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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1171話 指示は要らない

 前方にはエネルギー系の攻撃を反射する六体の大盾型レッドラム。後方には北園のバリアーすら貫通する水のレーザーを放とうとしているジ・アビスの水の腕。日向たちは挟み撃ちにされた。


 おまけに北園が現在、ジ・アビスの水のレーザーに撃ち抜かれて負傷している。イビザンハウンドのイビも、北園に回復してもらって傷は塞がったものの、まだ体力が戻り切っていない様子だ。


 ここさえ突破できれば、この大西洋へ向かうための最終関門であるタホ川を突破できる。だがしかし、その最後の壁があまりにも厚い。


 後方のジ・アビスの(ねじ)れた水の腕はもう間もなく水のレーザーを撃ってくる。前方の六体の大盾型とも間もなく接敵する。


 もはや、この状況をどうするか、ゆっくり考えている暇など一秒だって無い。そう日向が判断した、その時だった。(ねじ)れた水の腕の後ろから、猛スピードで炎の塊が一つ飛んできていた。


「おい水野郎! オレのこと、忘れてんじゃねぇだろうなッ!」


 日影だ。はるか後方にてジ・アビスの水の腕を相手していた日影が、この局面で戻ってきた。そして日向は、この状況で来てくれた日影を見て、これならなんとかなるかもしれないと感じた。


 しかし同時に日向は、自分が今から皆に指示を出していては状況が間に合わなくなる、とも感じた。確かに日影が戻ってきてくれたおかげで状況が好転しそうな予感はした。しかし、具体的に日影や他の皆をどう動かして、どんな作戦を立てればこの状況を打破できるか、まだ頭の中の整理が追い付いていない。


 迷っている時間は零コンマ一秒だって無くなった。

 だから日向は、皆を信じてみることにした。

 ここまで一緒に戦ってきてくれた皆を、信じることに。


「もう細かい指示は出さない! 各自、状況に合わせて最善と思う行動を取ってくれ! ちなみに俺はジ・アビスの水のレーザーに対抗してみる!」


 その日向の声を聞いて、皆は自分自身にできることを即座に模索。他の仲間に任せるべきこと、自分がやらなければならないこと、一瞬のうちにあらゆるパターンを考える。


 そして、それぞれがそれぞれの役割を決めて、状況が動き出した。


 まずは日影。炎を(まと)いながら猛スピードで水の腕の背後から接近し、自分自身ごと突撃して横斬りを繰り出す。水の腕が手首から斬り飛ばされた。


 だが斬り飛ばされた水の手が、まだ攻撃を止めようとしていない。宙を舞いながらも、引き続き日向たちが乗るトラックを指さし続けている。


 しかし問題ない。これは日向も想定済み。日影がジ・アビスの腕を斬り飛ばし、それでもジ・アビスは攻撃準備を中断しない。そこまで見越して、日向は『ジ・アビスの水のレーザーに対抗する』という行動を選んだ。


「あのジ・アビスの水のレーザーは、恐らく洪水で水の腕とタホ川が(つな)がっていたからこそできた芸当だ。川から膨大な量の水を()み上げて、それを水の腕に集めて発射してたんだ。斬り飛ばされて手だけになった今のジ・アビスに、もう一発目みたいな貫通力のある水流は撃てないはず!」


 そして、ジ・アビスが水のレーザーを発射。日向の予想通りなら移植は衰えているはずだが、それでも凄まじい勢いだ。トラックに直撃したらひとたまりもないだろう。


 これに対して日向は”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”で迎え撃つ。


「喰らえぇぇっ!!」


 紅蓮の炎が、か細い激流を包み込む。


 本来の水のレーザーなら、この日向の炎をも貫く威力があったはずだ。しかし水のレーザーは日向の炎を突破できず、途中で焼き尽くされて蒸発した。


 ジ・アビスの水のレーザーはやり過ごした。

 だが、まだ前方に六体の大盾型レッドラムが残っている。

 それに、モタモタしていたら水のレーザー第三射が来てもおかしくない。


 それは、彼女も考えていたのだろう。

 だからエヴァが、手首を斬り飛ばされた水の腕に雷を落とした。


 雷を落とされた水の腕は、水飛沫(みずしぶき)と共に爆散。

 それを確認したエヴァが、運転席の本堂に声をかける。


「仁! 水のレーザーは潰しました!」


「承った! そして洪水そのものはエヴァの地割れが食い止めてくれている。後ろからの追撃が来ないのならば、いったん車を停めて俺自身も大盾型の殲滅に加わることも可能! 皆、トラックに(つか)まれ! (ある)いはすぐにでも飛び出せるよう準備!」


 その本堂の声を聞いて、日向と北園はトラックの荷台にしがみつく。身体能力に自信があるシャオランとエヴァは、トラックが止まると同時に飛び出せるよう身構える。負傷していたイビまでもが身を起こし、戦う用意をしているようだ。


