第1196話 海の女王との再戦
錯乱してしまったネプチューンと戦うことになった日向たち。命までは取らないよう、彼女を制圧しなければならない。
エヴァと子クジラのラティカは、日向たち全員を深海に適応させる能力を行使し、維持に集中。彼女たちのおかげで日向たちはこの深海五千メートルという極限状況下でも普段通りのコンディションを保って戦える。
本堂が日向に声をかける。
「確か、お前と北園はネプチューンと交戦したことがあるのだったな。奴の能力は何だ?」
「ネプチューンは”嵐”と”水害”の二重牙です! 主に風と水流を操ることを得意としています!」
「心得た。水流はともかく、この深海で風の能力というのは些か腐りそうではあるが、油断せずに行くとしよう」
まずは本堂が電撃を発射。
攻撃の効き目を見てみる。
放たれた電撃はネプチューンの顔に命中。稲妻が迸る爆発を巻き起こす。これを受けたネプチューンは顔を背けて怯んだものの、まだまだ健在だ。
「効きはしたが、これは相当な体力だな」
「ウオォォォォォン……!!!」
ネプチューンは本堂に狙いを定め、口の前に異能で水を集中させる。そして大きな鳴き声と共に水流を発射した。白く泡立つ巨大な水流がジェット噴射のごとき勢いで射出される。
もちろん、こんな分かりやすい攻撃をみすみす受ける本堂ではない。すぐさま右に動いて水流を回避する。ただし、巨大なネプチューンが放つだけあって水流の規模もまた巨大。本堂はかなり大きく右に動いた。
「普段より気持ち大きめに回避行動を取らねば、思わぬ攻撃に巻き込まれかねんな」
威力偵察を終えたところで、本格的に攻撃を仕掛け始める日向たち。北園と本堂とポメが電撃を発射し、シャオランが”地震”の振動エネルギーを乗せた拳で殴りかかる。
それらの攻撃の全てが命中。容赦なくネプチューンの身体に叩きつけられる。並のマモノであればすでに木っ端微塵になってもおかしくない攻撃の数々。
しかしネプチューンはこれらの攻撃を意に介さず動く。前に向かって身を翻し、大きな尾ひれを上から振り下ろすようにしてシャオランを攻撃する。
「ウオォォォン!!」
「や、やばっ、地上と同じ感覚で攻めていたから、もう回避が間に合わない! 仕方ない、”瞬塊”ッ!!」
シャオランは気をよりいっそう強く練り、全身の筋肉を硬化させてネプチューンの攻撃に備える。
ネプチューンが振り下ろした尾ひれが、シャオランに叩きつけられた。ダンプカーでも衝突したかのような凄まじい衝撃がシャオランを襲う。
「うっぐぅぅぅ!?」
シャオランは下方向へ大きく吹っ飛ばされた。水の中は抵抗がかかるので強烈な衝撃を受けて吹っ飛ばされてもすぐにブレーキがかかるというのに、それでもなお相当な距離を飛ばされた。
そして、下方向に吹っ飛ばされたということは、浮上ができない。ネプチューンが下へ降りてきてくれない限り、シャオランはここからではネプチューンに手出しができない。
「くぅ……迂闊だったぁ……。風の練気法の”衝波”は、この水の中じゃ使えないも同然だし……」
悔しそうにネプチューンを見上げるシャオラン。
そのネプチューンはというと、すでにシャオランをターゲットから外し、目の前にいる日向たちと交戦している。
日向と日影がネプチューンの両サイドからそれぞれ攻撃を仕掛ける。『太陽の牙』の炎はマモノの中の『星の力』に燃え移り、内側からマモノを殺してしまう性質がある。エヴァの保護者であるゼムリアもそれが原因で余命幾ばくかの身になってしまった。なので日向と日影は炎を使わずにネプチューンに斬りかかる。
「りゃあっ!!」
「おるぁッ!!」
二人の斬撃は命中し、ネプチューンにつけられた傷口から血が噴出。深海の海水を赤く濁らせる。
しかしネプチューンはこの攻撃にも耐えて、頭を思いっきり振るい、まだ近くにいた日向と日影の二人を頭突きで吹っ飛ばした。
「ぐふぅ!? さ、避けきれなかった……」
「分かっちゃいたが、本当に地上とは勝手が違いすぎるぜ……避けれるタイミングだと思ったんだがな……」
さらにネプチューンは、その場でとぐろを巻くように身体を丸めた後、尾ひれを右から左へ薙ぎ払う。すると大きな波が発生し、日向たちを巻き込んで押し流す。
「わわっ!? なんか、水の壁が押し寄せて吹っ飛ばされちゃったみたいだった……!」
「今の距離からでも波が届くのか。異能による攻撃だったか……?」
尾ひれの波で日向たちを怯ませると、今度は口から水流を撃ち出す。先ほどの尾ひれの薙ぎ払いからつなげるような動きで、右から左に向かって大きく薙ぎ払うように。
上には逃げられない。
右からは水流が迫ってきているし、左は逃げ切れずに巻き込まれる。
「じゃあ、もう下しかないか……!」
日向たちは下方向へと泳ぎ、迫りくる水流の下をくぐるようにして回避した。日向たちも下に移動したことで、先ほど吹っ飛ばされたシャオランと合流する。
「あ、みんなも来た」
「シャオラン、さっきは大丈夫だった? 強烈なのを喰らってたけど……」
「うん、なんとか。けっこうなダメージだったけど、まだなんとか戦えるよ」
「分かった。とはいえ、ネプチューンの隙を突いて北園さんから”治癒能力”を……」
……と、日向がシャオランに話している途中で、ネプチューンが動き出す。日向たちの目の前で、真下に向かって泳ぎ始める。そのまま日向たちよりもさらに深く潜っていってしまった。深海の闇で姿が見えなくなってしまうほどに。
「ネプチューンの奴、真下に潜って何をしに行ったんだ? 浮上はできないから、俺たちが追わない限りここまでは来れないはずだけど……」
「遠くから水流で一方的に撃ち続けてくる……とかかな?」
「もしそうなら面倒だなぁ……。こっちから追いかけて距離を詰めよう」
日向の言葉に皆がうなずき、ネプチューンを追うために下へ泳ぎ始めようとする。
だがその時、暗がりの中に一つの陰。
ネプチューンが猛スピードで浮上しながら、日向たちに突撃してきた。
「ウオォォォォォォォン……!!!」
「なっ!? 馬鹿な、浮上してきた!?」
「回避は間に合わんか……。ならば電撃で迎え撃つ……!」
「ワオオーン!!」
本堂とポメが電撃を発射し、迫りくるネプチューンに反撃。
しかしネプチューンは泳ぎながらローリングを行ない、本堂とポメの電撃を受け流した。彼らの電撃はネプチューンの体表を少し焼いただけに終わってしまった。
ネプチューンは止まらず、そのまま突進で日向たちを蹴散らした。
「ウオォォォン!!!」
「うわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
「ぐぅ……!?」
「あぐっ!?」
「ぐあッ!?」
「キャンッ!?」
ネプチューンの巨体と重量で突撃されたら、それはもはや、ちょっとした石油タンカーにはね飛ばされるようなもの。さらにジ・アビスの上昇不可能力が吹っ飛ばされた日向たちを押し留め、彼らの身体の中からダメージを逃がさない。
手痛いダメージを受けてしまった日向たち。
しかし分からない。なぜネプチューンはこの海の中で浮上できたのか。




