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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1208話 逃れられない夢

 日向、北園はもちろんのこと、残りの四人もジ・アビスによってそれぞれ夢を見せられていた。


 本堂は自宅にいた。

 そこにはいつものように、リビングで妹の舞がソファーに座っている。


「あ、お兄ちゃん。おかえりー」


「舞? これはどうなっている? 俺は確か、ジ・アビスを倒すために海底に……。それにお前は、レッドラムに襲われて命を落としたはず……。それに俺はマモノになっていたはずなのに、人間の姿に戻っている……?」


 珍しく驚いた表情を(あら)わにしている本堂。

 そんな兄に、舞は微笑みながら返事をする。


「うん。お兄ちゃんはジ・アビスのもとにたどり着いたよ。そして、ここにやって来たの。ジ・アビスは言ってたよね? お兄ちゃんの戦いにささやかな意味を……最後の目的地を与えてあげるって」


「ああ、言ってたな……」


「それがここだよ。頑張って戦い続けたお兄ちゃんは、マモノから人間に戻って、妹も生きている平和な世界にたどり着いたのでした。めでたしめでたし!」


 妹の話を黙って聞いていた本堂は、突如としてその妹に背を向けて、この部屋を出ていこうとする。


「ちょっ、お兄ちゃんどこ行くの?」


「元の世界に戻らなければならない。俺が今いるべき場所はここではない」


「もー、お兄ちゃんって普段はふざけてるのに、こういう時に限って真面目だよね」


「お前は死んでしまったんだ。俺はこんな世界に(ひた)っている場合ではない。大事なのは今の仲間達だ」


「えー、可愛い妹より日下部さんとか北園先輩とか取るのー? なんだかヤキモチ焼いちゃうなー。でもそれじゃあ、私じゃなくて、お母さんならどうかな?」


「何……?」


 妹の言葉を聞いて、思わず振り返る本堂。


 すると、リビングの奥から本堂の母親が姿を現した。本堂が中学生のころに病で亡くしてしまい、今ではもう思い出の中の人となってしまった、本堂が最も敬愛している女性だ。


「仁……久しぶり」


「……母さん」


「立派になったわね仁。とても大きくなったわ」


「ん……」


 普段は大人びた雰囲気の本堂が、この母親の前ではただの口数の少ない子供のようである。あるいは本堂自身、母親と話すのは久しぶり過ぎて、どう反応して良いか分かっていないような。


「ねぇ仁。もういいでしょう? あなたは頑張ったわ。その頑張った証が、この世界。あなたの夢を叶えてあげられる世界よ。受け取る資格は十分に有るはず。誰もあなたを責めたりしないわ」


「お兄ちゃんは日下部さんたちの中で一番大人だからって、頑張り過ぎなのよ。たまには自分に素直にならなきゃ」


「仁、今まで寂しい思いをさせてしまってごめんなさい。もうあなたを置いていかないわ。これからは家族みんなで、幸せに生きていきましょう。もうすぐお父さんも仕事から帰ってくるはずよ。みんなであなたの大学合格のお祝いパーティーをしましょう?」


 母と妹が、現実に帰ろうとする本堂を引き留める。帰らなければならないという理性と、ここにいたいという願望が、本堂の中で激しい綱引きを繰り広げている。


 本堂が現実世界で頑張っても、もう人間に戻ることもない。失った家族も、平和な日常も帰ってはこない。しかし、ここには全てがある。


「ここに、()て良いのだろうか……」


 強靭な精神力を持つ本堂も、今回ばかりは心が揺らいでしまっていた。




◆     ◆     ◆



 一方、こちらはシャオランの様子。


 シャオランは、なにやら見慣れぬパーティー会場のような空間にいた。そしてそこではシャオランの両親や、日向や北園、本堂に日影にエヴァ、それから師匠のミオン、同じ武功寺の門下生たち、十字高校の友人たち、アメリカのARMOUREDの面々、ロシアのオリガとズィークフリド姉弟まで、シャオランの知り合いが勢ぞろいしていた。


 そのパーティー会場にて、シャオランは主賓と思われる、中央の最も立派な椅子に座っていた。


「あ、あのぉ、これはいったい、何の集まり?」


 シャオランが、近くにいたミオンに恐る恐る声をかけてみる。

 ミオンはいつものように、にこやかにシャオランに返事をした。


「これはね、頑張って修行を続けて強くなったシャオランくんを称えるためのパーティーよ~」


「ぼ、ボクのための!? いいの、こんなに立派そうなパーティー!?」


「もちろんよ~。今日は修行や戦いのことなんか忘れて、めいっぱい楽しんでいってね~!」


 ミオンのその言葉と共に、さっそくシャオランの前にごちそうが運ばれてきた。炒飯、回鍋肉、北京ダック、棒棒鶏、火鍋、そしてシャオランの大好きな肉まん。中華料理がよりどりみどりである。


