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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1183話 ジ・アビスの仕組み

 リスボンの街のはずれにやって来た日向たち六人とポメラニアンのポメ。


 恐らくここは、水没する前まではリスボンの街の海岸だった場所だ。街と砂浜がちょうど分けられている。日向たちは柵を乗り越え、砂浜へと降りる。


 砂浜を越えたその先は、緩やかな下り坂だ。

 ここからがようやく本当の大西洋である。


「ジ・アビスもそろそろ何か仕掛けてくるかもね……」


「今までは水没した陸地だったけど、ここからは本物の海の領域だもんね。タイミング的にありえそうかも」


 シャオランと北園がそれぞれつぶやく。

 六人と一匹は深く注意しながら先へと進む。


「どんな攻撃を仕掛けてきてもおかしくないぞ。水の腕、(しお)の流れ、鼻や耳からの海水の侵入。パッと思い付くだけでも、これくらいの悪さはしてきそうだ」


 ……が、その日向の予想に反して、やはりジ・アビスは何も仕掛けてこない。六人と一匹はほとんど遊覧気分で海底を進んでいた。


「なんかもう、これじゃ海の中の方が安全じゃないか。あの水の腕に襲われないぶん」


「街で話を聞いたあの小魚さんも、ジ・アビスには特に何もされてなかったみたいだもんね。もしかしてジ・アビスって、海の中にいる生物には手出しできないのかな?」


「あの小魚が取るに足らない存在だから見逃されたという可能性もあるが……いよいよ分からなくなってきたな。何が理由でジ・アビスは海の中では攻撃を仕掛けてこないのか」


 ……と、日向と北園と本堂の話を聞いて、ここでエヴァが口を開いた。


「もしかしたら、本当に良乃の言う通りかもしれません。ジ・アビスは水中の生物にはほとんど手出しできない可能性があります」


「マジでか。何か根拠はあるのか、エヴァ?」


「ジ・アビスが保有する『星の力』の量です。今までにも言った通り、ジ・アビスが保有する『星の力』の量は、この星が本来持っている『星の力』の総量と比べて、およそ一割程度です。今の私が保有している『星の力』より少ない程度です」


「『星殺し』はその意外と少ない『星の力』を”怨気”で補強しているっていうのがお前の話だったな」


「はい。なので、一割の『星の力』だと、ジ・アビスの性能はこの程度なのかもしれません。大西洋を支配し、水面に水の腕を出現させて、地上を蹂躙する。海面では圧倒的な攻撃力を誇るものの、懐である海中に潜り込まれたら手出しができなくなる……」


「じゃあもしかして、俺たちってこのまま、ジ・アビスから何の妨害も受けることなく海底まで行ける?」


「現状、そうなりますね」


 そのエヴァの言葉に湧き立つ日向たち。個人によって大小あれど、みな喜んでいる様子を見せている。


「地上じゃあんなにさんざん邪魔してきたんだから、ここまで来たらこれくらいのサービスはあってもいいよねー」


「ワン! ワン!」


「まだエヴァの憶測の域を出ない話だが……現時点でも信憑性はそれなりにあるな。俺達がフランスで初めてジ・アビスの水に沈んだ時、奴は俺達が水中にいる間は何も手出しをしてこなかった。その後、日向が川から脱出しようとした時は、水の外に出た日向を水の腕で捕らえていた」


「大西洋に到着する前、ジ・アビスがボクたちを積極的に水の中に沈めようとしていたのは、その場所からジ・アビス本体まですごく距離があったから、たとえ水中じゃジ・アビスはボクたちに手出しできなくても、ボクたちじゃそこから本体を目指して水中を進んでも絶対に辿り着けないって自信があったからだろうね」


「逆に俺たちがこの大西洋に潜ったあの場所は、ジ・アビス本体から最も近い場所だったから、ジ・アビスが手出しできない海の中には絶対に入れたくなかったってわけか。俺たちを水中に適応させてくれるエヴァがいる以上、あの場所からこの海に入れば、ジ・アビスへの到達も現実的になる」


