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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1185話 深海へ

「悪ぃ、さすがにもう限界だ……」


「私も、もうスタミナ切れだよー……」


 そう言って日影は”オーバーヒート”を停止し、北園もバリアーを解除した。海中の快適な旅を提供してくれていた日影深海ジェット便はここで運休である。


 ここはまだ、目標到達地点であったジ・アビス本体の真上ではない。まだかなり距離がある地点だ。しかし、ここから泳いで直接向かうのも決して非現実的ではないと言える距離でもある。日影と北園の二人はかなり頑張ってくれたと言っていいだろう。


「日影くんと共同作業って、思い返してみるとなかなか無かったかも。なんだか新鮮だったね」


「お、おう。共同作業か。たしかに新鮮だったかもな……」


「北園さんは渡さないぞー」


「う、うるせぇ、そんな目で見てるわけじゃねぇよ」


 六人と一匹の下に広がるのは、深海へと続く青い奈落。

 落ちたら最後、二度と地上へ戻ることはできないのではないか。

 そう戦慄させるほどの深さを感じる。


 これから日向たち六人と一匹は、前進しつつ深海へと下降する。日向たち六人全員はおろか、全人類を見ても理解が及んでいない未知の世界への旅立ちである。


「これは……思いのほか緊張するな……。あの真っ暗闇の中に、今から俺たちは潜っていくわけか」


「この先からたしかにジ・アビス本体の感じます。まだ相当な距離が離れているのに、不気味なくらいにハッキリと……」


「つまり、行くしかないってわけか。何かの間違いで向こうから来てくれないかなー」


「さすがに無いでしょう」


「ですよねー」


「……いえ、待ってください、何か来ます……!」


 エヴァが声をあげた。

 暗い海の底から、赤い影がぼんやりと浮かび上がってくる。


「SHAAAAAAAKKK!!」


「サメ型のレッドラムだ!」


「数は四体か。皆、戦闘用意を」


「頭上を取られる前にさっさと撃ち落としてしまおう! 遠距離攻撃ができる人は撃って撃って撃ちまくれ!」


 日向の指示を受けて、北園と本堂、それからエヴァが電撃で攻撃を開始。いくつもの稲妻が枝分かれしてサメ型のレッドラムに襲い掛かる。


 サメ型のレッドラムは縦に横にと器用に泳ぎ、三人が発する電撃を()い潜っていく。先頭を泳ぐサメ型のレッドラムはバリアーを展開しており、電撃の直撃をものともせずに突き進んでくる。


 やがて先頭のサメ型が三人の電撃を突破し、肉薄。大きく顎を開いて噛みつき攻撃を仕掛けてくる。


「シャオラン頼んだ!」


「わ、わかった!」


 日向の声を受けて、シャオランがサメ型の前に立ちはだかる。サメ型を十分に引き付けてから、その大きく開いた下あごを蹴り上げた。


「やぁッ!!」


「GYA!?」


 強烈な衝撃を受けて、サメ型のレッドラムが大きく仰け反る。そしてガラ空きになった腹部めがけて、シャオランはトドメの正拳を叩き込んだ。


「はぁッ!!」


「GISYAAAAA……」


 サメ型の身体が内側から破裂したかのように爆散し、絶命。残った死骸は溶けて血になり、海水と混ざって消滅した。


 ところで、なぜシャオランの拳は水中でもこれほど高い威力が出せるのだろうか。


 水中では水の抵抗が働き、地上の生物のあらゆる動きが鈍るのはご存じの通り。シャオランの拳も同様に、普段の拳の速度は完全に殺され、非常にスローな正拳であった。


 また、シャオランの流派は八極拳であり、彼の普段の凄まじい拳の威力を引き出すには、震脚をはじめとした各種動作の連携が必要不可欠。しかし現在のシャオランは水の中にいるため、震脚は踏めず、姿勢も安定しない。


 それなのになぜ、シャオランの拳はサメ型のレッドラムを粉砕するほどの威力を叩き出したのか。


 答えは『星の力』。シャオランはエヴァから借り受けている『星の力』によって”地震(アースクエイク)”の能力を発現させている。この能力を利用してサメ型のレッドラムの身体にに超振動を叩き込み、内部から破壊したのである。自身の弱点を能力によってうまく補っていると言えるだろう。


 残ったサメ型のレッドラムたちも北園たちの電撃を突破してきたが、それぞれ日向が”点火(イグニッション)”の一振りで斬り捨て、本堂が右腕の刃で一刀両断し、最後の一体はまたシャオランが殴って破裂させた。


「みんなやっつけたかな? おつかれさまー」


「北園さんもお疲れ様。日影深海ジェット便の後で疲れてるだろうに、頑張ってくれてありがとう」


「えへへ~♪」


 日向に褒められて、北園は嬉しそうである。

 北園に声をかけた日向は、続いて日影に声をかける。


「お前は引き続きキリキリ働いてね」


「このまま海の底まで沈めてやろうかテメェ」


「むしろ沈めてくれ。目的地なんだ」


「ちッ、そう来たか」


 やり取りを終えて、六人と一匹は引き続きジ・アビス本体がいる深海を目指す。特に会話らしい会話はせずに、静かに闇の中へと潜っていく。


 深海へと続く暗がりは非常に見通しが悪く、先ほど戦ったサメ型のレッドラムも、日向たちにかなり近づいてくるまでまったく姿が見えなかった。ゆえに六人と一匹は警戒を強めている。その姿勢が彼らから会話を奪う。


 そんな中、ふと日向は考え事をしていた。


(あのサメ型のレッドラム、どうやってジ・アビスの海の中を浮上しているんだろう)


 日向たちがこの海の中で浮上しようとすると、上から押さえつけられるように、それでいて下から引っ張られるように、浮上を止められてしまう。しかし先ほどのサメ型のレッドラムたちは、何の支障もなく浮上してきて日向たちに襲い掛かった。


 自分たちと、あのサメ型のレッドラム。何か違いがあるのだろうかと日向は思う。その「違い」によってサメ型のレッドラムはジ・アビスの海の中でも浮上を可能とし、逆に日向たちは浮上を禁じられている。


 もしも日向たちが、このサメ型のレッドラムたちとの「違い」を埋めることができれば、あるいは日向たちもこのジ・アビスの海の中をもっと自由自在に泳げるようになるかもしれない。


(現状、その『違い』っていうのが何なのかは皆目見当がつかないけれど、頭の片隅に置いておいてもいいかもしれない。まぁ、ジ・アビス本体がこの海を細かくコントロールしていて、レッドラムだけ浮上を免除しているっていう可能性も十分に考えられるんだけど)


 やがて日向たちの周囲も暗闇に包まれる。

 一寸の光さえ届かない深海へとやって来たのだ。

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