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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1174話 遠くに来た

 ジ・アビス討伐に向けて、日向たちは小休止中である。


 ちなみに日向たち六人は休憩している間に、海へ潜るために水着に着替えておいた。エヴァの水泳特訓の時にも着ていた水着である。


「この服装は、いまだに慣れませんね……」


 エヴァがそう言って恥ずかしそうにしている。

 普段のローブ姿とは比べ物にならない水着の露出を気にしているようだ。


 そんなエヴァを、北園が後ろから抱き上げる。

 エヴァはバタバタと暴れ出す。


「もースクール水着のエヴァちゃん、もちふわっとしててかわいいー!」


「やめてください良乃そういうのをセクハラと言うのだと習いましたよ不服を申し立てます」


「うう……エヴァちゃんがコンプライアンスを覚えちゃった……」


 その一方で、日向は前方に広がる海を見ていた。

 そんな日向に、本堂が声をかける。


「どうした日向。ジ・アビスが何か動きを見せたか」


「あ、本堂さん。いや、そうじゃないんです。なんというか、ちょっと考え事を。と言っても大した考え事じゃないんですけど」


「ふむ。差し支えなければ、内容を聞いてみてもいいだろうか」


「本当に、ちょっとした感想ですよ? 日本から始まって、中国、ロシア、ヨーロッパ諸国を横断して、とうとうこのユーラシア大陸の端っこまでやって来て。まぁ厳密にいえば、ここはまだ端っこじゃないんですけど。この旅も長く続いてるなって」


()(ほど)。日向もそんな事を考えるのだな」


「微妙に失礼なこと言ってません?」


「しかし、確かにお前の言う通りだ。思えば遠くに来たものだな、俺達は」


「はい……。本当に、遠くに来ました」


 そう返事をした日向は、”最後の災害(テラ・バスタード)”が始まってからのことでなく、さらにもっと前……日向が『太陽の牙』を拾った時のことを思い出していた。


 あの剣を拾い、北園と出会い、街のマモノ退治から日向たちの活動は始まった。その中で本堂やシャオラン、それから日影やエヴァとも出会った。そして、今は宿敵である狭山とも。


 世界各地を回り、多数のマモノと戦った。

 日向たちと同じようにマモノと戦う猛者たちと知り合いになった。

 そんな猛者たちと、信念を懸けた決闘を繰り広げもした。


 マモノ災害を、そしてエヴァを止めるために、この星の別次元にも行った。そして狭山が裏切り、”最後の災害(テラ・バスタード)”が始まり、現在この星は殺されかけている。


 多くの戦いを経験した。

 多くの出会いを経験した。

 多くの別れを経験した。


 多くの悲しみを体験した。

 多くの怒りを体験した。

 多くの喜びを体験した。


 思えば、遠くに来たものだ。



◆     ◆     ◆



 小休止も終わり、日向たちはいよいよジ・アビス討伐に向かう。


 トラックに荷物を置いて、日向たちは徒歩で海へと向かう。もともとはリスボンの街まで見渡せるくらいに広がっていたであろうこの平野は、今は半分あたりのところで海に面している。日向たちの位置から海までの距離は、およそ一キロメートルといったところか。


 リスボンがあると思われる地点をよく見ると、大きな建造物の屋根や、小さな山の頂点に生えているのであろう木々の葉などが海面から少し出ている。


 日向たちが平野に足を踏み入れると、その先に見える海の表面が盛り上がってきた。それも一か所だけでなく、まるで巨大な水の壁でも作るかのように一斉に。


 そして出来上がったのは、もう見飽きたとも感じてしまう水の腕。しかし今回は一本一本が超巨大。ジ・アビスも全力ということなのだろう。


「オレたちを沈めるつもりだってんなら、むしろ今回は望むところだって感じだけどな」


「とはいえ、それもエヴァの能力あってこそだ。孤立したまま海に引きずり込まれるとマズいのは変わりないぞ」


 意気込む日影に、そう声をかけた日向。

 それから次に、ここまでついて来てくれた六匹の犬たちに視線を向ける。


「それじゃあ手筈通りに頼むぞ。俺たちが海に飛び込むまで援護を頼む。俺たちが飛び込んだ後は、ポメ以外の五匹は全力で撤退してくれ。無事に撤退できたら、俺たちが戻ってくるまでトラックの護衛を頼む」


「ワン!」


「ワオン!」


「そしてポメ。最後にもう一回聞くぞ。ジ・アビスを倒すために、俺たちと一緒に海に入るんだな?」


「ワ……ワン!」


「良い返事だ。うん、良い返事ということにしておこう。じゃ、行こうか……!」


 その日向の言葉を号令として、皆が戦闘態勢を取る。ジ・アビスが何を仕掛けてきても突破してやるという強い意思が感じられるようである。


 ジ・アビスの水の腕の群れも攻撃の姿勢を見せる。海から指先へ水を汲み上げ、五指に力をみなぎらせる様子を見せる。


 恐らくは五本の指からの水のレーザーが来る。それも、海面を覆う全ての水の腕が同じ攻撃を仕掛けてくるつもりだ。


「北園さんのバリアーを貫通した、あの水のレーザーを撃ち出してくる気か! しかもあの全ての水の腕が一斉に! たぶん滝を振り上げるみたいな攻撃になるぞ!」


「うぇぇぇ!? どうするのそれぇぇ!? どうしようもないでしょおお!? 水の壁が迫ってくるようなものなんだからぁ! どうするのヒューガぁぁ!?」


「大丈夫、考えてある!」


 水の腕が攻撃準備を完了。横一列に並んだ水の腕の群れが、五指から一斉に水のレーザーを放つ。岩をも裁断するであろう水流が綺麗に整列しながら迫る光景は、さながらアクション映画に出てくる即死不可避のレーザートラップのよう。このままでは、日向たちはまとめて千切りにされる。


 そこで日向は、まずエヴァに声をかけた。

 その次に皆に向かって声をかける。


「エヴァ、頼んだ!」


「分かりました! 撃ち抜け……”ゼウスの雷霆”!!」


「皆、死にたくなければ縦一列に整列!」


 エヴァが杖を掲げて、天から雷を落とした。

 これによって、日向たちの真正面の水の腕が一本、撃破された。


 水の腕が一本減ったことで、そこに水のレーザーの壁の隙間が生じる。あらかじめ縦一列に並んでいた日向たちは、その隙間をくぐり抜けるようにして水のレーザーの壁を突破した。


「今の、タホ川の時にも使った作戦だよね、日向くん!」


「そうそう。物量に惑わされちゃいけない、こっちを狙ってくる攻撃は限られている。これ弾幕ゲームの基本。だからこっちを狙ってくる水の腕だけ潰せば、後の水のレーザーは勝手に俺たちを避けてくれる」


 水のレーザーをやり過ごした日向たちは、ここぞとばかりに前進。海まで残り九百メートル。まだ十分の一しか進んではいないが、貴重な距離を稼ぐことができた。


 出だしは順調。

 はたして日向たちは無事に、ジ・アビスの懐である大西洋へ潜り込むことができるのだろうか。

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