第1227話 嵐の戦艦
エヴァの能力で空へと飛び上がった日向たちと六匹の犬たち。北園と日影、それからシャオランは自前の異能で飛行している。
日向たちは相当な高度まで上昇した。一隻目のドゥームズデイと思われていた戦艦が発生させた雨雲の中に突入するほどの高さだ。
「たぶん下見たら失神するレベルの高さなんだろうけど、雨雲で地上が見えないから、あまり怖くは感じないな」
日向がつぶやく。
その時、前方低空位置に”嵐”の戦艦が飛んでいるのを見つけた。
「よし、うまく頭上を取れたみたいだ。エヴァ、このまま急降下して一気に甲板に乗り込むぞ。誘導頼む!」
「お任せください……!」
日向に返事をして、エヴァが能力を行使。それに呼応するかのように、日向たちを包み込む風のベールが少し揺らめいた。
エヴァの能力によって空を飛ばせてもらっている日向たちが、先頭を飛ぶエヴァの後ろについて行く。それはさながら子供たちを連れて空を飛ぶピーターパンのような構図。北園と日影とシャオランも左右に展開している。
すると、嵐の戦艦も彼らの接近に気づいたようだ。甲板および艦橋の三連装砲数十門を一斉に向けて、それら全てから青色の電弾を発射。あっという間に恐るべき量の弾幕が展開される。
それと同時に北園と日影が飛び出した。日影は”オーバーヒート”による自慢の高機動で電弾を次々と回避。シャオランも空中を鋭く跳躍して避けている。北園は二人ほどの回避能力はないがバリアーを展開し、回避し切れない雷弾を防御している。
雷弾は当然、三人の後ろにいるエヴァたちも狙っている。エヴァの能力によって浮遊している日向や本堂、それから六匹の犬たちは、多少は自由に動けるものの日影たちのように華麗に雷弾を回避できるほどの機動力はない。
「ちょ、え、エヴァ、どうにかしてくれ!」
「言われずとも。はっ……!」
エヴァが左手を突き出すと、彼女の目の前に強力な電磁力が展開される。その斥力によって雷弾はエヴァたちを避けるように逸れ、あるいは弾き返される。
「おぉ、本当にどうにかしてくれた」
「今の私が持つ『星の力』の量ならば、この程度のことは造作もないです」
「それでまだ全体の三割いかないくらいなんだろ? 十割になったらどんなことになるか、考えるとちょっと怖いな」
日向たちはまだ戦艦に接近できてはいないが、先行した日影たち三人は無事に雷弾の弾幕をくぐり抜け、戦艦の甲板へと乗り込んだようだ。その際、日影は”落陽鉄槌”で流星のように着地。
「おるぁぁぁッ!!」
さらにシャオランが”地震”の能力を発動。右足に地震の震動エネルギーを纏わせて、着地と同時に嵐の戦艦を思いっきり踏みつけた。
「やぁぁぁッ!!」
戦艦が丸ごと真っ二つになるのではないかと思うほどの衝撃。艦体が軋む音が鳴り響いた。しかし嵐の戦艦はまだ大破はせず、艦橋の二人を取り囲むように三連装砲の銃口を向ける。
「野郎、自分ごとオレたちを撃つつもりか!」
そして三連装砲の銃口が電撃を噴いた。
日影とシャオランの全方位から青色の雷弾が迫る。
二人は真上にジャンプして雷弾を回避。
二人に回避された雷弾はそのまま艦橋に直撃したが、艦橋はほぼまったく傷ついていなかった。嵐の戦艦というだけあって、電撃には強い耐性があるのかもしれない。
ここで、艦橋には降りずに空中に留まっていた北園が強力な火炎放射を発射。嵐の戦艦に取り付けられている三連装砲を次々と焼いていく。
「”発火能力”+”溶岩”! えーいっ!」
もはや火炎放射どころかちょっとした光線のようにもなっている北園の炎は、着弾箇所で爆炎を巻き起こす。その火炎放射を薙ぎ払い、艦橋で次々と爆発を起こして三連装砲を破壊していく。
日影が『太陽の牙』で三連装砲を焼き斬り、シャオランが震脚で艦橋を踏み荒らす。そして北園が火炎放射で艦橋を爆破、炎上させる。嵐の戦艦からしたらたまったものではないレベルの大暴れっぷりである。
しかし、さすがに巨大な戦艦だけあって、三人がこれだけ暴れても嵐の戦艦はまだ大破していない。今もなお雨雲の中を飛行しつつ、艦橋で暴れる三人や接近しているエヴァたちを狙って雷弾を撃ち続けている。
その時、一門の三連装砲が北園に狙いを定めた。彼女は今、攻撃に夢中になっており、自分が狙われていることに気づいていない。このままでは不意を突かれる。
だがそこへ、本堂が空から降ってきた。
そして北園を狙っていた三連装砲を、右腕の刃で一刀両断。
「ふんっ……!」
真っ二つになる三連装砲。
本堂がその場から飛び退くと、三連装砲は爆発した。
さらに、エヴァと日向と六匹の犬たちもようやく甲板に到着した。その際、先頭にいたエヴァが杖に”地震”の震動エネルギーを纏わせながら振りかぶり、着地と同時にその杖の先端を艦橋に叩きつけた。
「粉砕せよ……”ティアマットの鳴動”!!」
強烈な衝撃が嵐の戦艦全体に奔る。ただ衝撃が響いただけではない。内部機構まで震動によって崩壊させられたようだ。
直後、艦体のあちこちから青色の爆発が発生。
いよいよ耐久力に限界が来たようだ。
「一回で墜ちないなら、もう一回です……!」
そう言って、エヴァが再び震動エネルギーを纏わせた杖を足元に叩きつけた。それと同時に、中身が飛び出たかのように嵐の戦艦のあちこちから青色の爆炎が噴出した。
艦体のバランスが崩れ、嵐の戦艦がゆっくりと墜落し始める。青色の爆発も止まらず、日向たちは爆発に巻き込まれる前に戦艦を離れることにする。
「一緒に来た方が安全と思って連れてきた犬たちはともかく、日向は何もしませんでしたね」
「まぁ今さらだけど、俺って”星殺閃光”を撃ったばかりだから冷却時間中だし、ここから本格的に戦闘に参加することになっても何もできなかったと思う」
……と、その時だ。日向はこの艦橋を離れる前に、この戦艦の破損部分に着目し始めた。爆発によって装甲がめくれ上がり、内部構造が露わになっている箇所である。
「意外と内部は、なんというか、メカメカしい感じじゃないんだな……。こんなSFっぽい戦艦なんだから、装甲の向こう側はワケわからない電気系統でびっしりかと思ったら、ただの壁の断面みたいになってる……」
「日向くん! 早く逃げないと危ないよー!?」
「あ、あぁ、分かってる!」
北園に急かされ、日向はすぐさまその場から飛び立つ。
直後、先ほどまで日向が立っていた場所でひときわ強い爆発が起こった。
その後、この嵐の戦艦も一隻目のように空中で崩壊しながら、エネルギーの粒子となって消滅した。