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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1166話 落下を阻止せよ

 エヴァの重力操作を利用して、上空からタホ川を渡ろうとした日向たち。だがしかし、ジ・アビスが発生させた、天にも昇る勢いの水の竜巻に巻き込まれてしまった。


 激しい水の流れにより、日向たちは現在、水の竜巻の中で散り散りになってしまっている。水の中でもみくちゃにされて平衡感覚も狂わされている。前後左右も、自分の身体の向きもどうなっているか分からない。洗濯機だってここまで激しくは回らない。


 そして日向たちが散り散りになっているということは、エヴァも孤立してしまっているということ。彼女がいなければ、日向たちは水中で呼吸ができない。このまま息絶えるまで、この渦の中に閉じ込められることになる。


 そんな中、日向が動く。

 水中の中でかろうじて平衡感覚を取り戻し、周囲の状況確認。


(俺の周囲に、他の皆はいないみたいだ。そしてここは水中だから、『この技』の熱波も水によって押し留められて、皆を巻き添えにすることはたぶんない。今なら使える! 太陽の牙、”最大火力(ギガイグニート)”!!)


 日向が持つ『太陽の牙』から強烈な熱波が発せられる。それによって日向の周囲の水が爆発したかのように一瞬で蒸発。日向が水の中から脱出した。


 日向の剣から熱波が発せられたのと同時に、刀身から緋色の光刃が生成される。日向の身長の何倍にも及ぶその長大な光刃を、日向は身体全体でぶん回すように振るった。


「おりゃああああっ!!」


 振るわれた光刃が斬撃の熱波を放ち、水の竜巻を斬り飛ばした。巻き込まれていた仲間たちも解放され、宙に投げ出される。


 日向の活躍で水の竜巻は払われたが、まだ竜巻の上部分を斬り飛ばしただけだ。日向たちの下にある水の竜巻の根元はまだ残っており、もう一度日向たちを捕らえるべく再生成されている。


 これに対して、日向は空中で体勢を変え、真下にある水の竜巻めがけて『太陽の牙』を振り下ろす。


「太陽の牙……”星殺閃光(バスタードノヴァ)”ッ!!」


 振るわれた『太陽の牙』の灼熱の光刃から、その光刃と同じくらいの大きさの緋色の熱線が放たれた。


 水の竜巻の中心部めがけて撃ち出された”星殺閃光(バスタードノヴァ)”は、水の竜巻を一瞬にして貫き、蒸発させ、吹き飛ばし、そして押し潰した。川の表面に着弾しても熱線の勢いは衰えず、その川底まで貫通して深い穴を開けてしまうほどだった。


 水の竜巻は消滅したが、日向たちは空に投げ出され、宙を舞う。北園やシャオラン、日影やエヴァなど、自力で飛ぶことができる者たちはそれぞれ体勢を立て直したが、このままでは飛べない者たちが川へ落下してしまう。ジ・アビスが支配するタホ川の中に、だ。


「このままでは、皆が落ちてしまいます!」


「た、助けないと! 私の位置からだと、日向くんが一番近いから日向くんを助ける!」


「オレが駆けつけても、”オーバーヒート”の炎で焼いちまうから無理だ……!」


「ぼ、ボクも皆からけっこう離れてる……。頑張ってみるけど、追いつけるかな……!?」


 北園、エヴァ、シャオランの三人が、落下する仲間たちを助けるためにそれぞれ動く。救助に参加できない日影は、せめてジ・アビスが手出しをしてこないように川を見張る。


 こちらは、どうすることもできず垂直落下中の日向。

 このままいくと真下の川にドボンだ。


「ああああああ落ちる! 水の竜巻を振り払ったのは良いけど、その後のことまでは考えてなかった! でもあのままじゃ皆そろってどざえもんだったし仕方ないよね!」


「日向くーんっ!」


 北園がすごい勢いで飛んできて、抱きしめるように日向を空中でキャッチ。しかし彼女の腕力では日向の重量を支えることまではできず、つられるように一緒に落下してしまう。


「き、北園さん無理しないで! このままじゃ一緒に落ちる!」


「だ、だいじょうぶ……! このまま向こう岸を目指して、地面の上に着陸するから……!」


 北園はそう答えて、落下しながらも前方へ進み続け、陸地を目指す。


 だがそこへ、ジ・アビスが川から水の腕を伸ばしてきた。亡者が生者を水底へ引きずり込もうとするように、幾本もの腕が二人に襲い掛かる。


 しかし、川を見張っていた日影がいち早く駆けつけてくれた。炎を纏って突撃しながら『太陽の牙』を振り回し、大木ほどもある水の腕を次々と()ぎ払う。


「おるぁッ! どっか行けッ!」


 日影が水の腕を引き受けてくれたおかげで、日向と北園の二人は順調に前進。そしてようやく陸地に到達した。日向は空中で北園と身体の位置を入れ替え、自分が北園の下になるようにして、ズザザザザと背中で滑るように着陸。