 本堂がドリフトをかけつつ、運転席が左に来るようにトラックを急停止させた。それと同時に荷台からシャオランとエヴァ、そしてイビが飛び出した。


 さらに、その停止したトラックの両側を通過するように四匹の大型犬も大盾型へ突撃。ここで速攻を仕掛けて、一気に殲滅して突破するのが狙いである。


 まず先陣を切ったのはスパだ。全身の毛を鋼のように硬質化させ、回転しながら飛び上がって体当たりを繰り出す。


「ウォォンッ!!」


「GUUUUU!!」


 鋼のように硬く、体格も自動車とさほど変わらないほどに大きいスパ。そんなスパが繰り出した回転体当たりは、それこそ自動車の衝突のような威力だった。


 だが大盾型のレッドラムはこの攻撃をしっかりガード。スパが大盾型を仕留め切ることはできなかった。


 しかし無駄な行為ではない。スパが勇敢に先陣を切ってくれたおかげで、六体の大盾型たちの注意がスパへと向いた。その隙に他の仲間たちが総攻撃を仕掛ける。


 まずはシャオラン。手近な一体に狙いをつけて、真正面から拳で殴りかかる。


「やぁぁッ!!」


「小賢シイ!」


 大盾型は左腕の大盾を振るい、シャオランに殴りかかる。しかし次の瞬間、シャオランの姿は消え、大盾型の背中にシャオランの肘鉄が突き刺さり、胴体に穴が開いた。


「GAAA!? イ、イツノ間ニ、俺ノ背後ニ……」


「ちょっと相手の視界から外れるように動いて、風の練気法”順風”まで組み合わせれば、この通りってワケ」


 そのシャオランの隣で、エヴァが二体目の大盾型と交戦。

 杖を構えて、大盾型に殴りかかるつもりだ。


「粉砕せよ……”ティアマットの鳴動”!!」


「馬鹿メ! 震動エネルギーモマタ”反射(リフレクト)”ノ対象ダ!」


 そう言って大盾型が赤いエネルギー壁を(まと)った大盾を構える。エヴァの攻撃を跳ね返すつもりだ。


 しかしエヴァは、杖を構えていた左手を放して、その左手から植物の種のようなものを大盾型の足元めがけて()いた。すると撒いた種が急激に成長し、種から鋭い根っこが一斉に伸びてきて、大盾型のレッドラムを前後左右から串刺しに。


「GAAAAA!? コ、コレハ”生命(ライフメイカー)”ノ能力!? 最初ノ詠唱ハ嘘ダッタノカァ……!」


「はい嘘です。ちなみに、こうしろと私に吹き込んだのは日向です」


 さらに、運転席から飛び出した本堂が、素早く三体目の大盾型の背後へと回り込み、右腕の刃で大盾型の首を一閃。頭部を失わせて仕留めた。


 四体目、五体目の大盾型は五匹の大型犬たちが一斉に飛び掛かって抑え込む。倒しきれずとも、トラックがここを突破するまで大盾型の動きを封じてくれれば、この場は突破できる。


 そして大盾型、最後の一体。

 トラックの荷台からポメが顔を覗かせて、大盾型を狙う。


「アウウウウウ……!」


「クク、馬鹿犬メ。貴様ノ電撃ノ能力デハ反射サレルダケダトイウノニ。ソンナニ撃チタイナラ、撃ッテクルガイイ」


 そう言って大盾型は、どっしりと左腕の大盾を構える。

 大盾型の身体をすっぽりと隠してしまうほどの、分厚い盾だ。


 そして、この瞬間を()()()待っていた。

 初めからポメには「雷のビームを撃つフリをするように」と頼んでおいた。


 大盾型が盾を構えたことで、前方に対する視界が制限される。日向はその隙を見逃さず、すぐさま荷台から飛び出した。身を低くして大盾型の背後へ潜り込み、”点火(イグニッション)”の剣で大盾型の背中を刺し貫いた。


「もらった! これでも喰らえっ!」


「GUUUAAA!? ウ、後ロ……ダト……」


 六体目の大盾型は、これで絶命。五匹の大型犬たちが相手をしていた四体目と五体目も、ちょうど仕留めたようだ。


 これにて大盾型は全滅した。

 全員が一斉に攻撃を仕掛け、あっという間に終わった速攻劇だった。


「良し! 全員、急いでトラックに乗り込め!」


 本堂が皆に声をかけ、皆も急いで荷台へ。

 ちょうど、空中戦を担当していた日影も戻ってきた。


「そっちも片付いたか。これで突破か?」


「そのようです。さすがにもうジ・アビスも追っては来れないでしょう」


 日影の質問に、エヴァが返答。

 トラックも動き出し、この場を後にする。


 こうして日向たち一行は、大西洋へ向かうための最大の難所、タホ川の突破に成功した。 

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