第1245話 剣と拳銃の決闘
ガンマン型のレッドラムと一対一の勝負をすることになった日影。
戦闘開始早々から手痛い攻撃を喰らってしまったが、どうにか凌ぐことができたようだ。今は受けたダメージも回復し、両者は再びにらみ合いの状態に。構図だけなら戦闘開始時点に戻ったような形である。
ガンマン型のレッドラムとにらみ合いながら、日影は考える。
「西部劇のガンマンの早撃ちは、オレが発生する前に日向が動画で見てたから、その記憶を引き継いで知ってたが……想像以上の速度だったな。警戒してあらかじめ頭をガードしてなけりゃ、さっそく一回死亡しちまってたぞ」
また、リボルバーといえば弾数は六発というのがメジャーだが、このガンマン型のレッドラムが使っているリボルバーの装弾数は五発のようだ。しかし装弾数が少ないぶん、弾丸一発のサイズが大きく、威力も非常に強くなっている。
「おまけに、アイツぁ恐らく武の心得もある。オレが動く前からオレの行動を前もって知っていたかのような、最初の射撃。あれはたぶんオレの気の起こりを察知する”心の見切り”だ」
一対一での勝負を申し込みに来ただけのことはある。
このレッドラムは強い。
「ったく、オレが飛空艇に残って、ミオンに街の探索を任せりゃよかったかな」
そうぼやきながらも、日影の闘志はまだ揺らいではいない。その証拠に、彼の全身からメラメラと炎が上がり始めている。”オーバードライヴ”を稼働させたのだ。
「さて、集中だぜ……。気を抜いたら一瞬でぶち抜かれる」
両者、戦闘開始時のように姿勢を低くして構えている。日影の全身から噴き出す炎が、ゆらゆらと揺らめく陽炎を発生させている。
日影の身体がゆらりと動いた。
瞬間、ガンマン型が抜き撃ち。
今度は日影もガンマン型の動きを読んでいた。
放たれた銃弾は右に跳んで回避。
だが、右に跳んだ日影の左脚の付け根に一発の弾丸が撃ち込まれた。
「ぐぅッ!? 野郎、オレが右に跳ぶのを読んで、その軌道上にあらかじめ二発目を……!」
銃声は一回だけしか鳴っていなかったようだが、実は二回鳴っていた。一瞬のうちに二発の銃弾を放つ早業。戦闘開始時にも見せた芸当だ。
銃弾は日影の左脚を貫通した。耐えがたい激痛が日影を襲うが、日影は意地でこれを耐え、倒れず踏ん張る。そして『太陽の牙』を逆手に持ち、一気にガンマン型めがけて跳躍し斬りかかった。
「おるぁぁッ!!」
だが、ガンマン型は右へ素早くステップして日影の斬撃を回避。日影から距離を取り、再び二発同時射撃。狙いは日影の腹部と心臓。
ガンマン型は左手を使って手動で撃鉄を降ろし、同時に右手の指で引き金を引いている。これはファニングと呼ばれる動作で、一回射撃するごとに手動で撃鉄を上げなければならないシングルアクションの連射性能を飛躍的に高めることができるテクニックだ。
日影はとっさに『太陽の牙』でガードの構えを取る。その結果、心臓への弾丸は防げたが、腹部への弾丸は喰らってしまった。
「ぐ……ああああああッ!!」
日影は叫び、気合いでダメージをこらえる。そして”オーバードライヴ”の出力を上昇させ、”オーバーヒート”を発動させる。音速の勢いでガンマン型に突っ込んでいった。
「ヌ……!」
これにはさすがのガンマン型も警戒の色を露わにした。左に向かってローリングして日影の進路上から逃れる。跳びながら、同時にすれ違う日影に向かって発砲したが、これは当たらなかった。
ガンマン型がいなくなった場所を、赤白い炎を噴出しながら日影が突き抜けていった。その余韻である熱波がガンマン型の肉体を軽く炙る。
そして日影は、最初にガンマン型が腰かけていた瓦礫の山に激突。大爆炎をまき散らし、瓦礫の山を崩壊させた。激突の衝撃で周囲に大きな瓦礫が散らばる。
ガンマン型はリボルバーの弾倉から空薬莢を排出し、素早く次弾装填。そして爆炎が晴れない内に、その向こうにいる日影めがけて五発全弾を一気に発射。弾丸が炎の向こうへと吸い込まれる。
「手応エガ無イ。外シタカ」
再びリロードを行なうガンマン型。赤い空薬莢は地面に落ちると弾けて血痕となり、指先を弾倉の穴に差し込んで新しい弾丸を生成する。
爆炎が晴れるが、そこに日影の姿は無かった。だがガンマン型は動揺することなく、冷静に日影の行動を分析。
