第1255話 暗殺者型のレッドラム
三機の異能の戦闘機、雷天と風天と雨天を撃墜した日向たち四人。
その日向たちの背後から声をかけてきた、一体の目付きのレッドラム。
日向たちの前には、このレッドラムにやられたと思われるオネスト・フューチャーズ・スクールの男性教師が血まみれで倒れていた。どうやら”怨気”を受けてしまったらしく、エヴァが『星の力』を使って傷を塞ごうとしているが上手くいかない。
この襲撃してきたレッドラムに名をつけるとしたら、暗殺者型といったところだろうか。その暗殺者型のレッドラムを見ながら、シャオランがエヴァに声をかけた。
「エヴァ……。あのレッドラムの気配、少しだけでも感じ取れた……? ボクは全然ダメだった……」
「私もです……。これだけ近づかれても、そして目の前にその存在を現わしているというのに、まだロクに気配を感じ取れない……。異常です、あの個体の気配遮断能力は……!」
一方、そんな二人の驚愕をよそに、この暗殺者型のレッドラムは話を続けてきた。
「堀ッタバカリノトンネルノ中ニ敵ナド居ル筈ガナイト油断シタナ。我等ノ気配遮断能力ナラバ、オ前達ガドゥームズデイノ玩具ト遊ンデイル間ニトンネル内ニ侵入スル事クライ容易イ。出口デ待チ構エテイタノダ」
「……ちょっと待て、いま『我等』って言ったか? まさか、まだ他にもレッドラムが……!」
「ソノ通リダ。サテ、他ノ個体ハ何ヲシテイタト思ウ?」
そう言って赤黒いレッドラムがトンネルの方を見る。すると、トンネルの中からもう一人の教師と子供たちが出てきた。三体の暗殺者型のレッドラムに連れられて。今この場には四体の暗殺者型レッドラムがいる。
「す、すみません、日下部さん……皆さん……私たちではどうすることも……」
「ヒュウガ兄ちゃん、ごめん……」
「エレン先生が血を流してる……助けないと……!」
「こわいよぉ……ぐす……」
怖惑う子供たちと教師を盾にするように、三体の暗殺者型は後ろに立つ。そして日向たちの背後では、最初に姿を見せた暗殺者型が爪を研ぐ音を立てていた。
「コノ状況、我等ガ何ヲ言イタイカ、分カルナ?」
「子供たちの命が惜しかったら抵抗するな、ってことかよ……」
「話ガ早クテ助カル。オ優シイオ前達ナラ、彼等ヲ見捨テルナド出来マイ? 言ッテオクガ、我等ハ全員ガ”怨気”ヲ使用デキル。彼等ガ致命傷ヲ負エバ、モウ助カラナイ。ソコノ教師ノヨウニナ」
そう言って暗殺者型が、血まみれで倒れている教師に目線を投げる。
教師はすでに事切れてしまっていた。
「お前……!」
日向が目の前の暗殺者型に怒りの目を向ける。
その日向の腹部に、暗殺者型は右手のクローを突き刺した。
「フンッ!」
「がふっ……!?」
「抵抗ノ意志ヲ感ジタノデナ。下手ナ真似ハスルナヨ?」
筆舌に尽くしがたい激痛、血の匂いと共にせり上がる吐き気が日向を襲う。日向はまともに立っていられなくなり、自分の腹部にクローを突き刺している暗殺者型にもたれかかるように前のめりになってしまう。
前のめりになりながら、日向は仲間たちの様子を見る。本堂も、シャオランも、そしてエヴァも、暗殺者型たちに手を出せず、ただジッとしているしかない。しかし三人もまた表情は暗殺者型たちに対する怒りに満ちており、少しでも暗殺者型たちが隙を見せれば一秒足らずで攻撃を仕掛けそうな様子だ。
(一瞬だけ……一瞬だけでもこいつらの気を逸らせれば、この三人のスピードなら一気に暗殺者型たちを片付けてくれるかもしれない……。けど、少しでも変な動きをしたらアウトだ。どうすれば……)
暗殺者型に腹部を貫かれ、脳髄が沸騰しそうなほどの痛みに苛まれながらも、日向は思考する。だがしかし、妙案は悲しいほどに思い浮かばない。
その時だった。
がっくりとうなだれていた日向は、背後にいた人質の女性教師と目が合った。
教師も日向と目が合ったことに気づいた。
そして、その教師の口が、静かに動く。
(日下部さん……。子供たちを、どうかよろしくお願いしますね)
(……まさか。待って、駄目だ!)