「ぐおおおおお背中と後頭部がぁぁぁ」


「日向くんだいじょうぶ!? ご、ごめんね下になってもらっちゃって!」


「いいよいいよ、助けてもらったんだから、これくらい」


「うん! 本当に、助けることができてよかったぁ……」


 よほど安心したのだろう。そのまま北園は下になっている日向に抱き着く。助けることができた彼の(ぬく)もりを噛みしめるように。


「ちょ、ちょ、北園さん、まだジ・アビスの近くだし、他の皆の安否も分かってないから、さすがにこんなことしてる場合じゃ。あとお互い服がびしょ濡れなのが非常に気まずい」


 日向は慌てて北園にそう声をかけるが、当の日向も北園を引き剥がすのが惜しく感じ、手を動かすことすらできていない。


 そんな二人を助けた功労者である日影は、空中で何とも言えない表情をしながら二人を見下(みお)ろしていた。


「日向の野郎が幸せそうなのがムカつく……でも北園が幸せならそれで……いや、やっぱり日向の野郎が幸せそうなのが腹立つ……」



 一方、こちらはエヴァの様子。


 エヴァは素早く重力場を再生成し、落ちゆく本堂と六匹の犬たち、それからトラックを止めようとする。焦っているのか、その詠唱も普段より早口だ。


「落ちよ、”アバドンの奈落”!!」


 重力場が生成されて、イビ、ピレ、スパ、シベの四匹の犬たち、それからトラックは落下が止まった。しかしラフとポメ、それから本堂が(とら)えられず、二匹と一人はそのまま落下してしまう。


「しまった、重力場の大きさが十分じゃなかった……! もう私じゃどうすることも……!」


「ぼ、ボクもちょっと追いつけそうにないよぉぉ!?」


 落ちる本堂たちを、エヴァとシャオランは絶望の表情で見送ることしかできない。


 一方、本堂はポメを抱いて落ちながら、この状況をどうにかする手立てを考えている。だが、彼の頭脳をもってしても、この状況を打破できる案が思い浮かばない。


「キ、キャン!? キャン!?」


「この状況、どうするか……。電気の能力、風の能力、肉体改造、そしてこのポメの能力、これらを組み合わせて落下を防ぐ手立ては……いや、無理か。俺達の能力ではどうすることもできん。いっそ、川に落ちてからの行動を考えた方が建設的……」


 ……しかし、その時だった。


 落下していた本堂が、何かの上に落ちた。川の水の中ではない。モフっとした、クッションのように気持ちの良い何かの上にだ。


「何だ……? 水の中に落ちなかった……?」


「ワン」


「む、お前は……」


 本堂が落ちたのは、一緒に落ちていたラフの背中の上だった。ラフは犬かきのような動作で空中をゆっくり飛んでいる。恐らくは”暴風(トルネード)”の能力によって、この動作で風を起こし、浮力を生み出して空中に浮かんでいるのだろう。


「お前、飛べたのか……」


「ワン!」


 本堂はポメを抱いたままラフの背中に掴まって、空中をゆっくり前進。本堂たちの状況を把握したエヴァとシャオランが護衛についてくれて、ジ・アビスの妨害にも負けず、無事に向こう岸へと着陸した。


「仁、ポメ、無事でよかったです……。そしてラフ、飛べるならもっと早く教えてください……」


「ワン」


「エヴァ、ラフはなんて言ってるの?」


「『教えなかったわけじゃないよ。やってみたら、なんか飛べた』だそうです……」


「き、気が抜けるなぁ……」


 ともあれ、絶体絶命のピンチをどうにか切り抜けた六人と六匹。無事に川を渡り切った以上、こんなところに長居は無用だ。ジ・アビスの追撃が来る前に、トラックに乗り込んでさっさとこの場を離れることにした。

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