第1254話 雷風雨
難民キャンプを脱した日向たち。
その日向たちを襲撃してきた、三機の異能の戦闘機。
三機の戦闘機はそれぞれ”雷天”、”風天”、”雨天”と名付けられた。名前だけ聞くと旧日本軍の海上戦闘機のような小型機を思い浮かべそうだが、実際のところはアメリカのFシリーズさながらの現代的な造形である。
三機の戦闘機は日向たちに背を向けてまっすぐ飛んだ後、宙返りしてUターン。いったん日向たちから距離を取って再び突撃してきた形だ。そして三機はそれぞれのミサイルを日向たちめがけて発射してきた。
放たれたミサイルの中で、特に速度が出ているのは雷天のものだ。まさに光の矢のような速さで日向たちに迫る。
これに対してエヴァが前に出る。
左の手のひらから強力な電磁場を作り出し、ミサイルを食い止めた。
エヴァの電磁場と衝突した雷のミサイルは電気をまき散らして爆発。
爆発したものの、その爆風は電磁場の向こうのエヴァには一切届いていない。
雷のミサイルは凌いだが、まだ風のミサイルと雨のミサイルも飛んできている。エヴァは続いて杖から電撃を撃ち出し、ミサイルの迎撃を図った。
エヴァの電撃は雨のミサイルを破壊。ミサイル内の濃硫酸が空中でまき散らされた。しかし風のミサイルは自ら動いてエヴァの電撃を掻い潜ってきた。
ミサイルが着弾よりも早くエヴァは地面に手をついた。すると地面が隆起して岩盤の壁ができあがる。岩盤の壁の表面にミサイルが着弾すると無色透明の暴風の爆発を巻き起こした。岩盤の壁は表面が大きく抉られたが、その向こうにいるエヴァにまで貫通することはなかった。
ミサイルを撃ち込んだ三機の戦闘機が、日向たちの頭上を飛び去って一時離脱を図る。日向たちとしては戦闘機が自分たちに最接近するチャンスだ。
「逃がしはせん。”轟雷砲”……!」
「空の練気法、”衝波”ッ!!」
本堂が右腕を突き出し、その右拳から強烈な稲妻を発射。シャオランは蒼白いオーラを纏った衝撃波を次々と撃ち出して、数撃てば当たる作戦で戦闘機の撃墜を狙う。
シャオランの衝撃波が何発か風天と雨天に命中。しかし機体に損傷は与えたものの、撃墜には至らない。そして本堂の”轟雷砲”は雷天に命中こそしたが、なんと雷天は本堂の電撃を吸収してしまった。
「あの雷天とやら、電撃は無効化するか」
「一機だけでも墜としたかったのに、全部逃げられたぁ!」
本堂とシャオランはそれぞれ悔しそうな反応を見せる。
一方、日向はエヴァに声をかけていた。
「エヴァ、少し気になったんだけど、なんでさっきのミサイルは雷の奴だけ電磁場で受け止めて、他のミサイルは別の異能で防ごうと思ったんだ? ミサイルってことは外装は金属なわけで、電磁場で全部防げたんじゃないか?」
「いえ、あのミサイル、一見すると普通のミサイルのようですが、実際のところは外装に至るまでエネルギーの塊です。雷のミサイルは外装に至るまで雷そのもの、風のミサイルも同じく外装に至るまで風そのものなのです。金属ではありません」
「そ、そうだったのか!? 見た目じゃ全然分からないな……。まぁ確かに色々と能力を使ってくる戦闘機なんだから、搭載している武装だって作りからして普通じゃなくてもおかしくないか」
「ミサイルだけではありません。あの三つの戦闘機とやらからも同じ気配を感じます。あの兵器そのものが『星の力』で形づくられているような……」
「なるほどな……。あの三機の戦闘機が、そして嵐の戦艦が、『星殺し』ドゥームズデイにとってどういう存在なのか、なんとなく分かってきたぞ」
「それはいったい? ……いえ、もうゆっくり話をしている場合ではありませんね」
エヴァの言う通りだ。三機の戦闘機が次なる攻撃を仕掛けるそぶりを見せている。三機のうち風の戦闘機、風天がその場で姿を消した。風の異能を利用した透明化能力だ。
「風天が透明になった! シャオラン、”風見鶏”で位置は分かるか!?」
「大丈夫! 風天はボクに任せて!」