日向は教師に行動を止めるよう目線で訴えるが、教師はそれを受け入れなかった。そして、自分たちを人質にしている暗殺者型のうちの一体に掴みかかった。
「やぁぁぁぁ!」
「ヌ! コノ女! 何ノ真似ダ!」
「抵抗スルナラ殺ス!」
そう言って、もう一体の掴まれていない暗殺者型が教師にクローを突き刺すべく右腕を引き絞る。その赤黒いクローから、彼らの体色よりも赤黒いオーラが噴き出した。”怨気”だ。
この教師の動きに誰よりも早く反応したのが本堂だった。目にも留まらぬ速度で、教師を始末しようとした暗殺者型の首を斬り飛ばした。
「GUEEE……!?」
……が、暗殺者型もすでに攻撃を繰り出し、教師の背中にクローを突き立ててしまっていた。
「ぁ……」
「遅かったか……!」
その本堂とほぼ同時に動いたのがシャオラン。
子供たちを始末しようとした別の暗殺者型の胸を殴り、風穴を開けた。
「やぁぁッ!!」
「GYA……!?」
残りの暗殺者型の数は二体。
教師に掴まれていた暗殺者型が、重傷を負った教師を振り払う。
それと同時に、エヴァが能力によって暗殺者型をピンポイントで燃やし、炎上させた。
「”アグニの祭火”!!」
「GAAAAA!?」
そして日向を突き刺していた暗殺者型は、すぐに残った子供たちや日向たちを始末するために動こうとしていたが、日向がそれを食い止めていた。クローを刺された腹筋に力を入れ、肉を引き締め、暗殺者型にクローを引き抜かせなかったのだ。
「オ前……!!」
「なんだその目は……。こっちはもっと怒ってるぞお前……!!」
そう言って日向は”復讐火”を発動。活性化した”再生の炎”が日向の腹部の傷を、突き刺されているクローごと焼き潰した。そして”復讐火”の副次効果によって身体能力が大幅に強化された日向は、そのパワーで暗殺者型の顔面に頭突きをお見舞いした。
「らぁぁっ!!」
「GAFF!?」
顔面が潰れるほどの衝撃を叩き込まれた暗殺者型。
吹っ飛ばされ、背中から地面に倒れ、後転して受け身を取った。
「GUUU……! ソレガオ前等ノ答エカ! 望ミ通リ、ソノ子供ラヲ虐殺シテヤロウ! 刺シ違エテデモナ!」
この時、日向はマズいと思った。今まで自分が抑えていた暗殺者型が自由に動けるようになってしまった。この暗殺者型の機動力なら、恐らく目の前の日向を掻い潜って子供たちに飛び掛かることも十分に可能だろう。このままでは子供たちが危ない。
日向はとっさにバックパックから筒のようなものを取り出す。その筒を天に向けてまっすぐ掲げ、下部についている紐を引っ張ると、筒の先端から光の球が飛び出して、空中で綺麗に破裂した。
「……何ダ?」
日向が放った光の球につられて空を見上げる暗殺者型。
その暗殺者型の一瞬の隙を逃さず、本堂が左手の爪を、そしてシャオランが右の貫手を暗殺者型の腹部に突き刺していた。
「GAAAA……!? ナン、ダトォ……!?」
「ちなみに、今のは囮だよ。お前の気を引くためだけに発射した打ち上げ花火。お前らが人質に取っていた生徒が作ってくれたんだ」
「ググ……コンナ事ニナルナラ、モウ少シ多ク、見セシメニ子供ラヲ殺シテオクベキダッタナァ……!」
……と暗殺者型が言い終わるより早く、本堂が空いている右手で暗殺者型の側頭部を殴り飛ばした。暗殺者型は頭部が吹き飛んで沈黙した。