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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1246話 不可解な感情

「どうしたお前、殴られたってのに楽しそうじゃねぇか」


 日影がガンマン型のレッドラムに尋ねる。


 ガンマン型のレッドラムは先ほど、日影に殴られて小さく笑い声を発した。お前の攻撃は効いていないというアピールではなく、もっと純粋に、現在の日影との勝負を楽しんでいるかのようなイントネーションだった。


「人間の絶望の表情が好きって言ってたが、なんだかんだで真剣勝負も趣味の一つか?」


 日影はそう尋ねるが、ガンマン型のレッドラムは首を横に振った。


「私ハコノ星ヲ、ソシテコノ星ニ生キルオ前タチヲ明確ニ敵視シテイル。オ前トノ戦闘ソノモノニ興奮ヤ情熱ヲ覚エルコトハ断ジテナイ」


「ああそうかい」


「ダガ……フフ、シカシ楽シイ、イイヤ、嬉シイヨ」


「なんだと?」


「私ハ、コレホドマデニ強クナッタオ前ノ姿ヲ見テ喜ンデイルラシイ」


 今のガンマン型の言葉は、まるで日影を以前から知っていて、その成長ぶりを祝福するかのようであった。レッドラムがそんな感情を抱くこと自体が驚きだが、何より気になるのは、このレッドラムは以前から日影のことを知っているかのように言ったことだ。それこそ”最後の災害(テラ・バスタード)”以前から日影を知っていたかのような口ぶりだった。


 もしかしたらこのレッドラムもジナイーダのように、人間からレッドラムに寝返った存在なのかもしれない。そして日影とは人間時代にどこかで出会ったことがある……という可能性だ。


 そう思い、ガンマン型の動きに注意しながら頭の中で記憶を掘り起こす日影。しかしいくら思い出しても、このガンマン型と同一人物のような人間には心当たりがなかった。間違いなくこのガンマン型は日影とは初対面である。


「オレにガンマンの知り合いはいねぇはずだが? お前はオレの何を知ってやがる」


「教エテヤル義理ハ無イ。無駄話ガ過ギタナ。続キヲヤロウ」


 そう言ってガンマン型は、日影との会話の間にリロードを済ませておいたリボルバーの銃口を日影に向けて、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく引き金を引いた。


 しかし日影もガンマン型の行動を先読みしていた。ガンマン型が引き金を引くより早く動いて銃弾を避け、また瓦礫の裏に隠れる。


 日影は瓦礫から瓦礫へ移動し、リボルバーの射線を切りながらガンマン型との距離を詰めていく。ガンマン型も移動する日影を狙ってリボルバーを射撃するがうまく当たらない。


「奴メ、コチラノ射撃ノ(くせ)(つか)ンデキテイルナ」


 日影はガンマン型の射撃のタイミング、二発目や三発目を撃つときの間隔、日影が瓦礫の裏に隠れたらどのあたりに目途(めど)をつけて集中的に狙っているか、そういった情報を感覚で(とら)え、ガンマン型の射線を予測しているようだ。だからガンマン型の射撃が当たりにくくなっている。


「コノ短イ戦闘ノ間ニ、コレホドマデニ私ノ動キニ慣レテミセルカ。奴ノ”体ノ見切リ”、(あなど)レン」


 つぶやきながら、ガンマン型は再びリボルバーを射撃。だが、その射線は日影が隠れている瓦礫とはまったく別の方向だ。その瓦礫の右方向にある街灯の柱を狙ったようだ。


 ガンマン型が撃った弾丸は街灯に命中すると金属音を鳴り響かせる。そして同時に弾丸が弾かれ、ちょうど瓦礫の後ろにいた日影に横から飛んできて彼の右腕に命中。


「痛っつ!? 野郎、跳弾させてきやがった!」


 跳弾させたので弾丸の威力は落ちていたが、それでも日影の腕に穴を開け、その腕の中に残ってしまっている。弾丸は人体を貫通するより、むしろ身体の中に残った方がダメージは大きい。


 ガンマン型はさらに三発射撃。再び街灯に跳弾させて瓦礫の裏の日影を狙う。今度は日影の左わき腹、右側頭部、左肩にそれぞれかする。


「くッ……! これで四発。あと一発くる……!」


 日影は五発目の跳弾に備えて街灯に向かってガードの構え。次の五発目を(しの)げばガンマン型のリボルバーは弾切れだ。リロードするための隙が生まれる。


 しかしガンマン型は、日影が街灯を注視することを読んで、日影が隠れている瓦礫の左側から回り込んできた。日影の背後を取り、すぐさま彼の後頭部に銃口を突きつける。そして間髪入れず引き金を引いた。


 だが日影もとっさにガンマン型の次なる行動を予測した。ほとんど野性的な直感だった。もうすでに自分の背後にガンマン型が回り込んでいると確信し、後ろを見ずに右足で蹴り上げを放つ。その結果、リボルバーを構えていたガンマン型の右腕が下から蹴り上げられ、射線もずれて日影に弾丸は当たらなかった。


「ちぃッ!? あぶねぇ!」


「何ダト……!」


 致命の一撃を回避し、逆に大きなチャンスを手繰り寄せた日影。いまガンマン型のリボルバーは弾丸が残っていない。反撃を仕掛けるなら今だ。


 日影は蹴り上げからつなげるように、左から右へ『太陽の牙』で斬り払う。一方、ガンマン型は背中から後ろへ飛び込むようにして日影から距離を取る。


 日影の『太陽の牙』がガンマン型の胸部を切り裂いた。決定打と呼ぶには浅いが、かすり傷と呼ぶには深い傷。


 ガンマン型は後ろへローリングしながらリロードを同時に行ない、背中から着地すると後転。そのまま膝立ちの体勢になって五発全弾を連続発砲。


 日影はガンマン型との間合いを詰めようとしていたが、まさか飛び込み後転しながらシングルアクションアーミーのリロードを終えるという神技まで披露してくるとは予想していなかった。とっさに『太陽の牙』で急所をガード。


「くそッ……!」


 どうにか頭部や心臓に弾丸を撃ち込まれることは防げたが、腕や脚に三発ほどかすった。そして何より、ガンマン型との間合いを詰めようとしていた足を止められてしまった。


 現在の両者の間合い、およそ二メートルあるかないか。

 ガンマン型はすでにリロードを終えている。


「コノ間合イナラ、私ノ勝チダ。オ前ノ拳ハ(わず)カニ届カズ、剣デ斬ルノハ(こぶし)ヨリ遅イ。オ前ノ一度ノ斬撃ノ間ニ、私ナラ五発全弾ブチ()メル」


「かもな。だが、勝つかどうかはやってみねぇと分からねぇぞ」


「フン……良イダロウ。ナラバ、決着ヲ付ケヨウ」


 そう言ってガンマン型はリボルバーを腰のホルスターに仕舞い、腰を落として構えた。彼の最速の射撃、抜き撃ちの体勢だ。


 日影もまた『太陽の牙』を逆手に持ち、上体をわずかに低くして構える。逃げる意志など微塵も感じられない前傾姿勢だ。鋭い目つきでガンマン型を見据える。


 まるで西部劇のガンマン同士の早撃ち勝負の構図。

 剣士と銃手、生き残るのはただ一人。

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