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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1173話 広がる海

 タホ川を越えた日向たちは、ポルトガルのリスボンを目指し始めた日向たち。


 川の本流を避けて通ることができるルートのはずだったが、やはり地図に乗らない規模の小さな川はいくつかあった。時にはその川を避けて、時にはその川を強行突破し、日向たちは先へ進む。


 そして、四日後。

 日向の存在のタイムリミットは、残り19日。


 ジ・アビスやレッドラムがちょくちょく襲撃を仕掛けてくるので、予定より少し進むペースが遅れている。しかし日向たちはすでにポルトガルへと入り、もうあと一時間もすればリスボンが見えてくる。


 ポルトガルの首都リスボン。そこが大西洋に面したヨーロッパの大地の中で、ジ・アビスが潜む位置に最も近いとされている場所。


 一行は現在、森林地帯のなだらかな坂をトラックで走行中。山脈地帯が多かったスペインと比べると、ポルトガルの地理は今のところ、そこまで起伏に富んではいない。


 三体目の『星殺し』プルガトリウムを倒してから、実に五十と一日。

 長かったが、ようやく日向たちはここまでやって来ることができた。


「……というか、ジ・アビスを倒してからすぐにスピカさんとミオンさんが飛空艇を持ってきてくれないと、本当に俺のタイムリミットがやばい」


 かなり深刻そうな表情で、日向がそうつぶやく。


 しかし実際、先ほどの日向の発言はまさにその通りだろう。ジ・アビスはまだ四体目の『星殺し』だ。無事にジ・アビスを討伐できたとしても、まだあと三体の『星殺し』が控えている。


 ジ・アビスのもとにたどり着くだけでも五十一日かかったのだ。他の星殺したちも討伐までに同等の時間がかかる可能性は十分以上にある。そうなると、日向はもう詰みである。


「だ、だいじょうぶだよ日向くん! スピカさんとミオンさん、絶対に来てくれるから! 私も今、”精神感応(テレパシー)”で二人に頼んでおいたから!」


 荷台の隣に座る北園がそう言って、日向を励ます。

 その北園の気遣いが、日向の心に()みた。


 まもなく、このなだらかな丘を越える。地図によれば、この先には平野が広がっているらしい。ここからリスボンまではややこしい道など無く、一直線で行けるはずだ。


 そしてトラックは森林地帯を抜けて、丘を越えた。


 ……しかし。

 そこに広がっていた光景は、見渡す限りの緑の平野ではなかった。


「これは……海?」


 まず運転席の本堂がつぶやいた。

 あまりに驚いたのであろう。ブレーキを踏んで車を停止させている。


 それから日向たちも続々と身を乗り出して前方を確認。

 たしかに本堂の言う通り、目の前に広がっている光景は海だ。


「な、なんで? まだリスボンまでそこそこ距離があるはずなのに?」


 日向がそう言って首をかしげる。

 すると、シャオランが何かに気づいたようで、声をあげた。


「ちょっと待って! この海……というより、浜って言えばいいのかな? とにかく変だよ! 砂浜じゃない! 平野の途中からいきなり海になってる! なんかこの先の道路も海の中に続いてるし!」


「わ、ホントだ! 海に面している部分が砂じゃない! よく気づいたねシャオランくん! 私、なんか自然過ぎてわからなかった!」


「ほ、褒められた。へへ」


 つまるところ、考えられる可能性は一つ。ここはもともとリスボンへと続く平野だったはずだが、ジ・アビスの能力によって水がここまで冠水してしまっているのだろう。こうなると当然、日向たちが目指していたリスボンも海の中だ。


 沈んでいる場所は目の前だけの平野だけではない。右方も左方も、見渡す限り海が広がっている。いったいどれだけの広さの土地が海に沈められたのだろうか。リスボンが浸水しているところまでは予想していた日向たちだったが、陸地の一部ごと沈められているというのは想定外だった。


