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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1256話 暗雲立ち込める

 日向たちは四体の暗殺者型レッドラムを倒したものの、犠牲者を出してしまった。オネスト・フューチャーズ・スクールの女性教師が、暗殺者型たちの気を引くために抵抗し、重傷を負ってしまった。


 まだ女性教師の息はあるものの、もうひどく弱々しくなってしまっている。エヴァが回復能力を行使しているが、やはり効き目がない。


「しっかり! しっかりしてください!」


 日向は女性教師に声をかける。

 言ってしまえば、こうして声をかけてやることぐらいしかできない。

 日向自身も、こうすることしかできない自分がひどく悔しかった。


 女性教師は何かをつぶやいているが、それは日向の言葉を受けたからではない。ただ先ほどからうわ言のように同じ言葉をつぶやき続けているだけだ。


「子供たちを……お願いします……どうか……子供たちを……」


「わ、分かりました……。必ず、みんな無事に守りますから。もう二度と今回みたいな失敗はしません。今度こそ絶対に……!」


 その言葉を聞いて安堵したか。

 女性教師は、静かに息を引き取った。


 オネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちも、教師二人の死を(いた)んでいるようだ。涙を浮かべていない子供が一人もいない。


「先生……死んじゃった……」


「やだぁ! せんせいしんじゃやだぁぁ!」


「ひっく、ぐす……」


「皆、ごめん……。俺たちの力が至らなかったせいだ……」


 日向がそう言って子供たちに頭を下げる。

 本堂も、シャオランも、そしてエヴァも、無念の表情を浮かべていた。


 生徒の一人であるアラムが代表して、頭を下げている日向に対して首を横に振る。


「ヒュウガ兄ちゃんたちは悪くないよ。悪いのはあの赤い化け物たちだ。ヒュウガ兄ちゃんたちは精いっぱい、僕たちや先生たちを助けようとしてくれた。その気持ちはよく伝わってるから……」


「ありがとう、おにいちゃんたち、エヴァちゃんも……」


「先生もきっとお礼を言ってると思うから……」


「皆、ありがとう……。君たちは俺が思っている以上に大人だったみたいだ」


 まだやるせない気持ちは全く消えないが、日向は子供たちに返事をして微笑んだ。一番つらいのは彼ら子供たちだ。そんな彼らが元気を振り絞っている。であれば、自分たちが切り替えられずして何とする。そういう気持ちだった。


「とりあえず、二人を弔ってあげようよ……」


 シャオランが皆にそう声をかけた。

 誰も異議を唱える者はいない。


 だが、その時。

 急にエヴァが声を上げた。


「あ……待ってください! ドゥームズデイと思われる気配が動きました! こっちに向かってきます!」


「なんだって……?」


「すごい速度……! あの距離からもうここに……!? もう間もなくドゥームズデイがこちらに到着します!」


 エヴァがそう言い終わるのと、ほぼ同時。

 突如として空から雷音が鳴り響いた。

 子供たちは全員、ピシャリと固まって驚いている。


 次いで、空に暗雲が立ち込める。ただでさえ灰色の雲に覆われて(かげ)っていた空は、黒く分厚い雨雲の発生によりさらに暗くなってしまった。


 そして、その黒い雨雲の向こうから、嵐の戦艦が続々と姿を現した。全部で七隻ほどいる。あの一隻一隻が街一つを消し飛ばすほどの火力を有していると考えると、これは恐ろしい光景だ。


「これヤバいぞ……。俺の”星殺閃光(バスタードノヴァ)”はたしかにあの戦艦を()とせるけど、()とせるのは一発につき一隻だ。あんなに数を用意されたら()としきれない……!」


