第110話 白い翼を地に堕とせ
フォゴールは本堂を掴み、森の上を飛んでいる。
本堂を握り潰さんとする勢いで鷲掴みにしている。
身体がミシミシと軋む本堂だが、それでも彼は冷静さを失わない。
「ホーゥ!!」
「ぐ……こいつ、俺を捕まえて随分と上機嫌だな。だが、良かったのか俺で? ……おおおお!!」
そう言うと本堂は、全身から電撃を放ち始めた。
当然、足で本堂を掴んでいるフォゴールにもビリビリと電撃が流れる。
「ピィィィィ!?」
突然の電撃に度肝を抜かれ、本堂を放り捨てようとするフォゴール。
しかし……。
「おい待て」
今度は、逆に本堂がフォゴールの足にしがみついた。
しがみつきながら電撃を流し続ける。
「お前、自分から俺をお持ち帰りしておいて、いきなり捨てようとするとは何事だ。俺とは遊びだったのか」
「ピィィィィ!?(ちょっと何言ってるか分からないです)」
突拍子も無いいちゃもんをつけられながら電撃を流され、困惑とも悲鳴ともつかない叫び声を上げるフォゴール。
やがて翼は浮力を失い、フォゴールは本堂ともども地面に落下した。
「っと……!」
本堂は地面に叩きつけられる前に、フォゴールから飛び降りて受け身を取る。下は柔らかい腐葉土であるため、飛び降りてもダメージは少ない。
日向の狙いは、まさにこれだった。
本堂は放電能力を持っているため、鷲掴みにされてもフォゴールに反撃できる。そして、素の身体能力もシャオランに次ぐ高さだ。運動神経で言えば日影よりも間違いなく上だろう。だからフォゴールに振り落されそうになっても、自力で耐えると日向は予測していた。
やがてフォゴールのみがズシンと地面に落下し、そこへ日向たちが一気に突撃する。
「ほら来た! 本堂さんに続けぇーっ!!」
「グラちゃんのカタキーっ!!」
「野郎、さっきの仕返しだ!!」
「当たって砕けろぉー!!」
倒れたフォゴールに群がり、猛攻撃を仕掛ける四人。
日向と日影が燃え盛る『太陽の牙』で斬りかかる。
北園が至近距離から電撃を浴びせる。
シャオランがフォゴールの胸に飛び乗り、その上で何度も震脚を踏んだ。
「ピィィィィ!?」
これにはフォゴールもたまらない。
必死の抵抗で日向たちを振り払い、再び上空へと飛んだ。
「あ、くそ! 逃がした……!」
「もう一度下りてきたところを狙うぞ! 北園と本堂は電撃で撃ち落とせ!」
「りょーかいだよ、日影くん!」
「分かった。だが北園と比べて威力は期待するなよ」
日影が指示を飛ばし、北園と本堂がフォゴールに向かって電撃を放ち始める。
北園は両腕から稲妻を放出する。
本堂は『指電』を連射する。
しかし、今度のフォゴールはとにかく地上に下りてこなかった。
二人の電撃を避けながら、真っ白な空を飛び回る。
真っ白な羽を利用して霧に紛れるのも、二人の命中率の低下に拍車をかけていた。
「ちっ……! 全然当たらん……!」
「ちょっと、疲れてきたかも……」
逃げに徹するフォゴールに、二人は疲弊していた。
その時、シャオランが霧の向こうを指差し、叫ぶ。
「うわああああああ!? マンハンターがきたあああああ!?」
「なにぃ!? このタイミングでか!?」
「しかもめっちゃ多いよおおおおおお!? もうダメだああああああ!!」
「ええい落ち着け!」
日影がシャオランを大人しくさせる。
皆が霧の向こうを見ると、確かに大きなイタチのような影が見える。
そしてシャオランの言うとおり、かなり数が多い。二十頭はいるのではないだろうか。
「シャーッ!!」
「ホーゥ!!」
