
最初にあの嵐の戦艦を墜としたことで「ドゥームズデイを倒した」とぬか喜びさせられて、日影は落胆の表情だ。
その一方で日向もつぶやく。
「あの嵐の戦艦に乗り込んだ時、どこにも内部から侵入できる場所が無かったのは、ドゥームズデイの遠隔操作兵器だから誰も内部で操縦する必要がないから。そして、そもそもまっとうな科学技術で設計されているように見えなかったのは、あれが『戦艦の形をした固形のエネルギー体』だったからか……」
エネルギーを結晶化させた遠隔操作兵器。確かにこれならば、先ほどエヴァが三種の戦闘機に対して「あれは金属で造られた戦闘機ではなく、エネルギーの塊」と分析したのは正答だったと言える。また、嵐の戦艦や戦闘機が破壊された時、普通の戦艦や戦闘機のように爆炎と共に爆発四散するのではなく、エネルギーの粒子となって消滅するのも、これで説明が付くだろう。
「……じゃあ、あの嵐の戦艦がドゥームズデイじゃないのは分かったけどよ、だったらドゥームズデイ本体はどこにいやがるんだ?」
「それはたぶん、あれだ」
そう言って、日向が飛空艇の立体モニターを指さす。
指さしたのは天井。天井のモニターには空を覆う雨雲が映っている。
「あの雨雲がきっと、ドゥームズデイの外殻だ。本体はきっとあの雨雲の中にいる」