第1180話 血牙のサメ
水没したリスボンの街の上を泳いで横断していた日向たち六人と一匹。
その日向たちを狙って街から姿を現したのは、ぬめりのある赤一色の身体をしたサメの姿をしたレッドラムだ。名付けるなら「サメ型のレッドラム」以外に有り得ない見た目である。
サメ型のレッドラムは一体だけではない。全部で六体出現した。
六体の血のサメが日向たちをぐるりと取り囲む。
日影がサメ型のレッドラムを見て、何かに気づいたようだ。
「コイツら、『目付き』じゃねぇな。一応レッドラムの中では雑魚敵扱いらしい」
「B級映画とかなら主役兼ラスボスになってもおかしくないサメが雑魚扱いかぁ。じゃあ『目付き』はいったいどんな形をした怪物が出てくることやら……」
「ともかく、向こうは六体、こっちは六人、それなら一人で一体を相手すりゃ片付くだろ。ポメは適当に誰かに守ってもらえ」
日影がそう言い終えるのと同時に、六体のサメ型のレッドラムが襲い掛かってきた。向こうも一体で一人を始末する算段を立てていたのか、日向たち六人に対してそれぞれ一体ずつが襲い掛かる。
日向に向かってまっすぐ泳ぎながら突撃してくるサメ型のレッドラム。大きな口を開けながら日向に迫る。その口の中には、血が乾いて固形化したような赤黒い色をした牙がズラリと並んでいた。
「SHAAAAAAAKKK!!」
「やる気かこいつ、フカヒレにしてやる……!」
向かってくるサメ型のレッドラムに対して、日向は”点火”を使用。たとえ海の中だろうとお構いなしに灼熱の炎は『太陽の牙』を包み込む。蒸発した海水がブクブクと泡立つ。
サメ型のレッドラムが間合いに入ったタイミングで『太陽の牙』を振り下ろす。そう考えて日向は『太陽の牙』を構えた。
……しかし、ここでサメ型のレッドラムがその身に炎を纏う。そしていきなり急加速。その勢い、まるで射出された魚雷のごとし。
「SHAAAAAAAKKK!!」
「ひえっ!?」
いきなり加速してきたので驚いてしまう日向。しかもここは水中だ。とっさに回避行動を取ろうと思っても、地上と違ってすぐに動くのは難しい。
よって日向は、ほぼ反射的に『太陽の牙』を上から下へ振り下ろしていた。うまくサメ型のレッドラムに命中することを祈って。
日向の『太陽の牙』は、サメ型のレッドラムに直撃。鼻の先端から顎下にかけて真っ二つに焼き斬った。
「GYAAAAAA……」
「あっぶなぁぁ……! そうか、そういえばこいつらレッドラムなんだから、サメの姿をしてても異能力者なんだよな。完全に忘れてた……」
少し危うかったが、日向はどうにかサメ型を倒した。
続いてこちらは北園の様子。
北園は”電撃能力”の超能力を使った電撃のビームを次々と撃ち出し、サメ型のレッドラムを攻撃している。彼女の電撃のビームはこの水中であろうと速度も威力もまったく減衰しない。
「えい! えい! えーい!」
しかしサメ型のレッドラムは水中を舞うように、北園のビームを次々と回避。北園がビームを撃ち出すより早く回避行動に移っており、その動きは北園の心の中を見透かしているかのようである。
「もしかしたらこのレッドラム、”読心能力”の使い手なのかな。スピカさんと同じ能力だ……!」
「SHAAAAAAAKKK!!」
北園の攻撃を全て回避したサメ型のレッドラムは、大きく口を開いて北園に噛みつきにかかる。北園を丸ごと呑み込んでしまう勢いで。
それを見た北園は、何かを思いついたような表情。
「あ、チャンス! そう来るなら、この攻撃が使えるかも! ”凍結能力”!」
北園が両手を前に突き出した。
すると、彼女の目の前の水が広範囲にわたって、一瞬で凍り付いた。
サメ型のレッドラムも北園が凍らせた水に巻き込まれる形で凍結。そのまま水底の街へと沈んでいった。
北園は、こちらの心を読んでくるサメ型のレッドラムに対して、心を読んでもどうしようもないほどの大規模攻撃に巻き込むという形で撃破した。しかしサメ型が北園の心を読んでいたならば、この北園の作戦も事前に察知して避けることができたはずだ。そうならなかったのはなぜか。
北園は、サメ型のレッドラムが突撃してきて、自身の目の前まで迫った瞬間にこの作戦を思いついた。ゆえにサメ型は北園の心を読んでから回避行動に移る猶予がまったく無かったのである。
事前に緻密に、そして念入りに作戦を立ててから挑む日向などとは対照的に、その場その場の直感で戦うことが多い北園だからこその撃破法だったと言えるだろう。
北園も無事にサメ型のレッドラムを撃破できた。
続いては本堂の様子だが、こちらはすでに勝負が決まったようだ。
「GUAAAA……」
「”地の練気法”を使うサメだったか。中々に堅い身体だったが、しかしこの水中特化本堂の前には、異能を使うサメと言えども所詮は魚類」
本堂と対峙したサメ型のレッドラムは、身体を頭部側と尾ひれ側の二つに両断されて絶命していた。本堂が右腕の刃で真っ二つにしたのだ。
本堂も難なくサメ型のレッドラムを下し、次はシャオラン。
彼の武力なら、問題なくサメ型のレッドラムを倒せるだろう。
しかしシャオランは意外にも、少し手こずっている様子だった。現在のサメ型のレッドラムは、シャオランの真上に留まって様子を窺っている模様。
攻め立てるには絶好のチャンスであるのだが、シャオランもまたサメ型のレッドラムの出方を窺っているらしく、にらみ合いが続いている状態である。
……否。
シャオランは、サメ型のレッドラムに手出ししないのではない。手出しができないのである。
「ボクの攻撃は基本的に素手ばかりだ。でもアイツはボクの真上に留まったまま降りてこない。そしてジ・アビスの水の中じゃ、ボクは浮上することができない……。これじゃアイツを殴れないじゃないかぁぁ!」