「ジ・アビスの能力の底知れなさを、ここに来てようやく体感したって感じだな……」


「一割程度の『星の力』で、これほどの洪水を引き起こすのは難しいはずです。ジ・アビスを構成するアーリアの民たちの怨みのエネルギーも加わっていると思われます」


「ちなみにエヴァ。ジ・アビスは今までと同じ場所から移動していないか?」


「はい。ずっと同じ場所に留まっています。動けない理由があるのか、それともあえて私たちを待ち構えているのか……」


「何にせよ、ロクな理由じゃないってことは確かだろうな。罠を仕掛けている可能性だって高い。ここからが正念場だ」


 ポルトガルの首都リスボンは、ジ・アビスが潜む地点から最も近い陸地だとは言ったものの、そのリスボンからジ・アビスまでの位置もかなり離れている。その距離たるや、直線にしておよそ百五十キロといったところである。


 しかし、海の中で悠長にキャンプなどをして一日を過ごすようなことは、さすがのエヴァの能力をもってしても不可能だ。つまり日向たちは、休み無しではるか遠く、海底深くに潜むジ・アビスのもとまで辿り着き、これを討伐しなければならない。


 つまり日向たちは、コンディションを万全の状態にして海へと潜るのが望ましいということだ。それは敵と戦いに行くにあたって当然のことではあるが、今回は輪をかけて、である。超長距離移動と一大決戦を続けてこなさなければならないのだから。


 日向たちの予定では、今日はリスボン付近でいったん休み、体調を整え、その次の日にジ・アビスの討伐を決行するつもりだった。しかしこの地点で海が広がっていることで、その予定も崩された。


 天秤にかけなければならない。今日はいったん引き返し、休息を取り、万全の状態でジ・アビスに挑むか。それとも日向の存在のタイムリミットに少しでも余裕を持たせるため、今すぐにでもジ・アビスを討伐しに行くか。


 悩ましい選択。

 そんな時、エヴァが日向に声をかけた。


「日向」


「どうしたエヴァ?」


「今までジ・アビスの気配が濃すぎて分からなかったのですが、どうやら海の中には相当な数の生物たちが生き残っているようです」


「え、そうなのか?」


「はい。そこで、例えばですが、私たちが海の中で出会った魚をマモノにして、そのマモノにしがみついて海を進めば、私たちが泳いでいくより遥かに早くジ・アビスのもとまで辿り着けるのではないでしょうか」


「たしかに……。うん、その方法いけるかもな」


「そのためには、私たちは一刻でも早くジ・アビスを討伐しに向かわなければなりません。海の中にはレッドラムらしき気配もあります。こうしている間にも海の生物たちがレッドラムに襲われ、数を減らし、私たちに協力してくれる個体も少なくなるかもしれません」


「つまり、今からジ・アビスの討伐に行けってことか……」


 慎重な日向としては、今日は一日待って明日になってからジ・アビスを討伐しに行く方向で行きたかった。しかしエヴァの案も魅力的であり、なにより自身のタイムリミットのためにもなる。


 しばし考えた後、日向はうなずき、口を開いた。


「……分かった。俺はエヴァの案に乗る。皆はどうする?」


「みんなと一緒ならきっとだいじょうぶ! 私も乗るよ!」


「運転ばかりで、そろそろ運動して身体を動かしたいと思っていたところだ。俺も行こう」


「あ、これもう反対意見とか言えない流れだね……。うん、まぁボクだって体力には自信あるし、特に反対する理由も無いし……」


「悩む理由だってねぇだろ。長く放置していても良いことなんかねぇヤツだ。さっさとぶちのめしちまった方が世のため星のためってもんだぜ」


 他の仲間たちも賛成。

 六匹の犬たちも首を縦に振る。


「よし、それじゃあ決定だな。とはいえ、まったく休まないのも良くないだろうから、ここでニ十分ほど小休止した後、ジ・アビス討伐作戦開始だ」


 その日向の結論に、この場にいる皆がうなずいた。

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