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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1223話 疑惑と別れの記憶

 ゼス王子は目覚めたものの、どこかへ姿を消してしまった。

 同時に隕石衝突が起こり、地球に再び混沌の時代が訪れる。


 そして目覚めたゼス王子から、とてつもない不気味な気配を感じたとネネミエネは言った。


「王子さまは、予知夢を見たって(おっしゃ)ってた……。いわく、『この星に破滅が訪れる』って。今の隕石衝突は、その序曲だって……」


「隕石衝突から始まる、この星の破滅……? これからどんどん、この星に災害が訪れちゃうってことなのかしら? そしていずれはこの星が崩壊?」


「いや……もしかすると、王子さま自身がこの星を滅ぼすつもりなのかも……」


「えぇ~!? でもそれは有り得ないんじゃないのスピカちゃん!? だって王子さま、あんなにもこの星を好いていたじゃないの! それがどうして、今さらこの星を滅ぼすなんて!」


「ワタシにも分からない。でも有り得ない話じゃないと思うんですよね。ワタシが見た王子さまの心のシミ、あれが気のせいじゃなかったとしたら、王子さまの心が豹変してしまってもおかしくない。何が起因で、あの異常が発生したのかは今も分からないけれど……」


「で、でもあたしとお話した王子さまは、姿こそ大人になってましたけど、昔と変わらない、人の良さそうな御方でした……」


「人格に変化がないということは、心そのものにも変化がない……? ますます分からないな、王子さまの身に何が起こってるのか……」


「う~ん……あの王子さまに限って、そんな悪いことは考えないと思うのだけどね~私は。いつかこの星に危機が訪れるから助けないと……っていう意図でそんな話をしたとか考えられないかしら?」


「確かにそういう解釈もできなくはないですけど、それならあの時に感じた不気味な気配はなんだったんでしょう……?」


 とにかく、三人はゼス王子を探すことにした。彼の身に何が起こったのか、推測しても分からないなら、本人に直接問いただすしかない。


 しかし、王子が”瞬間移動(テレポート)”を使って姿を消したのなら、探し出すのは不可能に近い。あの能力は移動の際に一切の痕跡を残さず姿を消せる。手掛かりがまったく無いまま、三人はこの破壊された地球のどこかに消えてしまった王子を探さなければならない。


 それから三人は王子を探すために、何千万年もの間、行動を共にした。王子以外の他のアーリアの民たちも、あの時の隕石衝突の際にはぐれてしまった。無事にどこかで生きてくれているのを祈るしかない。


 やがて地球の状態も安定してきて、新たな生命が地上に現れ始める。

 そのタイミングで、スピカがネネミエネとミオンに話を切り出した。


「もう三人で力を合わせなくても安定して生きていけるような環境になってきたからさ、ここからは三人で手分けして王子さまを探さないー?」


「三人で手分けしてどうにかなるような捜索範囲じゃないと思うけど……」


「でもやっぱり気になるじゃん、王子さまが言う『破滅』ってさ。いつかこの星に危機が迫るから助けないといけないって意味なら、ワタシたちも王子さまを支えないといけない。そして万が一、いや億が一、王子さまがこの星に何か危害を加えるつもりなら、ワタシたちが止めないと」


「そうね~。たしかにこの星は私たちの母星を食べてしまった、いわゆる『仇敵』ともいえる存在かもしれないけれど、でもそれはそれ、これはこれ、だものね」


「はい! この星に生きるほとんどの生命は、あたしたちの件とは無関係です! 何の罪もありません! そんな彼らを一方的に破滅っていうのは、やっぱり間違ってます!」


「ネネミエネの言うとおりー。だからワタシたちは一刻も早く王子さまを見つけなきゃ。そのために少しでも発見できる確率を上げるため、手分けするべきだとワタシは思うの。この星の未来のためにさ」


「でも私たちは、離れたところにいる相手とやり取りできる手段を持っていないわ。私は一応”精神感応(テレパシー)”が使えるけれど、有効距離はせいぜい数百メートル程度だし……」


