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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1214話 救われた心

 日向たちとジ・アビスとの戦いが繰り広げられる、その少し前。

 深海五千メートル地点。


 ここは日向たちが、暴走したネプチューンと戦った場所だ。日向たちに(しず)められたネプチューンはダメージによって意識を失い、まだ覚醒できずにいる。そんなネプチューンを、娘クジラのラティカとポメラニアンのポメが心配そうに見守っている。


 ポメが発光しているおかげで、この周辺は光で照らされている。視界は良好だ。サメ型のレッドラムが接近してきてもすぐに気づくことができるだろう。


「クーン……」


『大丈夫……お母さんはきっと起きてくれるから。キミは優しいね』


 ……と、その時だった。

 気絶していたネプチューンが、目を開いた。


『あ……お母さん……!』


『ラティカ……。ここは……私はたしか……』


『お母さん、大丈夫……? 何があったのか思い出せる?』


『……えぇ、思い出したわ。全部思い出した……思い出してしまったと言うべきかしら……。私はとんでもないことをしてしまったわ……。日下部さんたちに襲い掛かり、私たち親子が生存するために仲間たちを食らった……』


 どうやらネプチューンは意識が覚醒しただけでなく、彼女の心を蝕んでいた”怨気”の影響も消失しているようだ。判断能力が正常に戻っている。


 しかしそれゆえに、彼女は心が押し潰されそうになっている。ほとんど正気を失っていた状態だったとはいえ、彼女がこれまで犯してしまった、彼女を信頼する者たちを裏切ってしまった行為の数々に。


 そんな母を見て、ラティカは優しく語り掛けた。


『お母さん……。お母さんはどうしてそんなことをしたの? あ、責めてるわけじゃないよ……。ただ聞きたいだけ……』


『私は……ただあなたを守りたかっただけなの、ラティカ……。あなたが空腹で倒れてしまったら……あなたがまた人間に(さら)われてしまったら……そう思ったら怖くなってしまって……居ても立っても居られなくなって……』


『お母さん……私が言うのもなんだけど、それでよかったんじゃないかな』


『それで、良かった……?』


『それだけ、私のことを愛してくれたってことでしょ? それはきっと『お母さん』としては正解なんだと思うの。やってしまったことは皆に謝らないとだけど……でもそれはお母さん本来の意思でやっちゃったわけじゃない。ちゃんと謝れば、きっとみんな分かってくれると思うから……』


『ラティカ……』


『だからお母さん、いつまでもそんなに落ち込まないで。私、そんな顔したお母さん見たくない……』


『そうね……分かったわ。どのみち、いつまでも落ち込んでいたんじゃ始まらない。酷いことをしてしまった分、迷惑をかけてしまった分は働いて返さなきゃね。さっそく日下部さんたちを追いかけましょう、ラティカ』


『お母さん……! うん、分かった!』


 ネプチューンは娘の説得のおかげで立ち直ることができたようだ。ポメも二頭の近くで、祝福するかのように尻尾を嬉しそうに振っている。


『あなたの能力だけではジ・アビスがいる最深部には行けないけれど、向こうにいるエヴァちゃんの能力の領域まで到達できれば、あとはどうにかなるはず。それでも深海の環境に耐えきれず、あなたを危険な目に遭わせてしまうかもだけど……』


『私はもう逃げないよ。行こう、お母さん。私たちの力はジ・アビスと比べたらちっぽけかもしれないけれど、ちっぽけでも集まれば大きな力になる。きっと何かの役に立てるはず……!』


『そうね、あなたの言う通りだわ。私もあなたを信じる。もうあなた可愛さに自分を見失ったりはしない。行きましょうラティカ』


『うん……! ポメもね……!』


「ワン!」


 掛け合いを交わし、二頭の一匹はこの海の最深部を目指し始める。


 ……と、その前に。

 彼女らは頭上に気配を感じ、上を見上げた。


『待って。上から何かが来てる……?』


「あ、お母さん……! あれって……!』



◆     ◆     ◆



 そしてこちらは深海八千メートル地点。日向たちの様子。


 ジ・アビスに眠らされていた北園を起こすべく、彼女を抱きしめた日向。どうか彼女が目を覚ましますようにと祈って、優しく、それでいて力強く。


 すると、これまでただ日向に抱き寄せられるがままだった北園が両腕を動かし、日向を抱きしめ返した。


「あ……北園さん?」


 日向が北園に呼び掛ける。

 北園はまだ目を閉じているが、もう起きているのは明らかだ。

 今は日向の温もりを堪能するかのように、自ら彼に身を寄せている。


「えへへー……日向くん、あったかい。そうなんだよね、昔はお父さんとお母さんに抱きしめられて、それから十年以上経って、次に抱きしめてくれたのが日向くんだったんだよね。あの時、病院でお話して、日向くんに抱きしめられた時の温かさ、まだ憶えてる」


「北園さん……」


「日向くん。私ね、とても良い夢を見てたの。その夢を諦めてまでこっちに戻ったんだから、その夢以上に現実(こっち)で幸せにしてくれないと許さないんだからねー」


「ああああなんだその台詞かわいい絶対幸せにします」


「ふふ。約束だよ?」


 深海の静寂の中、抱きしめ合う二人。

 完全に二人だけの空間。二人だけの世界。二人だけの宇宙がそこにあった。


 ……と、ここで、さすがに見ていられなくなったエヴァが咳払い。


「こ、こほんこほん。二人とも、(つがい)(いとな)みはそこまでにしてですね、今は戦いに集中を」


(つがい)(いとな)みって言うなし。いや一字一句違わずその通りなんだろうけど流石に恥ずい」


「と、とにかく、お待たせしちゃったぶん頑張らないとね! さっそく”雷光一条(サンダーステラ)”っ!!」


 そう言って、北園がジ・アビスに向かって極太の電撃のビームを発射。水の抵抗などものともせずに、青い電撃の光線がまっすぐジ・アビスへと飛んで行く。


 日影たち三人に催眠音波攻撃を浴びせていたジ・アビスは、北園の”雷光一条(サンダーステラ)”が迫ってくるのに遅れた。ビームはそのままジ・アビスの額に直撃する。


「aaaaa...!?」


「やった、当たった! ……けど、さすがにジ・アビスが大きすぎて、大したダメージが入ったようには見えないね」


「でもジ・アビスも悲鳴を上げた。全く効いていないワケじゃないはずだ。このままダメージを蓄積させて、少しずつ動きを鈍らせていこう。そしてトドメに俺が”星殺閃光(バスタードノヴァ)”で……」


 ……と、日向が話していた、その時。

 日向は不意に、頭上を見上げた。


「日向くん、どうしたの? 急に上を見て……」


 北園もつられて上を見る。

 二人の近くにいたエヴァも上を見た。


 この三人だけではない。日影たち三人も、さらにはジ・アビスまでもが上を見ていた。彼らの頭上から、何かがやって来る。


「なんだあれ……光の群れ……?」


 日向がつぶやく。

 (きら)めく無数の光が、日向たちがいる深海に降り注いできていた。

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