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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第5章 人の心 マモノの心
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第106話 謎の女性 スピカ

「ワタシの名前は『スピカ』ってことにしとこうか」


「『しとこうか』って、思いっきり偽名だって言ってるようなもんじゃないですか……」


「おお、よく分かったねー少年。もしや天才では?」


「なんなんだアンタ……」



 スピカと名乗った女性は、あいも変わらずのらりくらりとしている。オーバーコートに革のブーツに旅行カバンと、その恰好はとても登山客には見えない。


 一方で顔立ちは美しく、髪は艶やかな濃い茶色のロングヘアーと、どこかのお嬢様を思わせる風貌でもある。ちなみに、厚手のコートが少し膨らむくらいには胸も結構、ある。


 その言動も相まって、彼女は非常に独特な雰囲気の人物であった。



(……日向、どう思う?)


 本堂が、小声で日向に話しかけてくる。


(どう思う、とは?)


(あの女性、今回のマモノ事件の関係者、という線は無いか?)


 マモノが蔓延る森の中で、たった一人うろついていた、他者の心が読める女性。確かにただの一般人だとは思いにくい。一体何の目的があってここにいるのだろうか。

 普段ならば狭山が通信機で彼女に話を聞いてくれるのだろうが、あいにく現在は電波妨害の能力を持つ霧の中。尋問するなら自分たちで行わなければならない。


(……というワケで、日向、インタビュー頼む)


(え、俺!? コミュ障が服着て歩いているような人間ですよ俺は!? 年長者の本堂さんが行ってくださいよぉ!)


(俺はほら、二か月のブランクがあるし。把握できてない事情とかあるかも)


(あ、ずりぃ……! ブランクって、さっきの戦闘、現役の俺よりいい動きしてたじゃないですか!)


(まぁそう言うな。実際のところ誇張抜きで、この中で他者と落ち着いて話が出来る人物はお前だと思ってる)


(そんなの、ただの見込み違いですよ……)


「おーい、どっちでもいいから要件があるなら言っておくれー」


 小声で話し続ける日向と本堂に、スピカが声をかけてくる。

 他者の心が読めるという彼女には、小声の内緒話も通じないのだろう。

 日向は観念して、スピカに話しかけた。


「えーと、では、あなたに色々と聞きたいことが……」


「おっと、積もる話をするならランチでも食べながらにしようよ」


 そう言うと、スピカは旅行カバンを開き、中からコンビニパンを数個取り出す。

 そして、それを日向たちに押し付けてきた。


「はいどうぞ。おいしいよー」


「あ、はい、どうも……」


「いや、オレたち携行食持ってきてるだろうが。わざわざ貰うのも悪いだろ」


「けど、あんなにニコニコして渡してくれた手前、そう言って突っ返すのも何だかなぁ……」


 日向と日影が言い合っていると、スピカが日影にもパンを渡してきた。


「はいどうぞー」


「あ、ああ。どうも」


「おい携行食はどうした。お前は返せよ」


「テメェ」


 スピカは五人にパンを配り終えると、続いてグラスホーンに歩み寄る。


「キミも何か食べるかい? 奈良から持ってきた鹿せんべいが余ってるよー」


「キィ」


「お、欲しいかい? よしよし、お食べー」


 スピカは旅行カバンから鹿せんべいを取り出すと、紙の皿に乗せてグラスホーンに与えた。

 グラスホーンは鼻を近づけ臭いを確かめると、鹿せんべいをパクリと食べだした。


 こうして、霧の立ち込める森の中、唐突にランチタイムが始まった。



◆     ◆     ◆



「ん、おいしいかい? それは良かった」


「…………。」


「『ここで何してるのか』だって? 道に迷ってるだけだよー」


「…………。」


「『ワタシの正体について』? そんな御大層なものじゃないよー」


(本当に何なんだろうなこの人)


「あ、日影くん、今『本当に何なんだろうなこの人』って思ったでしょー?」


「俺は日向です……」



 六人と一匹で取り囲むランチは、別の意味で会話が無かった。

 日向たちが口を開く前に、スピカが心の中を読んで答えてしまうのだ。

 日向たちは、口を挟む余地が無かった。


「で、私の正体だけど、アレだよ私は。えーと、アレ。何だっけ」


「旅行客?」


「いや違うよー。家を持たずあちこち放浪してて……」


「ホームレス?」


「あー、そうとも言えるかも……。けどそうじゃなくて、もっとこう、カッコ良く言う感じで……」


「根無し草?」


「あ、惜しい! もうちょっと違う言い方で! こう……退廃的な感じで!」


「……世捨て人とか?」


「おお、それそれ! つまるところ、ワタシは世捨て人なのだな」


(変人……)


