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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1194話 倒錯

 ネプチューンは、一つの映像を見せられていた。

 日向たちを乗せて深海を泳ぎながら、その目は別の光景を見ていた。


 まず映し出されたのは、船で大量の魚を水揚げする人間の漁師たちの姿。


(御覧なさい。また人間たちがあなた方のの領域を荒らし、魚たちを連れ去っていきました)


『そうね』


(彼らは多くの命を消費する。あまりにも多くの命を)


『ええ。でも、彼らだって生きている。生きていくには他者を食らうことが必要。私たちだってそうしてる。そこにケチをつけるつもりはないわ。でも……』


(そう。彼らは、結果的に食らわない命も消費します。殺し、加工し、誰からも食べられなかった食品は、やがて廃棄される)


(あなたは、そんな人間の在り方を良しとせず、マモノとなった)


『ええ、そう、そうだったわ』


 次に映し出されたのは、捕鯨を行なう人間の漁師の姿。


(彼らはあなた方、水生哺乳類も消費する)


(あなたはマモノ。人間に害を成す存在。どれほどあなたがそこの人間たちと友好を結ぼうと、それを知らぬ他の人間がいつかあなたたち親子を殺すでしょう)


(そして人間たちは言うのです。『悪いマモノを倒したぞ』と)


『そうかも……しれない……わね……』


 最後に映し出されたのは、娘のラティカが人間たちにさらわれる光景。愛する娘を海から引き揚げ、水で満たしたコンテナに詰めて、トラックに乗せてどこかに連れ去ってしまう映像だった。


(あなたはまた、娘を失うことになるでしょう)


(今のままのあなたでは、また)


(思い出してください。人間はあなたたち親子に害しかもたらさない)


(マモノとなって手に入れたそのチカラで、あなたが住む海を、そしてあなたの娘を守るのです)


(犠牲にした仲間たちにも顔向けできませんよ)


『私は……私……は……』


 ネプチューンの視線が()らぐ。

 彼女のアイデンティティを(えぐ)り出すような言葉に、心が動揺している。


 しかしネプチューンはその眼差しに強さを戻し、返事をした。


『海は守る。娘も守る。だけど、あなたたちの指示には従わない。あなたたちは私を思い通りに動いてくれる駒にして、私に日向たちを襲わせたいのでしょう? そういうワケには……』


(いいのですか? そうこうしているうちにも、人間たちがあなたの娘を狙っていますよ)


『え……?』



◆     ◆     ◆



 水深五千メートル地点に突入した日向たち。


 彼らは幻聴に続いて、幻覚の症状まで現れていた。

 目の前の光景とは違う映像が、勝手に目の前で再生される。


「くそ、なまじ周囲が深海で真っ暗だから、まるで映画館のスクリーンみたいに幻覚が鮮明に見えてしまう。皆、大丈夫か?」


「う、うん……」


 北園が返事をしたが、その声にいつもの元気はない。何かにひどく動揺し、怯えているような様子である。他の仲間たちは日向の呼びかけに返事もせず、黙って何かに耐えているような様子であった。


 ここまで潜ってきて、日向は二つの情報について確信する。


 一つは、先ほどから日向たちを(むしば)んでいる幻聴や幻覚の症状はレッドラムではなく、ジ・アビスの能力だろうということ。


 最初に日向たちに幻聴の症状が現れた場所からかなりの距離を進んでいるが、一向にその症状が快復することはない。これがレッドラムの能力によるものなら、もう能力の効果範囲を脱していてもいい頃だろうに。もちろんエヴァの気配感知や、ネプチューンたちクジラ種ならではのソナー機能にも、レッドラムらしき気配は何も引っかからない。


 しかし、この能力がジ・アビスのものならば、ジ・アビスの外殻はこの海そのもの。この海のどこにいても日向たちに能力の影響を及ぼすことができると考えられる。


 そして二つ目の分かったこと。

 この幻聴と幻覚の症状は、深く潜っていくにつれてひどくなっている。


「対象にロクでもない幻覚や幻聴をもたらすといえば”怨気”が真っ先に思い付くけれど……。シャオラン、それからエヴァ、”怨気”対策のフィールドはバッチリなんだよな?」


「う、うん。そのはずだよ。しっかり展開してる」


「この能力は”怨気”とは違う、アーリアの民に由来する超能力なのかもしれません。それならば私たちの能力では防げませんから」


「そうか……。幻覚や幻聴を引き起こす能力といえば、たしか”精神倒錯(ハルシネーション)”とかいうのがあったっけ」


「シャオラン、気を強く持ってください。あなたの心の揺らぎは”空の気質”とやらにも連動して揺らぎを起こすようです。その揺らぎを隙として”怨気”が入り込んでくるかもしれません」


「う、うん、わかってる。頑張ってるよさっきから」


 ……と、その時だった。

 日向たちの行く先の暗闇から、三つの赤い影が姿を現す。


 現れたのはサメ型のレッドラム。

 赤黒い牙を光らせ、正面から突撃してきた。


「SHAAAAAAAKKK!!」


「敵か。皆、戦闘準備を」


「思いっきり戦えば、ちっとはこのうざってぇ幻覚と幻聴も(まぎ)らわすことができるかもな」


 本堂と日影の言葉を皮切りに、日向たちはネプチューンの背中から離れて迎撃に移ろうとする。


『人間たち……もう娘に手出しはさせない……!!』


 だがしかし、それよりも早くネプチューンが動いた。

 それも、背中の日向たちを振り落とさんばかりの勢いで。


「ウオォォォォォォン……!!!」


「うおおっと!? ど、どうしたネプチューン!?」


『お、お母さん、待って……!』


 日向たちは(あわ)ててネプチューンから離れる。大きく動いたネプチューンの尾ひれが日向たちに当たりそうになったが、ネプチューンは日向たちに見向きもしなければ謝りもしない。娘のラティカの制止の言葉にも耳を貸さない。


 そしてネプチューンは、正面からやって来た三体のサメ型のレッドラムをまとめて食い殺した。


「ウオォォォン!!」


「GYAAAA……!?」


「GOAAA……」


 ぐちゃ、ぐちゃ、とネプチューンがサメ型のレッドラムを咀嚼する音が聞こえる。ネプチューンのおかげでサメ型のレッドラムは倒せたが、そのグロテスクな音と、ネプチューンの突然すぎる行動に、日向たちは素直に勝利を喜べない。


「ね、ネプチューン、どうしたんだ? 幻聴と幻覚でストレスが溜まったか?」


 冗談交じりでネプチューンにそう尋ねてみる日向。

 日向の言葉を受けてか、ネプチューンはゆっくりと日向たちに振り返った。


 その時、皆がそろって戦慄した。ネプチューンの目が異様だ。焦点が合っておらず、そして日向たちでも分かるほどの、どす黒い殺意に満ち満ちている。


「ね、ネプチューン、どうした!? なんか様子が変だぞお前!?」


「日向! ラティカが『逃げて』と言っています!」


 エヴァがそう叫ぶと同時に。

 ネプチューンは、大口を開けて日向たちを食らいにかかった。


(娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守る娘を守るっ!!!)

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