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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1249話 死の雨

 オネスト・フューチャーズ・スクールで飛空艇を待っていた日向たちだったが、それよりも早くやって来たのは日向たちを攻撃してきた青色の装甲を持つ雨の戦闘機だった。ただの戦闘機ではない。酸性雨を弾丸のように発射して攻撃するという特徴がある。数は七機。


 矢印の先端のような陣形で空を飛んできた、七機の雨の戦闘機。地上のはるか上空を飛行している。そして飛行しながら灰色の煙をフライトショーのスモークのように大量に排出している。


 七機の雨の戦闘機が排出した灰色の煙は、あっという間に難民キャンプの上空を覆い尽くしてしまう。その後、七機の戦闘機は地上に攻撃を仕掛けることなく飛び去っていった。


「なんだ……? 何しに来たんだあいつら? スモークをまき散らすだけまき散らして、そのまま行っちゃったぞ」


「ふむ、不気味だな。ただの威嚇などではあるまい。何らかの攻撃的な意図を(もっ)て、空を灰色の煙で埋め尽くしたのだと思うが」


「仁の言う通りです。あの煙はただの煙ではないようです。『星の力』を感じます。何か仕掛けてくるのかもしれません」


 広がる曇り空に警戒の目線を向ける日向たち。

 子供たちは日向たちの事情をよく知らず、不思議そうに空を眺めている。


 その時、ポタ、と音がした。

 水滴が落ちてきたような音。


 続けてポタ、ポタ、ポタポタポタと音が鳴り続ける。

 どうやら空から雨が降ってきているようだ。

 今はまだ雨量は少ないが、間もなく本降(ほんぶ)りになりそうな雨である。


「わ! あめだよ! めずらしいね!」


「この辺じゃ雨は滅多に降らないんだよ! 貴重なお水だよ!」


 降り始めた雨を見て、子供たちは大はしゃぎ。


 だがしかし。

 日向たちはひどく(あわ)てた表情をしていた。


「ヒューガ! この雨って、もしかして……!」


「ああ、この雨は絶対にマズい! 皆、子供たちを校舎の中へ!」


「言われずとも……!」


 日向たちは子供たちの手を引っ張り、あるいは子供の身体を抱え上げ、大急ぎで校舎の中へと非難させる。事態が呑み込めない子供たちはキョトンとしている。


 全員の子供たちを校舎の中へと避難させた日向たち。

 エヴァが、まだ運動場に残っている子供がいないか確かめる。


「あ……まだいた……!」


 一人の少女がまだ運動場に残っていた。この少女はエヴァの服を修繕してくれたファジャだ。エヴァは運動場へ飛び出し、ファジャに声をかけながら走り寄る。


「あ、エヴァおねえちゃん! このあめ、なんだかキラキラしててキレイだね!」


「ファジャ! あなたも早く来てください! この雨は危険です!」


「エヴァおねえちゃん、そんなにあわててどうしたの? あめはべつにこわくないよ?」


 ……と、その時だ。

 雨がいよいよ本降りになり始めた。

 ファジャの顔や肩や腕にも雨粒が落ちてくる。


「あ、あれ? え……あつい!? いたいっ!」


「やはりこの雨は酸性雨……! ファジャ、こっちです!」


 ファジャを確保し、肩を掴んで寄せるようにして校舎へと誘導するエヴァ。その間にも酸性雨は降り続いており、エヴァとファジャの身体に雨粒が落ちてきて二人の身体を焼く。


「あぅぅ……いたいよぉ……!」


「く……! もう少しの、辛抱です……!」


 そして、どうにか二人は校舎の入口へと転がり込んだ。二人の身体は、酸性雨が降りかかったところが赤く焼けただれてしまっていた。エヴァはまだ軽傷だが、ファジャの具合がひどい。


「いたい……いたいよ……」


「ファジャ! しっかりしてください!」


「エヴァ! ファジャちゃん! 大丈夫か!?」


「日向! 私は大丈夫ですが、ファジャがひどい怪我を……!」


「急いで能力で回復を!」


「水も用意しろ。傷口に酸が残っていては、回復に支障が出かねんぞ」


 エヴァとファジャの治療のため、オネスト・フューチャーズ・スクール内は全員が大慌てだ。


 そして当然、酸性雨はオネスト・フューチャーズ・スクールだけでなく、その周辺の難民キャンプも巻き込んでいる。人々が暮らすテント群に、強力な濃硫酸が容赦なく降り注いでいた。


「あがぁぁぁ!? と、溶ける……俺の身体が溶ける……!」


「だ、誰か! 誰か助けて! 足が動かないの! 私の足が無いの! お願い、誰か!」


「て、テントの中に避難しろ! テントでも何でもいい! 雨から逃げるんだ!」


「だ、ダメだ、テントも溶かされる……!」


「く……うぁ……車の下……車の下に隠れる……」


 酸性雨が降り注ぐ中、一台のワゴン車がタイヤや骨組みを溶かされて大破。バランスが崩れて大きく傾き、やがてタイヤの支えを失ってボディ部分が地面に落下した。そのワゴン車の真下に隠れていた人間も下敷きになってしまった。


 テントが溶かされ、砂原が溶かされ、あらゆるものが溶かされて、その蒸気で大地が真っ白に染まる。もうすでに難民キャンプは全滅してしまっていた。


 まさに地獄のような光景。家族を失ってしまったオネスト・フューチャーズ・スクールの子供たちは気の毒だが、この光景を見ずに済んだのは不幸中の幸いと言えるのかもしれない。


 難民キャンプのテントはほぼ全てが布製だったので、一瞬のうちに酸性雨に溶解させられてしまった。しかし日向たちが隠れているオネスト・フューチャーズ・スクールは石造りの建物だ。まだ酸性雨で倒壊することなく、日向たちを守ってくれている。


 だが、やはりこの酸性雨は相当な威力だ。早くも建物全体が軋む音が聞こえている。このままでは建物を構成する石材が溶かされて、いずれこの学舎も崩れ落ちてしまうだろう。学舎の中の日向たちは、不安そうに天井を見上げている。


 どこかで建物の一部が崩れる音がした。まだ建物が全壊するほどの損傷ではないようだが、やはり時間の問題のようである。子供たちはようやく事態の重さを察し、震えている。


「エヴァ、能力で床にトンネルを掘ってくれ! 北園さんたちが飛空艇で駆けつけてくれるまで、そこに避難していよう! あの飛空艇の光の装甲なら、これくらいの酸性雨じゃビクともしないはずだから!」


「分かりました……!」


 エヴァが石畳の床に手をつくと、その床に大きな穴が開いた。さらにその奥の土壁まで崩れる音が聞こえる。エヴァの能力によってトンネルが作られた。


 子供たち、教師たち、そして日向たちの順にトンネルへと入っていく。全員がトンネルの中に姿を消した時、建物が大きく崩れる音が聞こえ始めた。

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