姿が見える二機、雷天と雨天もそれぞれ分かれる。どうやら別方向からの同時攻撃を仕掛けるつもりらしい。姿を消している風天も恐らく他のニ機とは独立して動いているだろう。
「エヴァは雷天を、本堂さんは雨天を警戒!」
「分かりました」
「承った」
日向の指示に従い、エヴァが雷天を、本堂が雨天を見張る。シャオランも姿を消している風天をしっかり目で追っているようだ。三機は日向たちの周囲をグルグルと、様子を窺うように飛び回っている。
三機がそれぞれ動いた。
やはり日向たちを三方向から挟撃するつもりだ。
三方向から、三機の戦闘機が突っ込んでくる。
まずは雷天の攻撃。先ほども撃ち出してきた雷のミサイルを発射してきた。日向たちへの攻撃だけでなく、他の二機から注意を逸らすのも狙いだろうか。
これはエヴァが先ほどのように電磁場を発生させて受け止める。エヴァが受け止めてくれると信じていた日向たちは、雷のミサイルの方を一切見ることなく、他の戦闘機への警戒を続けている。
雷のミサイルを防がれた雷天は、再びエヴァたちの頭上を越えて一時離脱を図ろうとする。だがエヴァが前方上空に電磁場を発生させ、雷天を捕まえた。
「機体そのものが雷で造られているというのなら、機体そのものをこうやって電磁場で捕まえることも可能です。墜ちなさい!」
そう言って、エヴァが左手を振り下ろす。
それに連動して雷天も地面に叩きつけられ、大破した。
続いては雨天の攻撃。
地面すれすれを飛びながら、本堂を狙って二発の雨のミサイルを発射。
対する本堂は、なんと向かってくるミサイルと雨天に自ら向かっていく形でダッシュ。目にも留まらぬスピードで、すれ違いざまに二発の雨のミサイルを右腕の刃で切断、破壊。
そして、本堂と雨天の距離がゼロ距離になる。
本堂の右腕の刃が稲妻を迸らせながら発光する。
「”雷刃一閃”……!!」
右腕の刃を縦に振り抜く本堂。
一刀両断。雨天は左右に切り分けられて、墜落した。
そして残るは風天。
いまだに姿を消しているが、シャオランがしっかりと捕捉している。
「宙返りからの突撃を仕掛けてくるつもりだ……。今度はもう負けない。空でボクたちを叩き落とした時みたいにはいかないぞ……!」
どっしりとその場で構えるシャオラン。
風天が砂ぼこりを巻き上げながら突っ込んでくる。
風天がシャオランに激突する、その直前。
シャオランは左右の掌を一気に突き出した。
「空の練気法”大金剛”ッ!!」
風天がシャオランに激突。
しかし、粉々になったのは風天の方だった。
まるで、見上げるほどに大きな山にでも激突したかのように。
これにて三機全て撃墜。
日向たちの勝利である。
「どうだ見たか、これが俺の仲間だ」
「ほとんど何もしてないのに自慢げにしないでください。不服を申し立てます」
「い、いちおう指示とか出したし……」
その時だった。トンネルの出口から一つの人影。
どうやらオネスト・フューチャーズ・スクールの教師の一人のようだ。
男女一人ずついるうちの、男性の方である。
「あ、もう終わりましたよ。皆出てきて大丈夫です」
日向がその教師に声をかける。
……だが、その教師は血まみれだった。
足取りはおぼつかなく、顔色もひどい。
「う……うぅ……」
「なっ……!? ちょっと、大丈夫ですか!?」
「まさか敵が背後に……!? エヴァ、あの教師に治癒を!」
「わ、分かりました!」
本堂の指示を受け、エヴァがその教師のもとに駆けつける。日向たち三人もトンネル内のもう一人の教師と子供たちの安否を確かめるため、トンネルに突入しようとする。
しかし、その日向たちの背後から誰かの声がかけられた。
「無駄ダ。ソノ男ハ我ガ”怨気”ノ爪デ引キ裂イタ。モウ助カラン」
「後ろ……!?」
慌てて振り向く日向たち。
そこにいたのは、一体の目付きのレッドラムだった。
他の個体と比べると、体色が鮮やかな赤色ではなく、鮮血が時間経過によって色あせたかのような赤黒い色をしている。そして右手には長く鋭いクローが生えていた。その不気味さも相まって、まるで暗殺者のような風貌であった。