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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1181話 不公平

 引き続き、サメ型のレッドラムと戦う日向たち六人とポメ一匹。


 シャオランと相対しているサメ型のレッドラムは、シャオランの頭上をキープしながら距離を取っている。上に向かって泳ぐことができないジ・アビスの海の中では、こうされるだけでもシャオランは非常に手が出しにくくなる。


 そもそも、シャオランの主力技の多くは間合いが近接に(かたよ)っている。彼の戦闘能力を存分に引き出すには、敵との間合いを詰めなければならない。だというのに、その間合いを詰めることができないのだから困った話だ。


 ならば遠距離攻撃でサメ型のレッドラムを攻撃するしかないのだが、その攻撃方法も限られている。たとえば風の練気法の”衝波”は、水中では水によって押し留められてしまい、大した威力にはならないだろう。


 一番有用なのは火の練気法の”炎龍”か。ただ衝撃波を発するだけの”衝波”と違い、爆発的なオーラを一気に放出するあの技なら、この水中という環境をものともせずにサメ型のレッドラムを撃破できる。


「事ここに至ってようやく気付いたけど、ボクって水中だとかなり不利になっちゃうんだなぁ! あの技はけっこう消耗も大きいから、雑魚敵ポジションらしいこのサメ型一体だけを相手に、あまり使いたくはないんだけど……でも贅沢は言っていられないか……!」


「SHAAAAAAAKKK!!」


 サメ型のレッドラムが口を大きく開いて噛みつきにかかった。

 口の中に並ぶ赤黒い牙がぬらりと光る。


 そのサメ型の口内を狙って、シャオランは蒼白いオーラの奔流を撃ち出した。


「空の練気法”炎龍”ッ!!」


 ……しかし、サメ型のレッドラムは身を(ひるがえ)してシャオランの”炎龍”を回避。そして挑発するかのように再び遊泳を始める。


「まぁそりゃ避けられるよね! こんな分かりやすい攻撃なんかね!」


「SHAAAAAAAKKK!!」


 シャオランが手出しできないことを確認できたからか、ここでサメ型のレッドラムが攻勢に移る。口を大きく開き、そこから衝撃波を撃ち出してきた。どうやらシャオランの”衝波”と違い、水の中でも威力が減衰しない特殊な能力を持った衝撃波のようだ。水が揺らめくようにシャオランへ襲い掛かる。


「わっとっと……!」


 シャオランの側を通り抜けた水の揺らめきは、その先にある建物の屋根に着弾。ボゴンとくぐもった爆発音を発して、石造りの屋根が砕け散った。


 それからもサメ型のレッドラムは決してシャオランに近づかず、彼の頭上から衝撃波を発射し続ける。


「SHAAAKK!! SHAAAAKK!!」


「ああもう! 正々堂々と降りてきて戦えー!」


 抗議の声を上げるシャオランだが、サメ型のレッドラムはどこ吹く風。そのままシャオランへの衝撃波攻撃を続行する。


 ……と、その時だった。


「ワオーン!!」


 犬の雄たけびが聞こえた。それと同時に、サメ型のレッドラムの左から極太の雷のビームが飛んできた。雷のビームはそのままサメ型のレッドラムの横腹に直撃。


「GAAAAA……!?」


 強烈な電撃のビームに押し流されるようにして、サメ型のレッドラムは蒸発した。


 シャオランは、先ほどの電撃のビームが飛んできた方向を見る。

 そこにいたのは、やっぱりポメだった。


「ポメー! ありがとうー! おかげで胸がスッとしたよ! ざまぁみろ!」


「ワン! ワン!」


 シャオランはポメのもとまで泳いで行き、わしゃわしゃと撫でてやった。水中でもポメの毛並みは気持ちよかった。


 ポメの助けもあって、シャオランもどうにかサメ型のレッドラムを撃破。

 続いては日影の様子である。


 しかし、彼は何の心配もいらなかった。

 サメ型のレッドラムの噛みつきを、右に泳いで回避。

 その後すぐにサメ型との距離を詰めて、ガラ空きの横腹に炎拳を一発。


「”陽炎鉄槌(ソルスマッシャー)”ッ!!」


「GUGYAAAAAA!?」


 水中だろうとお構いなしに、派手な大爆炎が巻き起こる。

 サメ型のレッドラムは黒煙を上げながら、リスボンの街へと沈んでいった。


 日影も難なくサメ型のレッドラムに勝利。

 最後はエヴァの様子である。


 スクール水着姿で、いつもの杖を構えるエヴァ。呼吸、姿勢ともに安定している。水に対して怯えている様子は無い。水泳特訓の成果が出ているようだ。


 対するサメ型のレッドラムは、なにやら口の中の牙がチェーンソーのように動いている。上の牙は左から右へ、下の牙は右から左へ、高速で流れるように。


 あの牙で噛みつかれたら、それはもう悲惨なことになるだろう。

 たったの一回だって、このサメ型の牙をまともに受けるわけにはいかない。


 サメ型のレッドラムは、まず上に向かって泳いでエヴァの頭上を取る。そして一気に急降下するように、エヴァめがけて噛みつきにかかった。


「SHAAAAAAAKKK!!」


「ジ・アビスの水の中だろうと、あなたたちレッドラムは問題なく上へと泳げるのですね。ずるいです。不公平です」


 そう言ってエヴァは、杖の先端をサメ型のレッドラムへと向ける。

 次の瞬間、杖の先端から超広範囲にわたって電撃が放出された。


 あまりにも広範囲を覆い尽くす電撃に対して、サメ型のレッドラムは防御手段も回避手段も持ち合わせてはおらず、そのまま成す(すべ)なく感電死させられた。


「GYOAAAA……」


「私の頭上に他の仲間たちはいません。あなたたちだけ上に泳げるのはずるいですが、今回ばかりはむしろ助かりました。私の攻撃に仲間たちを巻き込む心配がない位置へ、あなたが勝手に移動してくれたのですから」


 水中だろうと、彼女の大火力は健在。

 すぐ側を沈んでいくサメ型のレッドラムに、エヴァはそう言い放った。


 ……だが、エヴァの側まで来た瞬間、サメ型のレッドラムがいきなり動き出し、再びエヴァに噛みつきにかかった。死んだふりだ。


「SHAAAAAAAKKK!!」


「だと思いました。”ティアマットの鳴動”!!」


 サメ型のレッドラムの不意打ちにも慌てることなく、エヴァは”地震”の震動エネルギーを集中させた杖で、サメ型の側頭部に叩きつけた。サメ型の頭部は木っ端微塵になり、今度こそピクリとも動かず沈んでいった。


 圧倒的な能力でサメ型のレッドラムを蹴散らした二人を、シャオランはポメをなでながら遠い目で見ていた。


「ボクは一体倒すのだってあんなに苦労したのに……不公平だよぉ……」


「ワン!」


 ともあれ、こうして日向たちは、大西洋海中での初戦を見事に勝利で飾った。

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