「有効な逃げ場も無いな……。エヴァの能力で地中深くに穴を掘ったとしても、穴ごと消し飛ばされてしまうだろう……」


「私の電磁場でも、あれだけの規模の火力を受け止めきれる自信はありません……」


「ボクの”炎龍”じゃそもそも火力不足だろうし、何より戦艦があの距離じゃ攻撃が届かないよ……」


 まさに絶体絶命。逃げることもできないなら、せめて日向たちは敵艦隊の出方をジッと(うかが)うしかない。子供たちも恐怖のあまりか、誰も泣いたり騒いだりしない。


 七隻の嵐の戦艦が、一斉に艦体前部の主砲発射機構を展開。主砲の砲口に青白いエネルギーが充填されていく。


 すると、エヴァが日向たちに前に立った。

 敵艦隊に立ちはだかるように。


「こうなったら”星の咆哮(スーパーロア)”を使います。あの技なら、あの七隻の戦艦の主砲にも撃ち負けはしないはず……」


「”星の咆哮(スーパーロア)”って、お前が俺たちと戦った時に、最後に使ってきたあのとんでもない破壊光線みたいな技か! 使えるのか!?」


「不可能ではないですが、わずかに出力が足りません。ですので、私の生命力を『星の力』に転化させて無理やり発射します」


「大丈夫なのかそれ!? 後で死んだりしないよなお前!?」


「死にはしないと思いますが……死にかけるかもしれませんね」


「そ、そんな危険な真似をさせるわけには……!」


「ですが、ここで皆が命を落とすよりはまだ良い方です!」


 ……と、その時だった。

 難民キャンプがある方角の空から、いくつかの金色の光が飛んできた。


 金色の光の群れは嵐の艦隊に向かって飛んで行き、そのまま艦体に命中。黄金の爆風をまき散らす。その中でも四隻ほどの戦艦が大きなダメージを受けたようで、艦体全体にスパークが(はし)って主砲発射準備が中断された。


「今のは、飛空艇のミサイルだ! ということは……!」


 日向たちは弾かれたように、先ほどの金色の光が飛んできた方向の空を見る。するとやはり、難民キャンプの方から北園が操縦する飛空艇がこちらに向かってきてくれていた。


(日向くん! やっと見つけたよ!)


 日向の頭の中に北園の声が響く。”精神感応(テレパシー)”で語り掛けてきているのだ。飛空艇はそのまま最大火力の主砲発射用意。まだ砲撃準備を中断していない嵐の戦艦に攻撃を仕掛けるつもりだ。


 それを見て、日向はエヴァに声をかけた。


「エヴァ! 一隻だけなら生命力を削るほどまでしなくても、お前なら()とせるんじゃないか!? 俺も”星殺閃光(バスタードノヴァ)”で一隻片付ける!」


「分かりました!」


「それと、狙うならあの戦艦の主砲の発射口だ! 北園さんのミサイルがそこに当たった時、戦艦が大きなダメージを受けていたのを見た! 主砲の発射を中断したのもきっとそれが原因だ! あそこがあの戦艦の弱点なんだ!」


「あの一瞬でよく気づきましたね……。いいでしょう、やってみせます……!」


「皆は俺から全力で離れて! めっちゃ熱くなるからな!」


 日向がそう言うと、本堂とシャオランが子供たちをトンネルの中へと一時退避させる。日向の”星殺閃光(バスタードノヴァ)”は発動の際にあまりの火力によって周囲を無差別に焼き尽くしてしまう。


 日向もまた皆から離れて、前段階である”最大火力(ギガイグニート)”を発動。まき散らされた熱波が日向自身と周囲の砂地を焼き焦がした。


 エヴァはその場から動かず、嵐の戦艦の主砲の砲口を狙ってゆっくりと杖を構える。飛空艇も主砲の発射準備が完了したようだ。


 そして、三者がそれぞれの光線を、嵐の戦艦の主砲の発射口めがけてぶっ放した。


「太陽の牙……”星殺閃光(バスタードノヴァ)”ッ!!」


「射抜け……”シヴァの眼光”!!」


(主砲、発射ーっ!!)


 三人が放った光線は各自、嵐の戦艦の主砲の発射口に命中。三隻とも爆炎を上げて大破、地上へと()ちてくる。日向が提唱した通り、あの発射口が嵐の戦艦の弱点となっているようだ。特に日向の熱線は、嵐の戦艦をぶち抜いてその先の雨雲まで貫通したほどだった。


 完全に敵艦隊の陣形が崩された。この隙を逃さず飛空艇はそのまま日向たちの近くにスピーディーに着陸。地球の技術ではまだ有り得ないホバリング機能だ。


 飛空艇の搭乗口であるテレポート装置が作動する。日向とエヴァ、それからトンネルから出てきた本堂たちは急いで飛空艇へ乗り込んだ。


 予知夢の六人は、こうしてようやく無事に合流を果たすことができた。

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