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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1182話 何もしてこない

 襲い掛かってきたサメ型のレッドラムを全滅させた日向たち。慣れない水中での戦いだったが、ひとまずは文句なしの完全勝利を収めることができたと言っても良いだろう。


「こっから先の水中戦に向けての準備運動にはちょうど良かったな。レッドラムのクセにやられに来てくれるたぁ良い気遣いができるじゃねぇか」


 皮肉たっぷりにそうつぶやく日影。

 そんな日影に、北園が声をかける。


「そういえば、レッドラムってよく『シャー!』って鳴くけど、今回のサメ型たちは『シャーク!』だったよね。これもレッドラムなりの気遣いだったりするのかな?」


「いや……どうだろうな……」


 返答に困り、日影は曖昧に返事をした。


 一方で、本堂が何やら考え事をしているような様子だ。こういう時の本堂はいつも有益なことを考えている。日向は本堂が何を考えているのか確かめるため、彼に声をかけた。


「本堂さん。難しそうな顔をしてどうしたんですか?」


「日向か。今、俺は重大な事を考えていた」


「やっぱり大事なことを考えていたんですね。それはいったい?」


「あのサメ型のレッドラムをさばぬかの代用にできないかどうかを検討している」


「うわぁすごくどうでもいい。なーにが『こういう時の本堂さんはいつも有益なことを考えている』だ。益なんて何一つとして無いじゃん。無益じゃん」


「失敬な。俺は三日間さばぬか抜きにすると身体が爆裂して死ぬ重病に侵されている」


「仮にそうだとして、本気であのサメ型のレッドラム食べる気なんですか? 狭山さんの血液から作られたアレを?」


「検討の結果、論外だと判断した」


「賢明な判断かと。はぁーまったく何考えてるのかと思ったら、声かけて損した」


 そう言って日向は本堂のもとを離れようとする。

 しかし、その日向を本堂が呼び止めた。


「待て日向。考えていたのはそれだけではない」


「今度は何ですか。さばぬか型のレッドラムが存在するかどうか、とかだったらさすがに愛想尽きますよ」


「それも面白そうだが、そうではない。ジ・アビスについてだ。なぜジ・アビスは、今の戦闘で俺達に何の横やりも入れてこなかったのだろうか」


 それを聞いて、日向も共感したような表情を浮かべた。

 彼もまた、本堂と同じ違和感を抱いていたからだ。


 この大西洋はジ・アビスが支配している。それも、このポルトガル周辺の海域から、はるか遠くのフランスや北欧に至るまで。西の方への影響力がどれほどかは分からないが、もしかしたらアメリカまで一部の都市が海に沈められているかもしれない。


 ジ・アビスは今のこの大西洋の王者であり、支配者であり、大西洋そのものなのだ。この大西洋までの道中、日向たちは何度もジ・アビスが操る水の腕からの妨害を受けた。


 そして今の日向たちは、ジ・アビスそのものと言っても過言ではない大西洋に潜っている。ここはジ・アビスの手のひらの上も同然。つまり、ジ・アビスが日向たちに対してどんな攻撃を仕掛けてきてもおかしくないのである。


 だというのに、ジ・アビスは今に至るまで日向たちに何の攻撃も仕掛けてこない。先ほどに至っては、サメ型のレッドラムとの戦闘中という絶好のタイミングであったにもかかわらずである。


 ここから導き出される答えは一つ。


「ジ・アビスは、海中にいる俺たちに対して手出しできない理由がある……?」


「そう考えるのが妥当だが……しかし一体、何の理由があるというのだろうか。地上ではあれだけ散々、水の腕で俺達を攻撃してきたのだぞ。今になって俺達を攻撃できない理由など、そんなものが存在するのだろうか」


「そういえば、地上でのエヴァの話だと、この海の生物もまだけっこう生き残ってるって言ってましたよね。ジ・アビスが海中でも容赦なく攻撃できるなら、今ごろ大西洋のほぼ全ての生物が死滅していてもおかしくないのに。俺たちを攻撃できないのと何か関係があるんでしょうか?」


 話し合い、考えてみる二人だが、これといった答えは思い浮かばない。謎は深まるばかりで、二人そろって首を傾げた。


 ……と、その時だ。

 エヴァが日向に声をかけてきた。


「日向。日向」


「ん、どうしたエヴァ」


「今、改めて周囲の気配を精査してみたのですが、反応を一つ拾いました。とても小さな気配です。禍々(まがまが)しさも感じませんし、レッドラムではなさそうです」


「つまり、魚の生き残りかな。このジ・アビスが支配する海について、何か話が聞けそうだ。進化させて移動手段にまでなってくれたら万々歳だな」


「気配は下の街から感じます。私たちが沈むと浮上ができなくなるので、もう街の上を泳いで通過することはできなくなり、街の中を抜けるしかなくなりますが、それでも気配のもとへ向かいますか?」


「向かおう。貴重な情報源になるかもしれない。戦いに勝つために、情報っていうのはすごい大事な要素になってくるからな」


「分かりました。ではついて来てください」


 エヴァの案内のもと、日向たちはリスボンの街へと下降していく。そして到着したのは市場らしき場所だった。ここもまた、商品だったであろう雑貨も野菜も果物も、全てが水に沈んで駄目にされてしまっていた。


 そんな市場の一角、花や草木が植えられているスペースに、小さな魚が隠れるように泳いでいるのを見つけた。鮮やかな水色が特徴的な魚である。誰かが飼育していた観賞用の小魚だろうか。


 動物と会話できるエヴァが代表してその小魚と話すことに。

 小魚を刺激しないように、ゆっくりと小魚へ接近する。


「魚さん。お話を聞かせてください。この海は今ジ・アビスに支配されているのに、よく今まで無事でいられましたね。危険なことなどは無かったのですか?」


『なかった。でも海静か。上に泳げない。今の海おかしい』


「なるほど……」


『今の海怖い。ここもともと海じゃなかった。私に餌くれてた人間も死んだ。今の海怖い』


「分かりました、話を聞かせてくれてありがとうございます。最後に一つ、私たちに力を貸してくれませんか? 『星の力』を受け入れることで進化し、私たちを海底まで連れて行ってほしいのです。無理にとは言いませんが……」


『じゃあ、やだ。今の海怖い。私怖いところ行きたくない』


「分かりました、そういうことであれば仕方ありません。どうかこれからも気を付けて」


 エヴァは小魚との話を終えて、今の話を日向たちに伝えた。小魚が仲間になってくれなかったのは残念ではあるが、彼女の意思を尊重することにした。ちなみに先ほどの小魚は(めす)である。


 もう一度エヴァに周辺の気配を探ってもらったが、他に生き物の気配は存在しないようだ。もうこれ以上この街でやるべきことも無いので、日向たちはこの街の海岸……陸地と大西洋の本当の境界線へと向かった。

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