「うわぁー! これ全部食べていいの!?」


「いいのよ~! さ、遠慮なく食べちゃって!」


「よ、よぉし、それじゃあいただきます!」


 さっそくシャオランは、目についた料理から手当たり次第に食べていく。パーティーに参加していた他の人間たちも一緒に料理を食べているが、全員で食べても一生減らないのではないかと思うほどの量である。


「ふぅぅ、けっこう食べたけど、まだまだ料理あるね。ボクもうお腹いっぱい」


 満足そうにお腹をさするシャオラン。

 そんな彼に、ARMOUREDのジャックが声をかけてきた。


「おうシャオラン、それじゃあ腹ごなしにちょっと運動しねーか? ちょいと俺とひと試合してくれよ。オマエがどれくらい強くなったのか見てみてーんだ」


「うぇぇ、戦うのぉ? せっかくのパーティーで痛い思いはしたくないんだけどなぁ」


「キタゾノもいるから、ケガしても治してもらえるって。ほれ、やるぜ! そっちがやらなくてもこっちからやるぜ!」


「もぉぉ強引だなぁぁ!」


 仕方ないのでジャックと手合わせをすることになったシャオラン。他の人間たちは二人から離れ、円状に並んで二人の試合を見守る。


 しかし、わりとあっさりとシャオランが勝ってしまった。


「ぐぇぇ、強えーぜシャオラン……俺の完敗だ……」


「あ、あれ? 勝っちゃった。ジャックってこんなに弱かったっけ? いやそんなはずないよね。ヒカゲとも互角以上に戦ったんだし」


「ああ、俺は決して弱くねー。オマエが強すぎるんだよ」


「そ、そうかなぁ、へへ」


 ジャックに褒められて上機嫌になるシャオラン。

 すると、今度はまた別の者たちがシャオランに手合わせを申し出てきた。


「シャオラン、オレともやり合ってもらうぜ。ウチの六人の中で誰が一番強ぇかハッキリさせておきたかったんだよ」


「シャオランよ、私とも手合せしてもらおうか。沖縄でお前に負けたリベンジをさせてもらう」


「じゃあ私とも戦ってもらおうかしら。あなたとは一度、ロシアのクーデターの時に少しやり合ったわよね。あの時は私が洗脳勝ちしたけれど、今回は正々堂々素手で決着つけてあげるわ」


「…………。」(そっと手を挙げて参戦を表明するズィークフリド)


「ヒカゲにマードック、オリガにズィークまで……。強敵揃いだけど、今のボクならやれる気がする! よーし、まとめてかかってこーい!」


 そしてその予感通り、シャオランはこの四人相手に圧勝した。


「つ、強ぇ……。お前がナンバーワンだぜ、シャオラン……」


「ぬぅ、やはり強いな……リベンジならずか」


「悔しいけど、私の負けね……。やはりあなたには洗脳無しでは勝てないみたい」


「…………。」(両手を挙げて降参の意を表明するズィークフリド)


「か、勝っちゃった……ズィークにまで……。ボクこんなに強くなってたんだなぁ」


 目の前の事実が事実とは思えず、これは夢なのではないかと冗談半分に思うシャオラン。


 実際、これは夢である。ジ・アビスが超能力によって見せている幻だ。だがしかし、シャオランはそれに気づかず、この夢にどっぷりと()まってしまっていた。このままではシャオランは目を覚まさない。


 そんなシャオランにトドメを刺すかのような展開が訪れた。


「それじゃあ本日のメインイベントよ~。ここまで頑張ってきたシャオランくんのために、この子が特別なメッセージを用意してくれたわよ~!」


 そのミオンの紹介と共に姿を現したのは、リンファだった。

『星殺し』ドゥームズデイに消し飛ばされたはずのリンファがここにいる。


「あ、リンファ……!」


「シャオシャオ……」


 久しぶりにリンファに会えたからか、シャオランも嬉しそうな様子である。特別なメッセージがあるとのことなので、シャオランは姿勢を正し、まっすぐリンファへと向き直る。


 リンファは少し深呼吸した後、メッセージを伝えるべく、シャオランに向かって口を開いた。

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