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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1251話 弔いのドッグファイト

 難民キャンプの上空にて、北園が操縦する飛空艇と、七機の雨の戦闘機が対決する。飛空艇の甲板には日影とミオン、そして岩の巨鳥ロックフォールの姿がある。


 七機の雨の戦闘機は、左右の三機がそれぞれ交差するように左右へ。そして残った中央の一機は高度を少し上げて、飛空艇の真上を通過した。その際、七機は酸性雨を降らせる灰色のスモークをまき散らす。


「左右と真上に酸性雨の雨雲を張って、こちらの動きを封じようってことかしら?」


「あの雲の中を通過しようとしたら、”再生の炎”があるオレはともかく、アンタやロックフォールは危ねぇか」


「そうね~……。自他ともに認める武術の達人の私だけど、さすがに酸に対する耐性はあなたたちと変わらないわ」


「我も多少なら防げるだろうが、長時間浴び続けると危険だろうな」


「足止めとして十分機能しやがるってワケだ。だが雲の張り方が甘いな、隙間があるぜ。北園、そこから抜けてやれ!」


『りょーかい!』


 日影の指示を受けて、北園は飛空艇の高度を上げる。右斜め上へと(かじ)を切り、雨雲と雨雲の間を通過した。


 雨雲を抜けた飛空艇の右側面から、三機の雨の戦闘機が襲撃してくる。左上から右下にかけて斜めに並ぶ陣形だ。


「真ん中やるぜ」


「ならば我は一番上だ」


「じゃあ私は余りものをもらうわね~」


 必要最低限の声をかけ合った二人と一羽。

 まずは日影が”オーバーヒート”を発動する。

 突撃してくる三機に向かっていくように、飛空艇から飛び立った。


 正面から突っ込んでくる日影を狙って、三機の雨の戦闘機は酸の弾丸を発射。超圧縮した酸の水粒を目視できないほどの速度で射撃する機銃だ。


 日影は避けない。

 ”オーバーヒート”の超熱は、酸が彼の身体にかかる前に蒸発させる。


(ぬる)すぎんだよッ!!」


 そのまま飛行を続け、『太陽の牙』を振りかぶる日影。隊列中央の一気に肉薄した瞬間、その振りかぶった剣を思いっきり振り下ろした。


 日影の渾身の斬撃で、雨の戦闘機の左翼が両断された。雨の戦闘機はきりもみ回転しながら落下した。


 飛空艇の甲板では、ロックフォールも日影に続いて飛び上がる。残った二機の戦闘機のうち、一番上にいる戦闘機と同じ高度に。


「それだけの速度だ、小石に(つまづ)くだけでも致命傷になるだろう!」


 そう言ってロックフォールは翼を大きく一回羽ばたき、自身の翼を構成する岩羽を発射。正面の雨の戦闘機に散弾のように襲い掛かる。


 一方、雨の戦闘機も酸機銃を発射。

 ロックフォールに攻撃を仕掛けてきた。


 戦闘機が発射してきた酸がロックフォールに撃ち込まれる。しかしロックフォールが焼かれたのは岩のような身体の表面だけだ。酸は筋線維などには到達しておらず、ロックフォールがダメージを受けている様子はほとんどない。


 そしてロックフォールが放った岩羽は、戦闘機のコックピットや両翼に次々と命中。というより、戦闘機の方から岩羽の中に勝手に超スピードで突っ込んできたようなものだ。派手なクラッシュ音を立てて、操縦コントロールを失いながら落下。