「あたしたち、ここで別れたら、もう会えないかもしれませんね……」


 ネネミエネのつぶやきで、三人の間に重い空気が降りてくる。

 これからずっと孤独に生きていかなければならないのか、と。


 それでも三人は、ここで手分けすることを決めた。

 この星のために、そして何よりも王子のために。


「それじゃミオンさん、ネネミエネ、達者でねー。ワタシがいなくても、寂しくて泣くんじゃないぞー」


「うふふ。ここだけの話、ちょっと自由にこの星を見て回りたいって思ってたのよね~。王子さまを探すついでに色々なところを見て回るのも楽しそうかも~!」


「二人とも緊張感ないなぁ……。でもまぁ先の長い使命になりそうだし、ミオンさんくらいにリラックスしていくのがちょうどいいのかも。それではお二人とも、お元気で!」


 こうして三人はそれぞれ背を向け、前へ歩き出し、この地球のどこかに散っていった。姿を消したゼス王子を探すために。



◆     ◆     ◆



 日向の視界が再び灰色の光に塗り潰され、気が付けばアイランドの砂浜の上にいた。どうやら今回の狭山の記憶の映像はここで終わったようだ。


 他の皆も映像の閲覧が終わったらしく、話を(うかが)うように他の仲間たちに視線を向けている。


「移住計画初期から、狭山がスピカたちと決別した時の映像だったみてぇだな」


「狭山さんが今の……この星の破滅を企む存在になっちゃったのは、あの休眠状態が大きなポイントだったみたいだね……」


「でも結局、サヤマがどうしてそんな存在になっちゃったのか、ボクたちがサヤマと戦うのに役立つ情報とかは、今回も何も無かったよ……」


「そうですね。強いて言えば、アーリアの民の身体性能の凄まじさを見せつけられたくらいでしょうか。あの原初の地球の極限環境を何億年も生き抜いた生命力と精神力、尋常ではありません」


 仲間たちがそれぞれ感想を述べる一方で、本堂が日向に声をかけてきた。


「日向。お前は気付いたか? あの映像、一つ妙なところがあった」


「たぶん分かります。あの記憶……狭山さんの記憶だと思いましたけど、どちらかというとネネミエネさんの記憶でしたよね?」


「その通りだ。最初こそ狭山さんに焦点が当てられているようだったが、ほぼ全編を通して、あの映像の主役はネネミエネという女性だった」


「狭山さんが休眠状態の時も映像は問題なく再生されてましたからね。あの映像は狭山さんが捏造(ねつぞう)したイメージだとか、そんな話じゃなくて純粋な狭山さんの記憶なら、狭山さんが見ていない場面の完全再現は不可能なはず」


「アーリアの民は休眠状態でも周囲の音を聞くことが可能という線もあるが……いや、やはりその線は薄いか。アーリアの民にそう言う能力があるなら、ネネミエネ女史はその性格と役割上、もっと頻繁に寝ている狭山さんに声をかけていたはずだ。やはりあの記憶はネネミエネさんのもので間違いない」


「ここに来て狭山さんではない他人の記憶……いったい何を意味しているんだ? 狭山さんが魂を取り込んだ民の記憶が偶然混ざった? いやそもそもネネミエネさんは狭山さんに取り込まれていないから怨霊化していないわけだし……」


 これまでの映像の中で最も長く、多くの情報が手に入ったものの、最終的にこの映像が何を伝えたかったのかは、今回も分からずじまいだった。


「相変わらず、あの人の記憶は謎が多いな。もう『星殺し』の討伐も折り返し地点だというのに、まだ先が見えてこない」


「ですね。……そういえば、もう折り返し地点なんですよね『星殺し』も。ジ・アビスで四体目だから、残り三体……」


「ああ。タイムリミットは厳しいが、少し終わりが見えてきたな、日向」


「ええ。きっと上手くいきますよ、俺たちなら」


 そう返事して、日向はふと思う。今回のジ・アビスとの戦いは、日向たちの知った顔が誰一人として犠牲になっていなかった。


 もちろん、日向たちが見えないところで、日向としては顔も名前も知らない大勢の人間、大勢の動物、大勢のマモノたちが命を落としてしまったのだろう。それについてはやはり悲しく、彼らの安息を祈るほかない。


 だがそれでも今回は、日向たちと仲の良い人物が命を落とすということは一度もなかった。せっかくの『星殺し』討伐の余韻を、悲しみで上書きされるということはなかった。純粋に勝利を喜べる。


「……うん。あれだけの強敵を相手にして、この戦果。俺たちならきっと、上手くいく」


 自分にそう言い聞かせるように、日向はつぶやいた。

 残る『星殺し』は、あと三体。

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