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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1176話 散開

 海岸線に沿って横一列に並ぶジ・アビスの巨大な水の腕たち。そのうちの左右両端の水の腕が日向たちめがけて手のひらから水の塊を発射していた。日向たちに水の塊の雨を降らせるように、放物線を描いて。


 この左右両端の水の腕は、日向たちから大きく距離が開いている。そのため、あの恐ろしい水のレーザーを撃ち出しても、日向たちに命中する頃には貫通力が失われている。だから遠くからでも威力が減衰しない「水の塊を空から落とす」という攻撃を行なっているのだと思われる。


 殺傷力こそあまり高くないが、車一台くらいならまるっと包み込めるほどの量の水だ。それが空高くから降ってくる。直撃をもらえば転倒するだろうし、それなりに痛いだろう。


 そして水の塊が着弾した地点からは、小さな水の腕が湧き出てきていた。先ほどの日向のように足を取られたら、またタイムロスになる。


「これくらいの数ならすぐに片付くよ! ”発火能力(パイロキネシス)”!」


 北園が両手から炎を発生させ、それを叩きつけるように小さな水の腕たちに浴びせる。小さな水の腕たちは()れた跡も残さず蒸発した。


 しかし、それからすぐに第二、第三、第四の水の塊が降り注ぐ。着弾地点から再び小さな水の腕が湧いてきて、せっかく北園が確保したばかりの進路が通行止めとなる。


「もー! ひどい!」


 日向たちが足止めされている間に水の腕の群れも攻勢を強めてきた。列の端より少し内側の水の腕は貫通力が高い水のレーザーを放ち、日向たちの直線上に位置する水の腕は大地に手のひらを叩きつけ大波を起こす。まさしく波状攻撃だ。ここだけ大シケに見舞われているかのようにあちこちから水飛沫(みずしぶき)が飛び交う。


 大波は最初と同じようにエヴァが大地を隆起させて対応。降り注ぐ水の塊の雨は北園や本堂やシャオランが遠距離攻撃で撃ち落とす。しかし生半可な防御など易々(やすやす)と貫いてくる水のレーザーが厄介だ。日向たちと六匹の犬たちは今のところ気合いで回避し続けているが、それもいつまで上手くいくか分からない。


「敵の攻撃が激しすぎるうえに、ここから水の腕たちまで距離が大きく開いてるからこっちの攻撃もほとんど届かない! これじゃ攻撃してくる水の腕を潰せない!」


「多少潰したところで、どうせすぐに補充されるから大して意味はねぇんじゃねぇか!? こっちも攻めの姿勢を強めて無理やり突破すべきだと思うぜ!」


 たしかに日影の言う通りかもしれない、と日向は思う。水の腕の猛攻を凌ぐことができている今、急いで作戦の練り直しを図ることにした。


「ここはいったん、あの五匹のワンコたちみたいに、俺たちもそれぞれ分かれた方がいいかもしれない。俺以外の五人は機動力に優れてるから、思いっきり動きながら戦ってもらえば水の腕の狙いを散らすことができるはず。俺に合わせて固まってもらっているから、水の腕は俺を攻撃するだけで俺たち全員を攻撃できるってことになる。だから俺たち全員ここから先へ進めないんだ」


「で、でもヒュウガ! ボクたち五人が単独で行動したら、キミも単独になっちゃうよ!? 機動力もない! 敵の攻撃を撃ち落とす火力も……まぁなくはないけど火力調整がしにくい! そんなキミが水の腕の攻撃を突破して海までいける!?」


「さんざんな言われよう! でも機動力については考えがある!」


「じゃあ信じるよ!? あの左から八番目の水の腕がレーザーを撃ってくる! それに合わせて散開しよう!」


「うわ本当だ、左から八番目の腕が水のレーザーの予備動作に入ってる。これだけ水の腕が多いのに、よく見てるなぁシャオラ……」


 ……と日向がつぶやいている間に、左から八番目の水の腕が超圧縮した水のレーザーを人差し指から発射した。細い水流が矢のような速度で日向たちに迫る。


 しかし日向たちもすでに動いている。水のレーザーは先ほどまで日向たちがいた、無人の地面を撃ち抜いた。


 北園と日影はそれぞれの能力で空を飛び、本堂とシャオランもそれぞれの能力で高速移動を開始。エヴァもまた『星の力』によって自身の肉体性能を強化し、本堂とシャオランの地上組について行く。ちなみにポメは本堂が抱えて運んでいる。


 そして日向はというと、やはり出遅れている。”復讐火(リベンジェンス)”が使えれば彼も他の仲間たちに負けない機動力が発揮できるのだが、あの技は日向が負傷している時でなければ使えない。


「問題無し! ピレ、頼んだ!」


「ワオン!」


 日向が呼ぶ声に合わせて、前線で小さな水の腕を蹴散らしていたピレが日向のもとへダッシュ。やって来たピレの背中に、日向は素早く騎乗した。ピレの力を借りることで機動力を補うつもりなのだ。


 日向が背中に乗ると、ピレはすぐに走り出す。ピレは六匹の中でもスパと並んで大柄なため、その走力は風のように速くとはいかないが、日向を乗せてもまったく(おとろ)えない力強い走りは流石と言うべきだろう。


 さらに日向は、ピレの背中にしっかりとしがみつきながらエヴァに声をかけた。


「エヴァ! 幻影頼んだ!」


「分かりました! (あざむ)け……”ロキの謀略”!!」


 エヴァの詠唱によって現れたのは、ピレに乗った日向の幻影だ。それも十体以上。自然ならざる光の屈折によって作り出す霧の幻である。


 日向とピレの幻影の群れが一斉に四方八方へと散った。本物の日向とピレもこれに混ざり、どれが本物か分からなくすることでジ・アビスを攪乱(かくらん)する。


「まだまだ行きます!」


 エヴァがそう言って、今度は空中に飛行する北園の幻影を多数作り出した。北園の幻影はおしゃまな妖精のように華麗に宙を舞い、ジ・アビスの注意を引く。


 ジ・アビスから見れば、地上においても空中においても狙うべきターゲットが一気に増加した形だ。全員をまとめて始末しようとするので、水の腕の攻撃の精度も徐々に甘くなる。まさに日向の狙い通りとなった。


 勝負を仕掛けるならここしかない。

 日向たちは一気に大西洋へ接近するべく、前進した。

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