第1225話 戦艦の雷砲
空に雨雲が広がり、大地が暗くなる。
響き渡る雷の音が、嵐の到来を告げている。
分厚い黒雲の向こうから、巨大な飛行戦艦が出現した。ところどころに発光する青色のラインが入った、近未来的なデザインの黒い戦艦。
日向たちは、この戦艦を見たことがある。
忘れもしない。シャオランの故郷の町を消し飛ばした張本人。
「来た……ドゥームズデイだ!」
日向が声を上げる。
彼の言う通り、現れたのは”嵐”の星殺し、ドゥームズデイだった。
ドゥームズデイは、他の『星殺し』たちのように鳴き声をあげない。機械的な見た目どおり、ただ無機質に、そして無感情に戦艦前部の機構を展開し、雷のエネルギーをチャージし始める。シャオランの町も消し飛ばした破壊光線を放つつもりなのだろう。
「ちょっ、ちょ、どうするのヒューガぁ!? あんなの撃ち込まれたら、ボクたちこの場所もろとも消し炭にされちゃうよぉぉ!?」
「爆風だけでも私のバリアーを破壊するほどの威力だったから、直撃なんて絶対に防げないよ!?」
慌てて日向に声をかけるシャオランと北園。シャオランに至っては、ドゥームズデイはリンファや家族の直接の仇だというのに怒るのを忘れるほどのパニックぶりである。
この場所から逃げることさえ不可能だろう。日影の”オーバーヒート”のような戦闘機レベルの速度があってギリギリ逃げ切れるかどうかといったところか。
「……けど、今の俺には、あの時と違って奴に対抗できる手がある」
そうつぶやいて日向は『太陽の牙』を構えた。
彼の最大最強の火力”星殺閃光”で迎え撃つつもりだ。
「皆、下がってて。向こうがやる気なら正面からやってやる!」
「ほ、本気ですか日向!? あの光線の破壊力はあなたも前に見たことがあるでしょう!?」
そう言って日向を止めるエヴァ。
しかし、そのエヴァを本堂が制止した。
「いや……もはやこれくらいしか手が無いだろう。日向の火力を信じるしかない。全員下がるぞ。此処にいては逆に日向の炎に巻き込まれかねん」
「そうですね……分かりました」
「撃ち負けんじゃねぇぞ日向」
本堂の言葉にエヴァも納得し、日影が最後に声をかけ、仲間たちは日向から一目散に離れていった。広い平原に日向一人が取り残される。
仲間たちが安全圏まで移動したのを確認した日向は、さっそく攻撃の準備に取り掛かった。
「太陽の牙……”最大火力”ッ!!」
日向がそう唱えると、『太陽の牙』から長大な緋色の光刃が発生する。日向の身長の何倍もある、見上げるほどに長い刀身だ。
その光刃が出現すると同時に、日向の周囲に強烈な熱波がまき散らされる。周囲の大地は熱だけで溶解し、剣の持ち主である日向自身も容赦なくその身を焼かれている。しかし日向は”復讐火”の高速回復機能をフル回転させることで、骨まで焼き尽くされることはなく無理やり耐えている。
その一方で、ドゥームズデイは攻撃準備が完了したようだ。青と白と黒が入り混じったような禍々しい雷のエネルギーが、光線発射口に集中している。
そして、ドゥームズデイが雷の光線を発射。
何百万、何千万もの稲妻を収束させたかのようなビームだ。その規模は、小さな集落くらいならそれだけで押し潰せるのではないかと思うほど。少なくとも、ただの人間が真っ向から挑んでどうにかできるとは絶対に思えないような凄まじさ。
しかし、日向も迎撃準備を完了させた。
光刃を纏う『太陽の牙』を振り上げ、思いっきり振り下ろした。
「太陽の牙……”星殺閃光”ッ!!」
日向が『太陽の牙』を振り下ろすと、振り下ろされた光刃から超熱の光線が放たれた。空気を焼くような音を立ててドゥームズデイの光線に向かっていく。
ドゥームズデイの雷砲と、日向の”星殺閃光”が衝突した。
すると、日向の”星殺閃光”がドゥームズデイの雷砲ど真ん中を貫通して消し飛ばし、その先のドゥームズデイごと焼き貫いた。艦頭から艦尾まで一直線に。
一拍置いて、ドゥームズデイのあちこちが爆発、炎上。
やがて内部から崩れるように、ドゥームズデイは空中でバラバラになった。
日向の視線の先で、ドゥームズデイが崩れ去りながら轟沈する。
その様子を眺めていた日向は、キョトンとしていた。
「……え? あれ? 勝った? ドゥームズデイ倒した?」
轟沈させた本人である日向も、信じられないといった様子である。今までの『星殺し』の中でも最もあっけなく撃破した。してしまった。
退避していた仲間たちも、日向のもとに戻ってきた。皆、日向と同じく、いささか信じがたいといった様子で、ドゥームズデイが墜落していくのを眺めていた。
「す、すごい……。日向くん、一人でドゥームズデイを倒しちゃった」
「あのプルガトリウムさえも一撃で焼き殺したというだけあって、あまりにも流石な火力だったな。いや、恐れ入る」
「えっと、リンファたちの敵討ちもこれで終わり?」
「まぁ、そうなるんじゃねぇか? 楽に終わって良かったじゃねぇかシャオラン」
その後、崩壊したドゥームズデイの残骸は地上に落ちることなく、落下の途中で青い光の粒子となって空中に消えていった。それはまるで、編み物のように編まれていたエネルギーの糸がほつれて分解されていくような光景だった。
日向たちは、ドゥームズデイが消滅した地点の近くまでやって来た。そして周囲を見回してみる。もうドゥームズデイに関連するものはこの場に何も残されてはいない。
ドゥームズデイは跡形もなく消え去った。
……それだけなら、日向たちの完全勝利のように聞こえるだろう。
だが、日向たちは皆そろって疑問の表情を浮かべていた。
この勝利、何かがおかしいと日向たちは感じている。
「あの戦艦がドゥームズデイの外殻だとしたら、その後に人間型の本体が出てくるのがいつものパターンだけど、出てこないな」
「狭山誠の記憶も出てきません。日向の”星殺閃光”で、外殻の中の本体ごと焼き尽くされたという線も無さそうです」
『星殺し』の外殻を倒した後の、いつもの恒例行事がない。
これはいったい、何を意味するのか。
日向は、ポツリとつぶやいた。
「いま俺が倒したのは、本当にドゥームズデイだったのか……?」