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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第22章 その艇は嵐を往く
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第1224話 次なる星殺し

 ジ・アビスの討伐を完了した日向たちとポメ……六人と一匹は、海に住むマモノたちに別れを告げた後、浮上するアイランドに乗って大西洋の海底から帰還する。


 日向たちが潜水病にならないよう、アイランドはゆっくりと浮上する。時間をかけてゆっくりと。


 気が付けば、日向たちがこの大西洋に飛び込んでから既に丸一日が経過していた。日向の存在のタイムリミットは残り18日。


 それからまた数時間ほど経った後、ようやくアイランドは海面へと浮上した。見渡す限りの大海原から一つの島が丸ごと海から姿を現す光景は、事情を知らない者が見ていたら腰を抜かしていただろう。


 アイランドが浮上したこの場所は、日向たちが大西洋に飛び込んだポルトガルのリスボンから、かなり離れた地点である。アイランドは引き続き日向たちを乗せてポルトガルのリスボンへ向かう。


 それにしても、久しぶりの地上。

 もう日向たちは海水の重みに動きを制限されることはない。


 せっかくなので海から出たら思いっきり動き回って地上を満喫してやろうかと考えていた日向だったが、実行に移すことはなかった。なぜなら……。


「な、なんだか身体が重い……。今までずっと水圧で身体を押さえつけられていたからか、海と地上での身体の軽さのギャップで感覚が馬鹿になってる……」


 そう言って日向は砂浜の上でへばっていた。

 日向だけではない。他の仲間たちも、立つ気力さえ無さそうだった。


「うぁー、私も指一本動かせないよー。このままここで寝ちゃいそう」


「深海と地上との環境のギャップだけでなく、そもそも俺達はほぼ丸一日、この海の中で活動し、戦っていたのだからな。疲労困憊にもなるというものだろう……」


「宇宙から地球に帰還した宇宙飛行士とかも、こんな感じで動けなくなっちゃうのかなぁ。まぁ、あっちは無重力から重力圏の中。ボクたちは海の重みから解放。少し対称的な感じだけど」


「流石のオレも、今日はもう何もしたくねぇや……」


「長時間活動と……今までずっと”オトヒメの加護”を維持してきた疲れが一気に噴き出てきて……すごく眠く……ふぁ……」


「アゥ……」


 このため、アイランドが陸地に到着する間、六人と一匹は皆そろって静かに過ごし体力回復に努めた。


 そういうわけで日向たちは、大西洋からの浮上と体力回復に計二日の日数を費やすこととなった。日向の存在のタイムリミットは残り16日。


 その日の早朝、アイランドは日向たちが海に飛び込んだ地点に到着した。ポルトガルの首都リスボンの付近である。


 首都リスボンは今もなお海の中だが、その水位が少し減っているように感じる。いずれこのあたりも海水が引いて陸地に戻るのだろう。


 アイランドの巨大な触手が日向たちを乗せて、彼らを陸地へ送った。久しぶりの大地である。


「アイランド、ありがとう。おかげでここまで無事に移動できた」


『お役に立てて良かったですぅ!! 皆さんが来てくれなかったら、ジ・アビスは倒されなくて私はずっと海の底だったでしょうし、皆さんには感謝してます!!』


 日向たちを送り届けたアイランドは、すぐにその場を離れはせずに待機。なぜなら、日向たちはもう少し彼女の世話になる可能性があるからだ。スピカたちが飛空艇を確保できなかった場合、このアイランドが日向たちにとって現状唯一の、大西洋を渡る手段になる。


 日向たちがこの場所まで乗ってきた車のもとに、六人と一匹は移動。するとスペインで仲間にした五匹の大型犬たちが日向たちを出迎えてくれた。横一列に整列して、それぞれ鳴き声を上げている。


「ワン!」


「ワオーン!」


「ワンワン!」


「おぉ皆、元気してたかー? 無事に帰ってきたぞー。ポメも無事だぞー」


 もふもふたちの出迎えを受けた日向たちは、水着から普段着に着替えた後、少し早めの朝食の準備を行なう。エヴァの能力で野菜を収穫し、それを北園とシャオランがカットしてサラダにしてくれる。