「散乱シタ瓦礫ヲ遮蔽物ニシテ、ソノ裏ニ隠レテイルナ。単細胞ニシテハ考エタモノダ」
「うっせぇ! 誰が単細胞だ!」
「ソウヤッテ、些細ナ挑発デスグニ言イ返ストコロガ、正ニソウダロウ」
日影が声を発したことで、どの遮蔽物に隠れているか見当が付いた。ガンマン型は日影が隠れているであろう瓦礫に向かって五発連続で発砲する。
いくらガンマン型のリボルバーが高威力とはいえ、一発でこの大きな瓦礫を貫通するほどの威力は無い。しかし五発同時ともなれば話は別。弾丸は瓦礫を掘削し、その向こうまで貫通した。
日影の顔のすぐ側を、瓦礫を貫通してきた弾丸が飛んでいった。あともう少し日影の位置がずれていれば、瓦礫ごと後頭部に穴を開けられていただろう。
「あっぶね!? クソ、良い腕してやがる。ともかく、どさくさに紛れて瓦礫の山を崩して遮蔽物を作る作戦は上手くいった。後はここから、どうやってあの野郎を追い詰めてやるかだな」
すると、日影の左の拳がひときわ強く燃えだした。
その燃え盛る左拳で、日影は遮蔽物にしていた瓦礫を殴る。
「再生の炎……”陽炎鉄槌”ッ!!」
日影の拳を叩きつけられたことで瓦礫が爆砕される。粉々になった瓦礫が散弾のようにガンマン型に向かって飛んで行く。
ガンマン型はこれをしゃがんで回避。
そのしゃがんだガンマン型めがけて、日影は『太陽の牙』をぶん投げる。
「だるぁぁッ!!」
回転しながら飛んで行く『太陽の牙』。
ガンマン型は、その『太陽の牙』に銃口を向けた。
「コノ剣ヲ回避サセテ、ソノ隙ヲ突コウトイウ魂胆ナノダロウ? サセンヨ」
ガンマン型が三発同時に発砲。弾丸は『太陽の牙』の柄、中心、剣先にそれぞれ命中し、飛んできていた『太陽の牙』の勢いを完全に殺して撃ち落とした。
その『太陽の牙』を追うように接近してきていた日影。ガンマン型は日影に改めて照準を合わせる。『太陽の牙』を撃ち落とした以上、後は日影だけを注視すればいい。
一方、日影は自分の目の前で撃ち落とされた『太陽の牙』を、道路に落ちる前に空中でキャッチ。そのまま再びガンマン型に向かって走る。
ガンマン型が二発同時に発砲。
狙いは日影の脚と心臓。
すると、ここで日影はスライディング。ガンマン型が放った二発の銃弾の真下をくぐった。道路を焦がしながらガンマン型の足元まで接近。
「何……!?」
「何度も撃たれてりゃ、テメェの射撃パターンくらい嫌でも憶えるんだよ!」
日影はすぐさま立ち上がり、同時に斬り上げを放つ。
しかしこれはガンマン型が後ろに下がって回避。
「ここまで来て逃がすかッ!」
距離を取ろうとしたガンマン型との間合いを素早く詰める日影。現在、ガンマン型のリボルバーの弾倉は空だ。この機を逃さない。
だが、その日影を迎撃するようにガンマン型がソバットを繰り出す。
「ハッ!!」
「それも読んでるぜ!」
これに対して日影は、左の拳を振り抜いてガンマン型のソバットを撃墜。さらに捻った身体を戻すように、今度は逆手に持った右の『太陽の牙』を左へと振り抜いた。
ガンマン型はまたすぐに後ろへ下がり、日影の斬撃を回避。完璧に回避はされず、『太陽の牙』はガンマン型の胸の表面を浅く焼き斬った。ダメージは与えたものの、あまり大きくはない。
しかし日影はここまで読んでいた。読んでいたというより、戦闘本能で身体が勝手に動いたと言うべきか。ガンマン型が後ろに下がると見抜き、その顔面に鋭い左ストレートを叩き込んだ。
「おるぁぁッ!!」
「グッ……!」
ガンマン型の左頬に、日影の燃え盛る拳が突き刺さる。
だがガンマン型は、この日影の拳の威力を利用して身体を回転させ、ダメージの一部を受け流す。そして同時に、リボルバーを持った右手で日影に裏拳を叩きつけてきた。
「KAAAAA!!」
「ぐッ……!」
日影も右腕でガードするが、大きく吹っ飛ばされてしまった。ガンマン型との距離が開き、再びガンマン型の間合いへ戻される。また両者、間合いを開けてにらみ合いの構図になった。
……と、ここで、ガンマン型が小さく笑い声を発した。
「フフ……」
人類に煮えたぎるような憎悪を抱くレッドラム……アーリアの民が、日影に殴られて楽しそうに笑った。これはいったい、何の意図があるのだろうか。