第1235話 分断
日影とミオンが飛空艇の援護に駆けつける、少し前。
嵐の戦艦を撃墜した日向たちは、それぞれの異能によって空を飛び、飛空艇へ帰還していた。日影は”オーバーヒート”で。シャオランとミオンは風の練気法の”飛脚”で。日向と本堂はエヴァの”天女の羽衣”の補助を受けて。
その時、エヴァが急に声を上げた。
「飛空艇に、なにやら新たな気配が接近しているようです」
「新たな気配? 新手の敵か?」
「恐らくは。現在、飛空艇の中の良乃の気配が、その新たな気配から逃げ回るように動いています。この気配、凄まじい速度で動いています。飛空艇は逃げ切ることができないようです」
「マジか。俺たちも急いで駆けつけないと」
「あ……ちょっと待ってください、また新たに二つの気配を感知しました。この二つも飛空艇に向かっています」
「ちょ、本当にヤバいな!? こうなったら俺たちの中でも特に速く飛べるメンバーだけでも先行して向かわせよう!」
「そうなると、オレが行くべきか」
そう言って日影が名乗りを上げる。
すると、そこへミオンも手を挙げた。
「私も行くわ、日影くん~。風の練気法の”飛脚”と”順風”を組み合わせた奥義”舞空”を使えば、かなりの速度で飛べるから~。さすがにあなたほどじゃないけどね」
「あ、それなら師匠、”舞空”ならボクも今はそれなりに使えるようになってるから、ボクも一緒に……」
シャオランがミオンにそう提案するが、ミオンはそれを断った。
「シャオランくんはこっちの、日向くんのグループにいてあげてちょうだい。敵は戦力を一気に投入せず、様子を見るように少しずつ投入しているわ。何か狙いがあるのかも。それこそ、本命は飛空艇じゃなくてこっちかもしれない」
「た、確かにその可能性も否定できないね……」
「あくまで『もしも』の話だから、私の考え過ぎかもしれないけどね。でも、あなたたちのグループが狙われた場合、飛行能力が自在に使えるのは、あなたを除けばエヴァちゃんだけ。エヴァちゃんがやられたら日向くんと本堂くんを飛行させている能力も解除されちゃうわ」
「そ、そっか。それじゃあエヴァをしっかり守ってあげないと」
「話は終わったか? さっさと飛空艇のところへ向かうぞ」
「ええ、待たせちゃってごめんなさいね日影くん~。エヴァちゃん、飛空艇はどっちの方向かしら?」
「あっちです。ただ、かなり動き回っています。お二人が駆けつけるころには飛空艇も大きく移動して、その場所にはいないかと……」
「大丈夫よ~。ある程度の位置が分かれば、あとは私の”風見鶏”で大気の揺らぎを感知して追跡できるから~」
それから日影とミオンは日向たちのグループを離れ、飛び去った。残った日向たち四人も引き続き飛空艇に追いつくべく飛行を続行。
「エヴァ。贅沢を承知で言うんだけどさ、もうちょっと速く飛べない?」
「今の私ではこれが限界です。人を飛ばすだけでもすごいことなのですから、あまり贅沢言わないでください」
「はいごめんなさい」
「……しかし実際、この程度の速度しか出ないのはちょっと問題ですね……。このまま飛空艇が逃げ続けていると、私たちはずっと追いつけないままです。飛空艇の方が私たちの飛行速度より速いですからね」
「マジで頼むぞー日影たちー。俺たちが飛空艇に帰れるかどうかはお前たちにかかっているー……」
「ミオンさんも言っていたが、襲われるかもしれないのは俺達も同じだ。気を緩めずに飛空艇へ向かうぞ」
本堂の言葉に皆は気を引き締め直し、飛空艇へと向かう。
……と、その時。
エヴァが再び声を上げた。
「また新たな気配を感知しました。数は二つ。こちらへ向かっています……すごいスピードです……!」
「本当にこっちにも襲撃を仕掛けてきたか……! 全員、腰を入れて迎え撃つぞ! 飛空艇を援護しに行くのにこっちがやられたら元も子もない!」
「向こうです! 向こうの方角から来ます!」
エヴァが指さす方向、その向こうの雲の中から何かが飛び出してきた。先ほど日向たちが撃墜した嵐の戦艦と比べると比較にならないくらい小さいが、凄まじい速度で向かってくる何かが。
日向の両眼が、襲撃してきた敵の姿を視認する。
やって来たのは水色の戦闘機だ。数は一機。
「あれは戦闘機……!? エヴァが言っていた気配っていうのはアレのことか! エヴァが『星の力』の気配を感じることができるってことは、嵐の戦艦みたいにただの機械じゃなくて、ドゥームズデイに関係する『星殺し』だとは思うけど……」
日向が考えに耽っている間にも、水色の戦闘機は一瞬で日向たちとの距離を詰めてくる。そして日向たちを射程圏内に捉えると、機銃からキラキラと光を反射させる何かをばら撒くように撃ち出してきた。
「何か撃ってきた! 避けないと!」
日向たちは左右に散開し、水色の戦闘機が撃ち出してきた何かを回避。その際に皆は戦闘機が撃ち出してきたものの正体を捉えようと目を向けるが、それは無色透明で形がハッキリせず、誰一人としてその正体を見極めることはできなかった。
散開した日向たちの間を通り抜けるように飛び去る水色の戦闘機。すぐさまUターンして、再び日向たちの攻撃を仕掛ける。また機銃から正体不明の何かを撃ち出す攻撃だ。
「くそ、さすがに動きが速い! さ、避けきれない……!」
日向が、水色の戦闘機が撃ち出してきた何かを受けてしまった。日向の身体に何かを捻って食い込ませるような、重く鋭い痛みを何か所にも感じた。
「うっぐ……!?」
痛みで顔を歪める日向。
そのダメージを”復讐火”で治癒し、水色の戦闘機めがけて『太陽の牙』を投げつけた。
「りゃあああっ!!」
ヘリコプターのプロペラのように高速回転しながら飛んで行く『太陽の牙』。しかし水色の戦闘機には当たらなかった。
「やっぱりちょっと無茶だったか……。的が速すぎる」
「ヒューガ! ケガは大丈夫!? いったい何を撃ち込まれたの!?」
「ええと……」
日向は自身の身体を確認し、水色の戦闘機が撃ち出してきたものが残っていないかを確認する。
だが、日向の身体には何も残っていなかった。
身体の中に弾丸が残っているような異物感も無い。
「何もない……? ”再生の炎”が焼き尽くしたような感覚もない。俺はいったい何を喰らったんだ……?」