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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1237話 高高度落下

 緑色の戦闘機……暴風の戦闘機のステルス突進を受けて蹴散らされてしまった日向たち四人。突進の際に巻き起こったソニックブラストが日向たち全員をズタボロに引き裂いた。


 日向、本堂、シャオラン、みな大きなダメージを受けているが、特にひどいのはエヴァだ。最も深く突進に巻き込まれてしまった。深緑のローブは派手に引き裂かれ、エヴァ自身も意識を失っている。


 エヴァが意識を失ってしまっているので、日向と本堂を飛行させていた”天女の羽衣”も解除されてしまった。日向たちを包み込んでいた風のベールが消えてしまっている。そしてもちろんエヴァ自身も例外ではない。三人そろって真っ逆さまだ。


「あああああ嘘だやばいいいい!? エヴァ起きてくれぇぇぇ!!」


「む……。マモノ化したこの肉体なら、上手く受け身を取れば最悪でも即死は(まぬが)れ……いや流石に厳しいか……? だが確か、スカイダイビングでパラシュートが誤作動を起こし、高度四千メートルから以上から地面に叩きつけられ、それでも生還した女性の話を聞いたことがある。可能性は無きにしも(あら)ずか?」


「いや落ちるの前提で考えていないで本堂さんもエヴァを起こすの手伝ってくださいいい!!」


 日向は落下しながらエヴァの身体をゆすっているが、エヴァは全く起きる気配がない。身体のあちこちから血も流れており、あまり激しくゆすると彼女の身体を余計に痛めてしまうかもしれない。それがエヴァを起こす日向の手を躊躇(ちゅうちょ)させてしまう。


「ダメだ起きない……! シャオラン、お前は”飛脚”で飛べるだろ!? 俺たちを抱えてどうにか飛べない!?」


「ゴメン無理! ”飛脚”で飛ぶにはボク自身の身体を脱力させて軽くするのも重要なんだ! ヒューガたちみんなを抱えたら重量オーバーになっちゃう!」


「せめてエヴァだけでも! 俺は落下しても一応”再生の炎”があるし、本堂さんもワンチャン生き残れると思うから!」


「え、エヴァだけなら、いけるかな……?」


 一応は請け負ってくれたシャオラン。しかしその表情はまだ不安そうである。うまくいく自信があまりなさそうな様子だ。


 それを見た本堂が、つぶやいた。


「ふむ。こうなったら、やはり俺が何とかするしかないようだな」


「はい!? 『やはり』って、一ミリだってそんな話の流れは無かったでしょ!? だいたい何する気なんです!? 俺たち全員をこのピンチから救うような秘策があるんですか!?」


「俺自身が飛行できるように進化する。今ここで」


「…………はい?」


 なんとなーく、本堂が何をどうするつもりなのか、日向は察した。

 だが「この男は本気なのか」と、現実を受け入れがたい心境でもある。


 マモノとなった本堂は”生命(ライフメイカー)”の能力による肉体改造能力を獲得している。これにより本堂はその身を環境に合わせてある程度改造ができるようになった。戦闘の際は戦闘特化に。水中で活動するなら水中特化に。


 しかし、そんな彼の肉体改造能力でも、今まで空に適応させることはできなかった。つまるところ、本堂は翼を生やしたりして空を飛ぶことができなかった。


 本堂は、それを克服するつもりなのだ。

 このぶっつけ本番で、肉体を飛行可能なものに変質させる気だ。


「あの、本堂さん? それって、勝算はいかほどのもので?」


「ふむ。年末宝くじで一等を当てるくらいか」


「実質ゼロってことですかい!」


「冗談だ。確かに今までは、俺の肉体は飛行可能なものに変質させることが出来なかった。だがマモノとなってはや二カ月弱。(さら)に『星の力』の順応が進み、より人間からマモノに近しくなった今の俺ならば……」


 そう言って本堂は、全身に力を込めるような動作を取り始める。それに(ともな)って、彼の身体が小刻みに震え始めた。


 やがて、バキバキと骨格が変形する音と共に、本堂の背中から一対の翼が生えた。厚めの羽毛に包まれた、猛禽類のようにたくましい翼が。


 そして本堂は、その場をぐるりと一周。

 周囲にいた日向とシャオラン、それからエヴァをかき集めた。


「ほ、本堂さん飛んだ! うおおお本堂さん飛んだ! 助かった!」


「どうにか進化には成功したが、まだ身体が飛行に慣れていないな。それにこの定員では、ゆっくりと地上に降りるのが限界のようだ。とても飛空艇までは戻れん」


「それでもとりあえず、これで全員助かりはしそうです。本堂さんありがとうござ……」


 ……と、日向が本堂に礼を言っていた、その途中でシャオランが声を上げた。


「ちょっと待って! まだ安心するのは早いよ! さっきの緑の戦闘機がこっちに向かってきてる!」


 シャオランは風の練気法の”風見鶏”を使用し、暴風の戦闘機が接近してきているのを感知したようだ。日向たちにトドメを刺しに来たのだろう。


 上を見上げても、暴風の戦闘機の姿は無い。

 恐らくは、また風のベールを(まと)って透明化している。


「それさえ分かれば、透明化していると(わきま)えた上で捕捉すれば良いだけのこと」


 そうつぶやき、本堂の双眸(そうぼう)が鋭く光る。

 無色透明の何かが、こちらに向かって超高速で飛んできているのが見えた。


「捉えた。喰らえ、”轟雷砲”……!」


 左腕でエヴァを抱え、胴体に日向とシャオランをしがみつかせながら、本堂は右腕から轟音と共に稲妻(いなずま)を発射した。


 発射された稲妻は、暴風の戦闘機の先端からエンジンまでをまっすぐに貫いた。同時に風のベールも解除され、暴風の戦闘機の全体像が(あら)わになる。


 本堂に撃ち抜かれて暴風の戦闘機は大破したが、その突撃の勢いはもう止まらない。そのまま本堂たちめがけて落下してくる。


 しかし本堂は背中の翼を動かし、その場からヒラリと移動。先ほどまで本堂たちがいた場所を暴風の戦闘機が通過する。


 そのまま暴風の戦闘機は誰一人として巻き込めず、爆散した。

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