「まさかフォゴールのヤツ、マンハンターの増援が来るまで時間稼ぎしてたのか……!?」
マンハンターたちの群れが一斉に襲い掛かってくる。
そんな中、日向が北園に声をかける。
「ここで火炎放射なんか使ったら大火事になる……。やむを得ない、電撃能力だ、北園さん! 殲滅力は落ちるけど仕方ない!」
「りょーかいだよ!」
言われて北園は両手から電撃を放ち、マンハンターたちに浴びせる。
数体のマンハンターが電撃を喰らい、痙攣して動かなくなる。
撃ち漏らしたマンハンターは、日向と本堂とシャオランが仕留める。
「ホーゥ!!」
そのさなか、フォゴールが五人の背後から突撃してくる。
巨体を活かして体当たりを仕掛けてくる気だ。
「させるか……!」
突撃してくるフォゴール目掛けて、日影が『太陽の牙』を投げつける。
しかし、フォゴールは再び上空へ飛び上がり、それを躱した。
「クソが! ちょこまかしやがって!!」
日影は『太陽の牙』を呼び戻し、再び構える。
フォゴールは、まるで五人の隙をじっくりと窺うように空中に留まっている。
「このッ! この野郎ッ! 喰らいやがれ!」
フォゴールに向かって『太陽の牙』を投げつけ続ける日影。
それをフォゴールはヒョイヒョイと避ける。
闇雲に投げても当たらないのは日影も重々承知だ。しかしこうでもしないと、少しでも隙を見せたら、このマモノは即座に不意打ちを仕掛けてくるだろう。誰かが足止めする必要がある。
(クソ……! せめてもう一つ人手が欲しい。誰かがヤツに攻撃を仕掛け、その攻撃に気を取られたところに『太陽の牙』を投げつけることができれば……)
だが他の四人はマンハンターの処理で手一杯だ。
北園の火力は、このマンハンターの群れを蹴散らすうえで欠かせない。
日向もダメだ。重い『太陽の牙』を投げつけるには筋力が足りない。
シャオランは論外だ。遠距離攻撃の手段が無い。
本堂の『指電』は、フォゴール相手には火力不足の可能性がある。耐久力にモノを言わせて突っ込まれたら後が無くなる。
仲間たちの手は借りれない。
日影がそう思ったその時。
「日影っ!!」
日向の声がした。
日向が、剣でマンハンターたちを牽制しながら、左手で何かをフォゴールに向けて射出した。
それは赤い光を放ち、煙の軌跡を描きながら、フォゴール目掛けて飛んでいった。
「ホゥ!?」
フォゴールは驚いてそれを避ける。
……だが、それに本来、殺傷力は無い。
日向が飛ばしたのは、森に入る前に支給された信号弾だ。
だが信号弾が何なのか知らないフォゴールは、危険な攻撃と判断してそれを避けた。瞬間、日影から注意が逸れ、隙が生まれる。
「よくやった!!」
日影がフォゴールに『太陽の牙』を投げつける。
剣は、深々とフォゴールの胸に刺さった。
「ピィィィィ!?」
空中でバランスを崩しそうになるが、それでもフォゴールは体勢を立て直し、最後の力を振り絞って逃亡を図る。
しかし、地面から伸びた無数の木の根がフォゴールを捕えてしまった。
「ピィィィィ!? ピィィィィ!!」
「キィィィィ!!」
グラスホーンの植物操作だ。
グラスホーンが、身体を震わせながらも能力を発揮している。
死力を尽くして、日向たちを援護してくれている。
フォゴールが、木の根によって空中から引きずり降ろされる。
そこへ日影が猛スピードで駆け寄り……。
「もらったぁッ!!」
「ピィィィィ…………ッ!!」
胸に突き刺さった『太陽の牙』の柄頭に強烈な前蹴りを入れた。
刃はさらにフォゴールの胸に食い込み、ついに彼の息の根を止めた。