「これくらいなら簡単だから、準備は私とシャオランくんだけでだいじょうぶ! 他のみんなはゆっくり過ごしてていいよー」


 北園がそう言うので、残りの仲間たちは自由時間となった。

 日向が「さて、どう時間を潰そうかな」と考えていると、そこへ野菜収穫の役目を終えて仕事が無くなったエヴァが声をかけてきた。


「日向。ちょっと話があります」


「ん、どうしたエヴァ」


「ジ・アビスからも『星の力』を回収し、私の気配感知能力はさらに向上しました。その結果、複数の『星殺し』と思われる気配を各地から察知したのです」


「そうか、『星殺し』も残り三体か……。気配の位置と特徴は?」


「一つは、ここから西に。ものすごく大きな気配を感じます。その場から動かず、ジッとしているようです」


 ここから西といえば、北アメリカ大陸だ。

 恐らくはアメリカ合衆国にも『星殺し』が出現しているのだろう。


「アメリカか……ジャックたちは大丈夫かな……?」


「そして、ここから東に二つの気配を感じます。遠くの方の気配は非常に大きく、近くの方の気配は小さめですが、動きが速くてあちこちを回っているようです」


「残りの『星殺し』とも数が合うな」


 まだ日向たちが倒していない『星殺し』は三体。

 ”嵐”の星殺し、ドゥームズデイ。

 ”地震”の星殺し、グラウンド・ゼロ。

 ”生命”の星殺し、ロストエデン。


 いまエヴァが挙げた三つの気配のうち、『動き回る小さめの気配』というのはドゥームズデイではないかと日向は推測した。ドゥームズデイは空を飛ぶ戦艦のような姿だった。飛行速度もかなりのもので、あちこち動き回るには適した姿をしている。


「私たちは次に、どの『星殺し』を倒すべきでしょうか」


 エヴァがそう尋ねてきた。話というのはこのことだったのだろう。日向にとっても大事な事項だ。次の最善手は何か、熟考し始める。


「そうだなぁ……。ここから一番近いのはドゥームズデイみたいだけど、飛空艇の確保を頼んだスピカさんたちと合流できてないしなぁ。空を飛べるドゥームズデイと戦うのは厳しそうか。もう一つの、同じ方角の遠いほうの気配を狙うにしても、結局ドゥームズデイの近くを通らないといけない。見つかって追い回されでもしたら面倒だ」


「では、次はアメリカに出現している『星殺し』ということになるでしょうか。アイランドも待機させていますし、海を渡る手段には困らないかと」


「タイムリミットは厳しくなるだろうけど、それが一番かな……ああいや、アメリカを攻略しても飛空艇が手に入らなかった場合、また海を渡ってこっちに戻らないといけないわけか。そうなると行って戻っての二度手間だから、やっぱりまずユーラシア大陸側の『星殺し』を一掃してからアメリカに向かうべきか……」


「ちなみにドゥームズデイと思われる気配はともかく、もう一つの遠いほうの気配は、一日や二日で到着できるような距離ではありません。どのみちスピカたちが『ひくうてい』とやらを入手してくれない限り、あなたのタイムリミットはかなり絶望的かと」


「そっかぁ、やっぱりそうかぁ……。覚悟はしていたし仕方ない部分もあったけど、やっぱりジ・アビスを倒すまでが時間かかり過ぎたもんな……」


 頭をかく日向。これが自分たちにできる最善、最速のジ・アビス討伐だったと考えて、どうにか悔しさを紛らわせようとする。


 ……だがしかし。

 ここでエヴァが声を上げた。


「あ……待ってください! ドゥームズデイと思われる気配が、急にこちらへ接近を始めました!」


「なぁっ!? つまりそれって、ドゥームズデイがこっちに来る!?」


 日向がそう言い終わるころには、すでに空には真っ黒な雨雲が広がりつつあった。”嵐”が近づいている証だ。

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