 残った一機はミオンが()とす。


「”如来神掌”~!」


 見えない風の衝撃波が、雨の戦闘機と正面衝突。雨の戦闘機はコンクリートの壁に突っ込んだかのようにペシャンコになり、空中で爆発した。


「爆発しても炎は上がらず、水になって(はじ)けるだけ……。完全に確信したわ、やっぱりこの戦闘機や、あの嵐の戦艦は……」


 ……しかし、今度は先ほどとは反対側……飛空艇の左側から三機の雨の戦闘機が来ている。ミオンはいったん思考を止めてロックフォールと共に、次なる三機の迎撃態勢。


 今度の三機は、両翼に装備しているミサイルを発射してきた。そして飛空艇には接近せず、ミサイルを発射するとそのまま左へ進路を変えて一時離脱。


 発射されたミサイルは音速でミオンたちの前に飛来。そして何かに着弾するより前に、彼女らの目の前で爆裂。その際、ミサイルの中から大量の液体がまき散らされる。


「この液体、これも酸……!」


 あっという間すら無く、一瞬で彼女の目の前でぶちまけられた大量の酸。これが普通の人間ならば、成すすべなく全身で浴びるほかない。普通の人間ならば。


 ミオンは一瞬のうちに、真下をくぐり抜ければ酸を回避できると見抜き、実行に移す。”風の練気法”で移動速度も上げ、難なく酸の回避に成功した。


 しかしロックフォールはそうもいかない。気が付けば目の前でミサイルが爆裂し、中からばら撒かれた大量の酸を浴びせられてしまった。


「ぬぅ……!?」


「ろっちゃん、大丈夫~!?」


「ろ、ろっちゃん……? それはともかく、我はまだ問題ない……!」


 たしかにロックフォールはまだ大丈夫そうだが、岩の身体は先ほどの酸機銃よりも大きく溶かされてしまっている。ダメージは軽くなさそうだ。


 一方、飛空艇は先ほど酸のミサイルを撃ち込んできた三機を追跡しているようだ。進路を左へと変えている。


『ロックオン! これはさっきのお返しだよ!』


 北園のアナウンス音と共に、飛空艇が両側面からミサイルを発射。金色のエネルギー弾が次々と射出され、雨の戦闘機へと襲い掛かる。


 飛空艇のミサイルは雨の戦闘機よりも遅いが、見た目に寄らず誘導性能が高いようだ。そして数も多い。進路上を塞ぐようにしてばら撒かれたミサイルに、二機の雨の戦闘機が突っ込んだ。二機はそのまま大破して空中分解。


 一機だけミサイル群をくぐり抜けてきた。再び飛空艇の左から突撃してくる。狙いはミオンのようだ。酸機銃を乱射しながら突っ込んでくる。


「良い度胸してるわね~あなた」


 ミオンは右足に”風の気質”を集中させ、その右足を一回、下から上へと力強く振り上げる。すると”風の気質”が大きなカッターのように射出され、そのまま突撃してきた雨の戦闘機を正面から真っ二つに。


 そしてミオンは左にずれて、酸の弾丸と雨の戦闘機本体を回避。雨の戦闘機は飛空艇の甲板すれすれを通過した後、水となって爆散した。


 残る雨の戦闘機は一機。

 これは現在、日影が”オーバーヒート”で追いかけている。


 全身から赤白い炎を噴出させながら音速で空を飛ぶ日影。だが雨の戦闘機の飛行速度もかなりのもので、日影はあと少しのところで追いつけない。


「ちぃッ、ちょこまかと! 雨雲のスモークも目くらましになってうぜぇ!」


 ここで日影は勝負に出る。目くらましのスモークを無理やり突っ切り、ショートカットで雨の戦闘機に接近し、一気に叩き落とす作戦だ。


 さっそくその作戦を実行に移す日影。彼の視界を奪うようにまき散らされた雨雲のスモークを突破し、その先の雨の戦闘機に斬りかかる。


 ……そうなるはずだったのだが。

 スモークを抜けた先に、雨の戦闘機の姿が無い。


「あぁ? どこ行った?」


『日影くん、上! 敵機は宙返りで日影くんの後ろに回り込もうとしてる!』


「この声、北園の”精神感応(テレパシー)”か!」


 日影がその北園の声に反応する頃には、雨の戦闘機はすでに日影の背後に回り込んでいた。彼の背後から酸機銃と酸のミサイルを一斉射撃。


 だが、なんとここで日影はわずかに高度を上へずらした後、”オーバーヒート”を解除。その結果、勢い余って雨の戦闘機とミサイルは日影のすぐ下をくぐる羽目に。


「真上取ったぜ。んじゃ墜ちろッ! ”陽炎鉄槌(ソルスマッシャー)”ッ!!」


 雨の戦闘機の背中に紅蓮の炎の拳を叩きつける日影。その一撃で雨の戦闘機の機体はひしゃげ、そのまま力無く地上へと落下した。


「空も地上も汚しやがって。テメェみてぇなロクでもねぇ戦闘機、見たことねぇぜ」


 犠牲になってしまった難民キャンプの人々の気持ちを代弁するように、日影はそう言い捨てて飛空艇へと戻っていった。

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