 ただ、と言って日向はエヴァに話を続ける。上に向かって泳ごうとして、浮上できずにその場に留まる動作をしながら。


「ただ……この海の『上昇不可能力』については、今も容赦なく機能してるよな。今のエヴァの話だと、一割程度の『星の力』じゃ海面にしか影響を及ぼせないって感じの話だったけど、それじゃあこの海の中にまで浸透している上昇不可能力は何なんだ?」


「これはさらに不確かな予想ですが、この上昇不可能力はアーリアの民の”怨気”に由来する能力なのかもしれません。シャオランの”空の練気法”や私の『星の力』の能力でも中和できない、彼らが最も力を入れている部分であるという可能性です」


「なるほどなぁ、そういう仕組みなのか」


「地上の生者を引きずり込む深淵の怨念ってワケか? 亡霊野郎どもにはお似合いの能力だな」


「お、日影ちょっとお洒落なこと言った」


「うっせぇそんなつもりで言ってんじゃねぇよぶっ飛ばすぞ」


「お前ホント口を開けば暴言しか言わないな」


 やり取りを交わしつつ、日向たちは海中を進む。それなりに深いところまでやって来て、空からの光もあまり届かなくなってきた。


 青く、少し薄暗い海の中。

 底には数多の海藻が生えており、その中に魚の姿も見える。


「ジ・アビスの能力で浮上できなくなっているから、海の中の魚たちも困ってるんじゃないかって思ってたけど、思いのほか平和そうに過ごしてるな。地上でエヴァが言っていた通り、けっこうな数の魚が生き残ってるぞ」


「魚の種類にもよるが、海藻や海草が主食の魚もいるからな。海底というのは魚たちにとって絶好の餌場だ。だからこそ、そこに張りつけにされても生存できるのだろう。もっとも、やはりそれなりの不自由を感じているようにも見える」


 ともあれ、この場に魚が多いということは、チャンスでもある。エヴァの能力によって進化させ、日向たちをジ・アビス本体のもとまで連れて行ってくれる魚が見つかるかもしれない。


 さっそくエヴァが魚たちに声をかける。


「あの……」


 ……しかし魚たちは、エヴァが声を発した瞬間に、一斉にどこかへ逃げてしまった。後に残るのは、ただ海底で揺らめく海藻のみ。


 このイジメのような反応を受けて、エヴァは傷ついたのだろう。水の中だというのに目が(うる)み始めている。そして近くにいた北園に泣きついた。


「私が何したっていうんですか」


「よしよしエヴァちゃん、かわいそうに……」


 北園もまた、泣きついてきたエヴァをなぐさめる。

 その一方で、日向は逃げ出した魚たちを見て頭をかいていた。


「まいったな。ここからジ・アビス本体まで、まだ相当な距離がある。俺たち人間の泳ぎのスピードじゃ、たとえエヴァが海流を操作して俺たちを運んでくれたとしても相当な時間がかかる」


 エヴァが発動中の能力”オトヒメの加護”は、彼女の意識が途切れると効果が解除される。敵の攻撃によってエヴァが気を(うしな)ったら駄目なのはもちろん、彼女が普通に睡眠をとるだけでもアウトだ。つまり日向たちは、今日はもう遅いからと言って途中で海中キャンプとしゃれこむわけにもいかないのだ。


 ゆえに日向は、魚たちの協力が得られず、進行速度に遅れが生じていることに少し(あせ)っている。


「ここにはまだたくさんの魚がいるみたいだ。こうなったら、ここで少し時間を使って、協力してくれる魚を探してみよう。なにせこの星の危機なんだ。勇気を振り絞ってくれる魚が一匹くらいいてもおかしくないはず」


 その日向の提案のもと、彼らはここで協力者を探すことにした。

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