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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1240話 二度目の学校訪問

 岩の巨鳥のマモノ、ロックフォールの背中に乗って日向たちは空を飛ぶ。


 向かう先は一つの難民キャンプ。そのキャンプの付近には、狭山が経営していた学校がある。名はオネスト・フューチャーズ・スクール。貧困によって満足な教育が受けられないこの地の子供たちのために狭山が私財を投げ打って建設した教育施設である。


「あんな慈善活動までしていたのに、いったいなんでこんなにも徹底的にこの星を滅ぼそうとするんだろうか狭山さんは……」


 ロックフォールの背中の上で全身に風を浴びながら、日向がつぶやく。その日向のつぶやきにシャオランも反応する。


「なんかもう、普通じゃないよね……。今まで大切にしてきたもの、全部ウソみたいに壊そうとするんだもん……。何かがきっかけで急に心変わりしてこの星への復讐を決意した、みたいな理由がないと納得いかないよ」


「本当にな。この戦いの中で何か分かるといいんだけど」


 しばらくすると、目的地の難民キャンプが見えてきた。


 難民キャンプは、以前に日向たちがここへ来た時とあまり変わっていなかった。つまりレッドラムに襲われて破壊されたようには見えない。警戒のためか以前より静かで緊迫した雰囲気がキャンプ全体に漂っているものの、攻撃を受けた家屋などは全く無いように見える。


「思った以上に無事なのだな、此処(ここ)のキャンプは」


 本堂がつぶやくと、ロックフォールがそれに答えた。


「そもそも、ほとんど襲撃を受けていないのだ。電波が届かなくなる前のラジオ放送で、世界中で赤い化け物が暴れているということについては把握している」


「レッドラム……この星への復讐に参加しているアーリアの民の数は非常に多いとはいえ、限りはある。強大な軍事力を有する先進国への攻撃を優先させ、発展途上国は後回しにしているのだろうか」


「我も正確なところは分からないが、この国そのものがまったく襲われていないというワケでもないようだ。化け物に居住を破壊されて暴徒と化した人間がこのキャンプを襲撃してきたこともあった」


「成る程。この荒れ果てた星における唯一の安全地帯、というワケにはいかないか」


 難民キャンプの少しはずれにオネスト・フューチャーズ・スクールは建てられている。ロックフォールは校舎前の運動場に日向たち四人を降ろした。


 巨大な鳥であるロックフォールが降りてきたら、嫌でも目立つ。ロックフォールを出迎えるために校舎の中から子供たちが飛び出してきた。


「ロックフォールだー!」


「ロックフォールおかえり! その人たち誰?」


「あ、僕この人たち知ってる! 校長先生が連れてきてた人でしょ!」


「憶えてるよ! 野球してもらった時、僕この人からホームランがんがん打った!」


 わらわらと集まってきた子供たちをどうどうと落ち着かせる日向たち。この学校を管理する大人たちも出てきて子供たちを静めるのを手伝ってくれる。


「随分と人気者になっちゃってるな、ロックフォール」


「お前たちとも出会ったあの一件以来、ここにはたびたび出入りしていた。現在に至ってはほぼ住み込みだな。我が子もここに預けている。我は空を飛び、近くの壊滅した集落や町などから必要な物資を取ってきている」


「なるほど、このキャンプの生命線の一つになってるのか。(した)われるわけだよ」


 ……と、そこへ、校舎から遅れてきた男の子が一人。左肩に(わし)らしき鳥を乗せた、穏やかそうな少年だ。そして日向たちもよく知っている人物である。


「あ……ヒュウガ兄ちゃん!」


「お、アラムくんだ。久しぶり! ちょっと身長伸びた?」


「そうなんだよ! 前より四センチ伸びた!」


「おおすごい。こりゃ俺はいつか抜かれちゃうかな」


 この少年の名前はアラム。以前に日向たちがこのオネスト・フューチャーズ・スクールを訪れた時に、当初は敵だったロックフォールにさらわれ、日向たちに救出されたことがある。


 その時はアラム自身も囚われの身ながらも機転を利かせ、ロックフォールが抱える事情を日向たちに伝えてくれた。いまロックフォールがここにいるのはアラムのおかげと言っても過言ではないかもしれない。


 アラムは人やモノの性質を(とら)える際、それらを言語化するのではなく彼オリジナルの模様として捉えるなど、常人とは違ったモノの見方、創造力を持っている。いわゆる「天才型」の少年であった。


 アラムは天才型ゆえ周囲の子供たちから理解されず、アラム自身も理解されないだけならまだしも馬鹿にしてくる子供までいたので周囲の子供たちを遠ざけていた。そのため日向がアラム少年と初めて出会った時は非常に暗い性格だったが、日向たちとの交流を通じて年相応の明るい性格になった。というより、この明るい性格がアラム本来の性格なのだろう。


「ホンドウ兄ちゃんとシャオランもいる! ホンドウ兄ちゃんは、なんかちょっと怪人っぽくなった?」


「怪人というより、マモノになったのだ」


「えええ!? マモノ!?」


「安心してほしい、俺の人格そのものに影響は無い」


「そ、そうみたいだね。前に来た時と同じホンドウ兄ちゃんだ」


「それよりアラム! なんでヒューガとホンドーは兄ちゃん付けでボクだけ呼び捨てなのぉ!?」


「え、だってシャオランはシャオランでしょ?」


「どういう意味かな!? ねぇどういう意味かな!?」


 しっかりといじられるシャオラン。

 周りの子供たちもウケて笑っている。


 そんな子供たちの笑顔を見て、ふと日向は思う。


「ここはまだレッドラムに襲われていないみたいだから、子供たちもあまり辛い目にあってない。だからこんなに心の底から楽しそうな笑顔ができるのかな。考えてみれば、こんな子供たちの普通の笑顔を見たのって、いつが最後だったかな……」


 この子供たちの未来のためにも、勝たないといけない。

 日向は心の中で、改めて狭山を止めることを固く誓った。

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