「変人じゃないよー、世捨て人だよー」


「あ、読まれた」


 日向とスピカがやり取りを交わす。


 その横で、本堂がスピカを見つめている。

 口元に手を当て、目線を少し落としながら、ある一点を凝視している。


「………ふむ」


「おやおやー? 何考えているのかな?」


「いや失敬。お気になさらず。それより、いくら世捨て人と言っても、何の目的も無くこんな森の中をウロウロしてたとは考えにくい。それも、マモノが蔓延る森の中を。何か他に目的があったのでは?」


「そうだねぇ……確かにあるよ。ワタシの、今の人生そのものと言ってもいい目標がねー」


「……聞かせてもらっても?」


「別にいいけど、信じるかな? ワタシねー、王子様を探してるんだー」


「……こんな山の中にですか? ムサい山男が好みのタイプであると……?」


「あはは、違うよー。文字通りの王子様だよ。王子様がまだいるとしたら、どこかの秘境でひっそりと暮らしてるか、人間の社会に混じりながら暮らしているか、どちらかだと思うんだよねぇ」


 スピカの言い分からすると、『王子様』というのは『理想の男性』という意味ではなく、誰か特定の個人を指しているようだ。それも、まさしくやんごとなき血筋の誰か。その人物を探すため、スピカはこんな森の中を彷徨っていたらしい。


(しかし、秘境かあるいは社会の中か……なんて両極端な選択肢なんだ。一体どんな人物をさがしているのだろう)


 本堂は推察に没頭し始める。

 その傍らで、今度は北園がスピカをキラキラした目で見つめていた。


「スピカさんスピカさん! あの、私……」


「……おや、キミも超能力者なんだね」


「そうなんです! 私、自分以外の超能力者に会うなんて初めてです!」


「そっかそっかー。ワタシには結構、超能力者の知り合いがいたんだけど、みんなもういなくなっちゃってねー。ワタシもお仲間に会えて嬉しいよー」


 言いながら、スピカは北園を見つめる。

 すると、突然驚いたような表情になった。


「へえ……! キミ、超能力が七つも使えるのかい! 凄いねー! それほどの数を一人で使える者なんて、ワタシの仲間でもそうそういなかったよー!」


「そうなんですか? 私って凄いんだ……!」


「うんうん、凄いよー。ええと使えるのは、発火能力パイロキネシス凍結能力フリージング電撃能力ボルテージに……」


「あ、電撃能力そうやって語尾ルビるんですね」


「うん。ここの言語に合わせるならね。それと念動力サイコキネシス精神感応テレパシー治癒能力ヒーリングと、あとは……予知夢かぁ。そうかー、キミが予知夢を……」


「予知夢? 予知夢がどうかしたんですか?」


「ううん、何でもないよー。これからも精進したまえー」


「はい! 頑張ります!」


 笑顔で頷く北園。

 同じ超能力者仲間を見つけたからか、随分とスピカに懐いている。

 そしてスピカは、日向に向き直る。


「彼女、良い子だね。しっかり守ってあげなよー?」


「え、ええ。俺じゃあまり役に立てないかもしれませんけど……」


「またまたー。『自分が彼女を守ってあげたい』って心の中では言ってるよ?」


「あ、ちょ!? そういうことを口に出すのは止めてもらえませんかね!?」


 慌てながら、日向は北園の方を見る。

 いきなりこんなことを言われて、迷惑していないだろうかと思って。

 しかし北園は存外、笑顔であった。


「えへへー。じゃあお言葉に甘えて守ってもらおうかなー?」


「あ、いや、その、えーと、ガンバリマス……」


「ワタシとしても、その子にはぜひ無事でいてほしいんだよねー。今となっては数少ない、ワタシたちの仲間なんだからね」


「そういえば仲間がいたって、チラッと言ってましたね。きっとその人たちも超能力者なのでしょうが……。スピカさん、あなたは一体……?」


「ふふふ、さすらいの世捨て人さんなのだ」


 日向の問いを、やはりゆるりとかわすスピカ。

 只者ではないのは間違いないが、その腹の内を明かす気は無いらしい。



「……さて、ワタシの話もいいけれど、そろそろこの子の話もしようよ」


 そう言って、スピカは後ろに座っているグラスホーンを見やった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ちなみに、厚手のコートが少し膨らむくらいには胸も結構、ある。 う~ん。本堂くんが、ほっとかないかも! 男のチラ見は、女のガン見っす~! って、なことになる前に誰か教えてあげてね~!
[一言] シャオランの心理的な葛藤が前回操られた件で浮き彫りになり、そこからギンクァンとの戦いを通じて上手く向き合い方を見つけていく……というのが、実に良く出来た構成だな~、と感じました! そして、…
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